農業の醍醐味.28回


はじめに
 今回は7月29日新潟県豊栄市の豊栄EM普及会を訪問した。豊栄EM普及会の活動状況は、今年2月の「第7回自然農法・EM技術交流会横浜大会」で発表して頂いた。(事例集2002 126〜128頁)今回は、農を中心とした地域興しについて取材させて頂いた。お話し頂いたのは、会長の永井紘さんと、長年自然農法に取り組み、EM生ごみリサイクルにも古くから取り組んできて普及会誕生の原動力となった幹事の山口節子さんであった。会長の永井さんは、新潟県庁にずっとつとめてきたが、少し早めに退職されて幾つかのボランティアに精力的に取り組んでいる人である。豊栄EM会が誕生して7年になるが、2代目の会長さんで、会長になって3年になるという。

会の紹介
 豊栄EM普及会は、平成8年25名で立ち上げた。現在80名の会員で、会長永井さん、幹事長草野共栄さん、幹事山口さんも入れて6人で運営されている。会費は、年会費一人2000円で昨年より夫婦の場合は二人で3000円にしている。夫婦会員を奨励している。会報「とよさかEM普及会・かぜだより」が2ヶ月に一回届けられている。現在49号が出ている。会員の構成は、生産者が7割、消費者が3割である。EMを活用したボランティア活動グループは消費者が中心となって、生ごみリサイクル(家庭菜園や食の活動も含む)、河川の浄化等環境浄化の活動をしているグループは多い。豊栄EM普及会は農業生産者が中心となったボランティア活動である。それだけに会の取り組みには特徴がある。

会の活動
 「野菜は家の外交官」と言い、隣近所とのコミュニケーションを計るのに最も良い手段だと会長さんは言う。自分が食べて美味しくて、安全安心、健康によい食べ物を人様に提供していこうという食の原点でもあり、食本来のあり方を活動の柱としていた。生産者と消費者の心と心が通う地産地消、身土不二の輪を拡げて行こうということはスタート時点から目標にしていた。 自給率1%の東京の人にも食を送らないわけにはいかないので特産品である枝豆等を東京や横浜に出荷しているというが、ただ、アグリビジネスによる多国籍企業等が中心となった現在の食の流通システムは、エネルギーを消費するマネーゲームであり、地球環境を考えると決して長続きすることではないと、会長さんはこのところだけはきつい眼差しではなしていた。

野菜販売所の活動
 そんなコンセプトでの会の活動を始めた。最初は生ごみリサイクルや野菜作りのために豚骨入りボカシ作りに取り組んだ。試行錯誤の末豚骨粉砕機も出来た。市内のラーメン屋さんから豚骨を頂き、野菜を届ける。自然農法の野菜を使っているラーメン屋さんは、店が新潟だったらもっと大勢の方が食べにくるのにと言っているという。そうこうするうち会員の中で食べきれない、美味しい野菜を直売しようではないかという話が発会3年目の平成10年に起こった。最初は野菜を販売した経験のある人は3人だけと少なかったので躊躇したが、強引に始めることになった。あびこイーエムショップに見学もした。
 平成10年、幹事の前田さんという熱心な活動者が中心となって純農村地域に1号店が出来た。それと同時並行的に1ヶ月遅れで2号店が出来、(売店は豊栄駅に近い立地条件)3号店は平成12年にオープンしている。ここでは2号店を中心に報告する。
 当初の売店は手作りであった。総工費15万円で、杉の丸太を使い、工夫を凝らし、思いのこもった手作りの売店であったが、冬はすきま風が寒く、5月〜11月迄の開店であった。平成12年、当初の建物では営業が出来なくなり、愛着はあったがプレハブの売店に建て替えた。それから1年を通して店を開けるようになった。
 売り上げは、平成10年が300万円、11年500万円、12年500万円、13年650万円で今年も少しづつ伸びているという。1号〜3号店の総売上は13年で1400万円、それぞれの店が共存しながら競争もし、良い緊張感を持ちながら発展しているという。
 2号店は、5月〜12月は月〜土の12時〜18時。1月〜4月の火、金曜日の12時から17時まで売店を開いている。2号店への出荷メンバーは13名で、6人と7人の2グループに分かれて1日おきに野菜を出荷し、販売の当番は週1回づつ担当している。ちまみに、3号店は2号店と少し離れた大きな住宅団地に有り、午前中売店を開けている。
 野菜は11時頃持ってきて当番に自己申告をしておく。そして、閉店時に来て自分のその日の売り上げを計算し集計していく。すると当番の人がその日の売り上げを銀行へ振り込むシステムになっている。
 お店を訪ねたのは夕方5時をすぎていたので、野菜はほとんど売れていてあまり無かったが当番の人や、出荷した人達が集まりだし皆さん嬉々としていた。出荷者にアンケート取ったところ、青春時代のわくわく感が戻ってきて10歳位は若返ったと皆さん言っているという。それは、お客さんとのコミニュケーションがとれ、お客さんに喜んで頂く姿に接すると自分も健康になり、野菜を育てる楽しみが増し、その上お金が少しでも頂けるのだからこんなに嬉しいことはないと皆さんが言っているという。
 当初の目標であった生産者と消費者の心と心を結ぶ地産地消の輪、身土不二を願う人々の輪が着実に拡がってきている。そして、そのことがベースになり環境浄化への取り組みが拡がり始めた。
 平成12年11月12日には環境保全のための環境賞を市長から頂いている。これは毎年でなく特別行われたものという。副賞に15000円の商品券を頂いた。

野菜販売所の課題
 野菜販売所の問題もある。豊栄市には、JAを中心にした野菜の直売店等直売店は11店あり、大型スーパーや安売り店も進出している。競争が激しい。消費者が先ず求める新鮮さではあまり変わりはないが、本物作りをして味で勝負しようと考えている。冬野菜は味付けをして食べることが多いのであまり分からないが、夏野菜は野菜そのものの味が分かる。キュウリ、トマト、枝豆等の売り上げは上がっている。味を覚えたというお客さんが増えている。近くに大きな総合病院があり、お年寄りの患者が多いことも幸いしている。というのは、リピーターとして、3世代同居の人が多い。スーパーの味でなくおばあちゃんの野菜の味が食べたいというと言う。そういう人達は昔の味、自然の味を知っている。昔の味、自然の味を知らない若い人の理解の少ないのが今後の課題だ。 それと、会のメンバーの老齢化と、後継者問題は大きい。

環境問題への取り組み
 生産者が中心のグループで、環境浄化への取り組みは遅れていたが今年動き出した。
 豊栄市としては、生ごみリサイクルは一番最後の取り組みとしている。今年は煙草のフイルム等の分別をするという。しかし、豊栄市は5つの地域に分かれていてその一つである長浦地域のセンター長さんが生ごみリサイクルに熱心で、70名位の人が参加して研修会を行い集落での生ごみ処理への取り組みをスタートさせた。そして、今年5月、比嘉先生の講演会に長浦地域の人60名が参加した。それが契機となり集落での取り組みが本格的になった。
 集落の班毎に説明会を始め、6月〜8月迄で説明会は終わることになっている。生ごみ処理のバケツについては市から3分の2の補助金が出る。6月から6ヶ月間はボカシを無料で配布することになっている。長浦地域は農家と消費者が半々くらいなので、農家には説明会の中で自分の食べる野菜は資源を循環させて美味しい野菜を育てることを勧めている。7月現在約1000戸ある長浦地域で140戸が生ごみボカシあえを行っている。
 今年は手応えを感じているという。将来は生ごみの収集も考えている。生ごみの資源化については、市が本格的に動き出すまでの橋渡し役をするのだと言っていた。
 水の浄化については、市民生活課の課長さんが興味を持っている。先進地にも見学に行き、長浦地域とは別の木崎地域で活動を始めようとしている。会としてEM100倍利器を導入し稼働し始めている。今年は考えてもみなかったことが起きてきているという。

さいごに
 訪問して心に残ったことは、会を運営していくのに決して補助金を求めない。事務局を役所に置くようなことはしないと言うことでした。お金は自分たちで出し合い、自分たちの力で運営してゆかなければ活動は長続きしないと言う。そんな会長さんはじめ、会員皆さんの姿勢があって運動の輪、心の輪が着実に拡がってゆくのだと思った。


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