農業の醍醐味.29回


はじめに
 今号では、佐賀県の北方町のイベントに訪問したのでその様子を報告させていただく、今年2月22、23日に京都国際会議場で行われる第8回有用微生物応用研究会京都大会の発表の依頼と打ち合わせを兼ねての訪問だった。
 北方町では役場の職員と住民が一体となってEMを活用した環境問題に取り組んでいる。その中心は町内を流れる河川の浄化で、昨年から本格的に取り組み町民の3割が家庭からの米のとぎ汁活性液を流すようになり、今年は少なく見積もっても4割の人が家庭で様々に工夫して米のとぎ汁活性液を流している。一方、生活環境課の課長さん始め、役場の職員はEM活性液を町内の川の10カ所から流している。昨年の夏には町内各地で蛍が多くなったという声が聞こえ始め、最初にEMを投入した河川では蛍取りをする親子連れを見かけるようになるという成果が出ている。そのEM活性液を町民に配布するための作業所を国の補助と町の予算で建設して1周年のイベントであった。「EM作業所開設1週年記念・北方町環境フェスタ」と銘打って行われた。

北方町の概要
 ここでは北方町の概要を簡単に紹介する。北方町は佐賀県のほぼ中央に位置している。かっては炭坑の町として栄えたが今は人口も半減して9000人前後で推移しているという。町は平坦な都市空間と丘陵地帯の農村空間、山間地帯の農山村空間を形成している。町の基幹産業は農業で、穀倉白石平野の一翼を担い、古くは多久藩の献上米「肥前志久津米」として六角川を通じて運ばれた。現在も米麦中心に施設園芸としてイチゴ、ブドウ等が栽培されている。
 北方町の河川は南北の丘陵地帯を源流として、中央に流れる六角川に向かって注がれている。そこに無数の生活・農業用排水路が点在し、汚水が流れ込んでいる。かって、河川や水路は子供たちの遊び場として、また、洗濯物等の洗い場として利用され夏にはホタル飛び交う長閑な風景をかもし出していた。しかし、生活様式の変化により家庭より流される生活排水により水生植物は黄色く変色し、堆積土はヘドロ状態となり、時には悪臭を発するため、住民からの苦情が絶えなくなっていた。

第1回北方町環境フェスタ
 10月19日はEM作業所を開設した日でちょうど1年目にこだわってフェスタを開催したという。この日は「くんち」と言う町あげての収穫祭に当たっていた。フェスタの会場の入り口で小中学生がお囃子をし、フェスタに花を添えていた。祭りのため参加者は百数十人であったが、町長さん、町議会議長や議員さん、商工会の会長さん、学校の校長先生、各婦人会の会長さん等の参加があり、私も来賓として紹介された。
 最初に主催者を代表して北方町婦人会会長でステップ北方会長上野淑子さんより挨拶に併せてスライド使って活動の紹介がされた。「水は命・とりもどそう北方町にきれいな水を」を合い言葉に立ち上げられたEM作業所の説明から始められた。EM作業所はEM活性液を培養するための施設であった。作業所には500LのEM活性液を作るタンクが2基あり、現在週3000Lの活性液を培養している。
 EM活性液の製造は、婦人会長を始め婦人会の推薦による5名と役場職員(女性)の6名で行い、ペットボトルへの詰め込みは福祉作業所(とくしのさと北方)にお願いし、地区毎に婦人会の支部長の皆さんが取扱い責任者となり、各家庭から注文を受けてそれを纏めて役場の生活環境課に注文する。注文するとEM作業所で詰められたペットボトルを役場の職員が取り扱い責任者のところへ配達し、取り扱い責任者は各家庭に配達する。そして、前述したように4割の町民が台所から、役場は河川から取り組んでいる。ちなみに町民は2L200円で購入する。そのお金は、ペットボトルへの詰め込みに1本35円取り扱い責任者に1本10円、その他原材料と製造の手間賃になっているという。
 今年の6月2日、ステップ北方クリーン作戦を行った参加者は9000人の町民の内2000人近く集まった。これには、町長さん始め誰もが予想しなかったこなかったことで環境に対する意識の変化に驚いたという。
 7月23日も商工会主催でクリーン作戦が行われた。200人が集まっている。後で聞いたことだが、この活動を契機に北方町商工会青年部「環境のことを一寸真面目に考えよう」とスマイルマネーという地域通貨を試験的ではあるが立ち上げた。
 米のとぎ汁活性液の活動から始まった環境問題への取り組みは、町民の意識を変えたという。更にホタルの飛び交う町となり、川には魚がいっぱい出てきたことが良い循環になっている。町民の皆さんが明るく元気で健康に成ってきていると発表していた。

ステップ北方について
 ここで前述したステップ北方について触れておきたい。生活環境課の伊藤課長さんが、河川浄化の試験的取り組みと併せて、平成14年4月よりこの取り組みを全町域に拡げるために婦人会の役員会で協力要請したことから始まった。また、水環境だけでなく、環境全般にわたり幅広く町民の意見を集約する場として町内の各団体に呼びかけた。

 「北方の歩み」と言う意味を込めてステップ北方を結成し2ヶ月に1回のベースで会合を行い、会報(メダカの学校)を発行している。(現在5号まで発行)構成団体は、婦人会、フォーラム北方、農協女性部、商工青年・女性部、EMさがの会、北方町役場(事務局)である。
 今度のフェスタを契機に次の5つの部会を立ち上げ、更に取り組みを充実させとうと皆さん張り切っていた。地域環境部会、家庭環境部会、農業部会(畜産は町に30戸ある内15戸はEMを導入している)、人つくり部会(学校教育)だ。会長には10年来EMを活用してきた上野淑子婦人会長が就任した。

来賓挨拶
 主催者の挨拶と活動報告の後に来賓の挨拶があった。最初町長さんで、昨年1月東京で行われた町村長代表者会議に出席し、幕張メッセで行われた活力自冶体フェアー2002にも出た。そこにITと並んでEMのコーナーが有ったことに驚いた。EMは日本でも、世界でも認められた技術と知り、佐賀県で1番のEM先進地になり、環いくことが大切であると確信したと話された。
 町会議長さんは、EMの効果は早くから叫ばれていたが、町の先覚者であった中原鉄工所会長の中原さんから婦人会、町全体へとその活動の輪が拡がった。EMは特に消臭効果、河川浄化には顕著な力を発揮する。町議会としても全力をあげてバックアップをしたいと話された。
 最後に杵島郡7町の婦人会長三苫紀美子さんの挨拶があった。台所からの汚れは責任をもって綺麗にしてゆく運動は北方町から郡内に拡がっている。更に力強く拡げていきたいと話された。

活動発表と講演
 活動発表は小学校6年生の二人が夏休みの自由研究を発表した。「川添川の水の性質を調べる」リトマス紙による河川のpH調査。「実験で大きな差がでたよ。サツマイモの蔓、釘などを使ったEM実験。紙面の関係で内容には触れられないが、EMの活用の大切さを訴えていた。
 講演は「佐賀市における下水道処理水の微生物活用による環境浄化の取り組み」と題して佐賀市農村環境課副課長前田純二さんの講演であった。前田さんは10年前からEMの活用に熱心に取り組み、佐賀市の下水処理場にも活用し成果を上げ、塩素を入れて放流する前のEMを活用した下水道処理水を農地に戻したり、のり養殖、畜産農家、他市町村の集落排水に活用する等多大な成果を上げている。500Lのタンクで処理水を取りに来る人や団体は130を超え引きも切らさないと言う。見学者も多く県内は勿論県外からの講演依頼も多いという。講演ではEMの農業利用について話されていた。

さいごに
 北方町は、大量生産、大量消費、大量破棄の生産システム、社会システムから、持続可能な循環型社会つくりに向けて様々な新しい創造が現実に始まっている。また、大きく成長していこうとしていた。
 町全体が動き出したのは2年である。しかし、10年以上前から目に見えない根の部分では活動し始め成長していた。それは、中原鉄鋼会長の中原さん始めボランティアの人達であり、それを受け止め今日の活動にした生活環境課長さんや職員の人達、婦人会長さん始め婦人会の人達だと思う。
 生活環境課長の伊藤さんは「本来、自発的な住民団体と行政はパートナーシップを持った、対等の立場で協議していくことがベストの関係であり、間違っても行政が行う仕事の代理者であってはならないと考えている」と言っている。行政と住民が良い関係を保ち、協力し合うことが新しい地域社会を生み出し、行政側の人が変わっても長続きしていくポイントと思った。                             


↑page top


|TOPページへ|