農業の醍醐味.27回


はじめに
 5月14日佐賀県の七山村天水(あまみず)の天水クラインガルデン「おいでな菜園」を訪問させて頂いた。今号ではここの初代代表吉原久之さんの村おこしと家庭菜園への取り組みについて報告させて頂く。

村おこしのはじまりと七山村
 今から16年前の昭和62年19名の仲間で村おこしグループ「うーばんぶう七山」を起こした。現在は様々な試練を乗り越え7名の仲間で活動している。村おこしを始めた動機は吉原さんが、膵臓を患ったことから始まる。それまで大量に飲んでた酒とタバコをやめた。そのお酒とタバコで浪費していたお金を良いことに使おうと思ったからである。また、村おこしは酒やタバコに変わるストレス解消法でもあった。
 まず始めたことは、月2回以上各地の先進的な村おこしや、各種イベントを見て回ることであった。最初から月2回以上見学すると決心し、行けない月はペナルティーとして翌月3回出かけると言うように最初の決心を今日まで続けているという。全国各地、特に九州は鹿児島県をのぞく全県を隈無く回り回数は400回を越えた。クラインガルデンを始めるときも、全国的に有名になった群馬県倉淵村のクラインガルデンへ見学に行った。先進地の村おこしや、各種イベントからの学びに触発され、七山村の村おこしに取り組んだ。
 七山村はその名のとおり、十坊山、浮岳、女岳、笛岳、穀地蔵山、椿山、岩屋山と七つの山に囲まれた大半が傾斜地の緑豊かな村である。田は少なく畑が多い。畑のほとんどはだんだん畑の変形畑であり主に蜜柑が栽培されていた。
 村を流れる清流は8つの滝と淵を作り、その中の観音の滝は日本の100選に入っている。また、松浦八景にも数えられている。清流の一つの源流地点には樫原湿原がある。樫原湿原には100種類以上の植物、30種以上の虫、40種以上の鳥たちがいて、訪れる人々を迎えてくれる。セブンブリッチロードという村の中心部から観音の滝まで七つの橋で結んだ遊歩道が整備され、清流に沿って散歩も楽しめる。その他、温泉、スキー場、ゴルフ場、渓流つり等観光資源は豊かである。そんな中で村おこしは次々と進められていった。

七山村のイベントと観光施設
 七山村のイベントは多い。ペンタ共和国の感謝デー、ニジマス釣り大会、夏祭り、産業祭等である。中でも、8月第三日曜日に行われる「国際渓流滝登りinななやま」は、村おこしの一大イベントである。参加者は最近では1000人を越し、外国からの参加も多いという。ヘルメットをかぶり、救命胴衣を着け5人一組で観音の滝の渓谷を上がる。それに、村の自然にふれて頂くポイントが数箇所あり、その一つにクラインガルデンがあり、冷えたトマトを食べて頂いているという。
 施設としては、宿泊施設「ロフティー七山」(村営キャンプ場)がある。緑に抱かれ、星に抱かれて宿泊でき、山菜取りや、ヤマメ、ニジマス釣りができ農産物直売所で低農薬の新鮮な野菜が買え、各種イベントにも参加できる。利用者は年間4000人を超え、順番待ちになっているという。平成11年から「おいでな菜園」が運営の委託を受けている。
 農産物直売所「鳴神の庄」には、七山村の新鮮で、低農薬、低価格の野菜、果物、加工品が並んでいる。県外からのお客さんも多い。村おこしと同時に始まった「鳴神の庄」の売り上げは年間4000万円くらいから始まり、売り上げは年々伸び平成7年には2億5千万円になった。その後微増であるが人気は高い。

クラインガルデンへの取り組み
 さて、クラインガルデンの取り組みであるが、その動機は次のようなことであった。
 「鳴神の丘運動公園」建設の話が村で起こった。七山村は平らなところがない。運動公園を作るには平地にするために。山を切り開いて13万m3の土を持ち出さなかればならない。そこで村おこしをしている吉原さんのところへ村役場からその土を利用して埋め立てクラインガルデンを始めないかとの話があった。当時クラインガルデンは、村おこしの目玉のようになっていた。「七山村は博多から車で約1時間と立地条件がよい」「博多には金持ちがいっぱいいる」「菜園は400区画出来るから充分に採算は合う」と熱心に勧められた。しかし、残土を入れるため蜜柑の木を伐ると3〜5年は収入がストップしてしまう。叉、大雨で埋め立てた土が一気に流されてしまうのではないかという心配があった。村は土が流されないような工事は十分出来る等熱心な説得が続いた。心配はあったが、農業生産基盤整備の「観光農園区画整理」として国、県、村から造成のために97%の補助金が出ること、だんだん畑の変形畑しかなかった村に、長方形の立派な畑が出来ること、ハウスも出来る魅力に惹かれ、土が流されたら流されたときだと引き受けてしまった。

クラインガルデンの概況
 経営は、6世帯(兼業農家4軒、自営業1軒、老人世帯1軒)の民間企業体として、天水クラインガルデン「おいでな菜園」として始めた。
 平成4年に計画が持ち上がり、平成5年に造成、平成6年に建設して平成7年にオープンし現在に至っている。面積は3.9haで、その中に「観光農園滞在施設」がある。この施設は国と村で60%の補助を受け8人用長期滞在用施設6棟、8人用短期滞在型施設2棟管理棟他の施設がある。
 事業費は造成工事(釣り堀の池、道路、排水、フェンス等)で1億7500万円、滞在施設や管理棟、井戸、ポンプ等で6700万円。内3200万円を事業体で負担している。
 当初の計画では、菜園は1区300uで400区画を計画していたが、オープンに先立って村の呼びかけにより見学会を開いたところ13軒しか見学者がなかった。 そこで菜園は70区画とし、イベント用の芋畑、ミカン園、柿畑、ハウス等をつくった。現在は一人で2〜3区画使う人もいて40区画くらいが使われている。
 事業費が、村の計画よりオーバーする等計画の甘さで様々なしわ寄せや苦労があったが、現在では事業体の返済は順調にいき、配当も出ているという。
 貸し農園は1区画1年15000円。長期滞在用ログハウス1年契約約50万円、敷金10万円。短期滞在用ログハウス1泊5名迄15000円1名増す毎1000円。オートキャンプ1区画1000円、持ち込みテント1000円。釣り竿、はんごう、木炭や薪等は有料で貸し出している。

菜園は自然農法で
 菜園を貸し出すについては様々な契約をするが、その時なるべく自然農法にして頂くよう説明する。EMを使用している畜産農家の堆肥を販売しているが最初はサービスしているという。ボカシ、ストチューも販売している。熱心な人達にはボカシ作りの勉強会を行い、みんなで仕込んでいる。野菜作りの指導は、長年自家用の野菜を作ってきた事業体の奥さん方が担当している。男は蜜柑しか作ったことがないらしい。

クラインガルデンのイベント
 クラインガルデン「おいでな菜園」にもイベントがある。4月第一日曜日には「菜園コンクール」がある。前年の菜園の出来映えを審査し表彰する。賞は「EM大賞、がんばりま賞」等全員に行き渡るようにしている。賞品は、主に堆肥で、持ち寄った野菜、果物、EMもある。また、ビンゴゲームやクイズなど楽しいイベントにしている。叉、手作りの酒、焼き肉、山菜の天ぷら等も出している。
 10月には「体験農業ツアー」で村の産業祭に合わせて蜜柑狩りや芋堀りをしている。12月は「餅つき交流会」。村長さんと助役さんが1年交代で参加し、村の人々と、家族やお孫さんをつれて参加した人達との交流会が行われる。
 ここには都市近郊にある家庭菜園では味わえない豊かな自然にふれ、村の外から集まった人と村の人、家庭菜園をしている者同士、人と人との繋がり交流がある。ただまだ都市近郊にある家庭菜園のように盛況ではない。しかし、当初ほとんど年輩の人達であったのが、最近では若い家族が増え、2割ぐらいを占めるようになっている。週末滞在型の家庭菜園であるクラインガルデンは七山村では生きていた。釣り堀や、各種イベント、滞在施設の充実等村おこしに力を入れ、「おいでな菜園」に訪れる人は年間5000人を越えるという。

おわりに
 吉原さんたちの将来の希望は、コテージに泊まる人の朝食のサービスや、民宿も考えたいと言っている。そして、補助金を受けないで、制約のない自由な発想の出来る村おこしを続けて行きたいという。村の活性化は、行政だけで出来ることではなく、自立した住民のパワーが大きい。国や地方の財政を圧迫している環境対策費、医療費は、EMを活用し、住民が環境や健康問題に取り組み、自然や命を大切にした村おこしに取り組めば、多くの予算を掛けなくても解決できることだと思う。
 七山村は杉や檜が多い。吉原さんは村を訪れる人達に喜んでもらおうと自分の山8反歩にモミジを植えたという。今では一つの観光スポットになっている。その後村ではモミジ等の広葉樹を植えると補助金を出すようになったという。吉原さんは村おこしのためにお金を使うことは少しも惜しいとは思っていない。村おこしこそ生き甲斐となっている。地域興しは人であると改めて学ばせて頂いた。


↑page top


|TOPページへ|