農業の醍醐味.31回


はじめに
 前号に引き続き2002年11月3日〜16日渡伯の報告をさせて頂く。今号ではブラジルの有機農産物の認証から報告を始めたい。

ブラジルの認証
 ブラジルの有機農産物の認証団体は日本のように(財)自然農法センターの中で普及課と認証課を分ければよいと言うのでなく、認証は第三者機関として独立しなければならないようになっている。そこで、独立した認証機関としてオカダモキチ財団とは別に、オカダモキチ認証協会が立ち上げられていた。しかし、ブラジルは、国が基準を作り第三者機関に認証を委託するところまで来ていない。ブラジルの認証機関は将来国が作るであろう基準を予想して自主的に立ち上げていた。
 認証機関は日本と同じくらいの70近くの機関が有るそうだが、その中で大きな機関は三つあるという。バイオダイナミィックのデーター、ブラジル有機農業協会、オカダモキチ認証協会である。この三つの認証機関は協力しあいスーパー等に有機農産物、有機加工食品を卸している。
 オカダモキチ認証協会で認証している農家は84戸で2087haの農地である。自然農法センターでは約400戸の農家を認証しているが農地はブラジルの半分までもない。
 認証している主な作物は、野菜、果物、コーヒー、大豆。米も1戸認証している。たった1戸だが面積は67haである。

KORINについて
 次に、株式会社KORINについて少し触れておきたい。
 KORINは約200人の職員で農産物と鶏肉を依託農家から集荷し、パッキングして出荷している。そのほかに建築、造園部門を持っている。
 農産物と鶏肉は主にハイパーマーケットで販売されていた。ハイパーマーケットとはスーパーマーケットより高級品を扱っている大型店のことである。ブラジルで2番目のシェアーを持つハイパーマーケットのチェーン店「エストラ」で販売されていた。見学した売り場の広さに驚いた
 また、日本で言う銀座三越のようなサンパウロの高級店でも売られていた。買い物に来る人の車が市内ではあまり見られない高級車がほとんどであった。鳥肉は312店に出荷しているという。抗生物質、成長促進剤、その他薬品は使わず、動物性のエサも与えず飼育された鶏肉は、高級鶏肉の更に約2倍の値段で売られていた。それでも月平均250tが良く売れているという。
 野菜も値段が2〜3倍するものも有るが200t売れているという。味の良さと安心感から中流以上の人々に人気があるという。野菜、果物は32店に出荷していた。鶏肉は前号で触れたようにイペウナの農場に鳥の解体場があり、そこへ依託農家から集められた1日約6000羽の鳥が解体され商品となる。また、農場には飼育工場もあり依託農家の飼料は全部製造されていた。コーン、大豆等材料は吟味され月700t製造している。
 野菜はアッチバイヤーの農場にブラジル全土から集荷され、そこでパッキングをしている。日に約20tの野菜、果物が出荷されていた。野菜、果物の宅配も120軒位に始めたばかりだと言うが順調に伸びているという。セールススタッフは25名で一線級のセールスマンは4名であるという。
 その他、イペウナの農場ではボカシ作りもしていて月平均150tが販売されていた。

研修会
 今回渡伯の主目的はオカダモキチ研究所の2泊3日の職員研修への参加であった。私に与えれらた課題は「自然農法と有機農法の違い」「育土について」「自然農法の原理に基づいた基本技術とは何か」自然農法の職員としての能力(必要条件)とは何か」であった。あらかじめポルトガル語に翻訳して頂いたパワーポイントを使って説明した。おおむね好評であった。時間は午前中1時間は理事長で私が2時間頂いた。
 午後はオカダモキチ研究所を支援下さっている大学教授6人との懇談であった。サンパウロ総合大学やリオ連邦大学等の先生で、それぞれの研究ではブラジルであったり南米でのその道の権威ある先生方であった。2時間ほどの懇談は午前中の話の質問等もあり、あっという間に過ぎてしまった。その席で英文の自然農法の論文集を贈った。その表紙にサインを求めされたりした。
 その後先生方も入った全体の質疑応答があり、2時間の予定が遙かに越えてしまい多くの質問があった。
 翌日は私1人で11人いる普及員との懇談があった。2時間の予定が3時間半になってしまった。それぞれの普及状況を聞かせて頂き様々な質問があった。
 いろいろ聞かせて頂くと日本の技術では当てはまらないことが多いが、基本は同じような気がした。そして、私が特に強調したことは、先ず第一に大切なことは工夫する心であり創造の大切さである。自然は即神であり造物主である。自然は一瞬の休みもなく常に創造を繰り返している。その自然から学び、自然から学べないとところは先達の教え、人々から学び、その学びを基にして創造することである。創造こそが生きている証であり、自然や命と共にあることである。その姿勢を伝えていくことが普及の仕事であると伝えた。   
 二番目には、作物は肥料という物質で育てるのではなく、自然の生命力、目に見えない自然の力にとって育つのである。その目に目えない自然の力、生命力を大切にし、どうその力を発揮させるか常に心がけることが、金、もの、形に囚われる心を、目に見えない力を大切にする心に切り替えることが出来るのである。目に見えないものの存在を認め、その目に見えない存在を何よりも大切にする心、姿勢を拡げることである。
 三番目に農薬や除草剤による皆殺しの思想、経済第一の思想から、自然を敬い感謝する心、何よりも他人を思いやる心、全ての生命を思いやる心、即ち、利他の心を拡げていくことが自然農法の普及にとって大切なことであることを話した。
 今回は普及員が普及している現地へは行かなかったが、次回は訪問してくださいとの強い要望があった。

おわりに
 この度渡伯していろいろなことを感じたが、全てが大きくゆったりしていることが先ず印象に残った。
 前号で触れたが、巾3kmに亘るイグアスの滝の大きさ、迫力、また、農場の大きさや食べ物は豊富で量が多い、お皿も大きい、そして、食べる時間もゆったりしていた。
 私はいつも時計を見ながら生活していたことに気づかされた。大げさに言えばブラジルでは太陽の動きと共に動いているような気がした。それだけ自然との一体感、おおらかさが感じられた。私は最初少しとまどい、いらついたことがあったが慣れてしまうとその方が物の本質が見えたり感じたりすることが出来るのではないかと思った。
 また、ブラジルでは、仕事をすることも食べることも遊ぶことも全て生活の一部で、どんな境遇に有ろうとそれぞれ生活を楽しんでいるように思えた。
 日本では、仕事、食事、遊び等ぶつぶつに切れているように思う。一昔の農家で言えば、農作業も生活そのもので、家族はそれなりに食べていた。食べるために働いているのでは無かった。農作業の中で様々な知恵を磨き生きる喜びを感じていたのだと思う。自然や命の尊さ、自然への畏敬の念や感謝の心等、ものの本質に触れていたのだと思う。
 ブラジルへ行って短時日なので、ブラジルの人達がどんなことを考えているか分からないが、私としては、ブラジル訪問を通して感じさせられたことは、私自身自然から遠ざかった生活をしているのではないかと言うことであった。


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