農業の醍醐味.33回


はじめに
 7月9日岡山県勝田郡勝田町を訪ねた。来年2月の「第9回自然農法・EM技術交流会京都大会」の取材を兼ねて訪問した。今号では勝田町を紹介させて頂く。

高齢化が進む勝田町
 勝田町は岡山県の東北部に位置し、中国山脈を水嶺とする梶並川に沿って開けた町である。地形は南北に細長く約80%が山林である。町の主な産業は農業であるが、ほとんどが兼業農家である。人口は、3979人、1443戸の農山村である。
 全国的な問題だが、勝田町でも高齢化が進み、平成15年4月現在の高齢化率は36.2%である。そのため町の医療費負担は年々大きくなっており、平成11年には国民健康保険の一人当たり医療費が県内で最も高い状況であった。
 そんなとき住民福祉課に赴任したのが東芳郎課長であった。東課長はこうした不名誉な状態から脱却し、健康な町「勝田町」を目指して取り組みを始めるべく、住民福祉課で近隣の町村を始め岡山県国民健康保険連合会等に健康づくりの秘訣を聞きに走り回った。

自然農法で町民を健康に
 学んだことは、健康診断や検診等ばかりに力を入れていたことを指摘されたことである。医療費の比較的少ない市町村では、行政と町民が一体となって生き甲斐を見つけ、元気にっていくという集いや活動を様々な工夫を凝らして創り出していることであった。
 そこで、国民健康保険の保険事業として任意団体「自然を食べて健康会」(以下会と言う)を平成12年8月に結成し、町民の健康作り運動を始めた。
 この会は、野菜は買う方が安いと、自分で野菜を作らなくなってしまった町民に呼びかけ、自分で食べる野菜は自分で作ろうをスローガンに、自然農法と自然自癒力を中心に学習し、自ら健康づくりに取り組む会である。この会の設立経緯は、東氏がまず目を付けたのが消費生活問題研究協議会であった。
 この協議会は、平成5年からEMボカシ作り、EM廃油石けんづくりを始め、平成8年には、規模は小さかったが自然農法、家庭菜園、環境問題への取り組みと本格的な活動が始まっていた。また、酪農家である田村町議は平成2年から乳牛の飼育にEMを活用し熱心な活動者であったので初代の会長を務めていただいた。
 そんなことから、会の活動は、EMを活用した生ごみの堆肥化活動を推進し、自然農法による農業、家庭菜園を中心とし、更に、健康に繋がる幅広い活動を取り入れた。発会当時は会の活動はEMに対する偏見があり、認められなかったのでやむなく任意団体として発足した。現在ではその活動は認めざるを得なくなって、町としても力を入れ始めている。

会の概要
 健康な町作りの中心となった「自然を食べて健康会」を紹介させて頂く。
1.構成
 会長・副会長各1名、理事16名、会計および事務局は国民健康保険係が担当している。会長は平成12年8月の会設立当初は田村さんであったが、田村さんが町会議員あることから、13年からは勝田町の元校長の大町太刀男さんに変わった。会員は平成14年で84名、活動資金は年会費と事業収益を当ている。(活性液の売り上げ、講習会等の会費等)
2.活動
 年間の主な行事と活動内容は次の通りである。
 ○先進地の視察研修
 ○年間10回の講演会および研究会
主なテーマは、自然農法、家庭菜園、ボカシ作り講習会。西式(甲田療法)健康法の学習。キチン・キトサン及び竹酢液の研究。卵黄油作り講習会。発芽玄米料理教室等で、様々な組み合わせをして講演会、研究会年間計画が立てられ行われている。ボカシ作り講習会は出前講習会が多い。
 ○自然農法展示圃場の設置と共同作業
 ○展示圃場で栽培した野菜の販売(青空市等)
 ○自然農法で栽培した野菜の品評会・試食会
 ○環境問題への取り組み

会の主な活動
 
発会後最初の活動は先進地への視察研修であった。(財)自然農法国際研究開発センター京都試験農場、岡山県船穂町、島根県木次町、鳥取県境港市等を視察した。
 上記のようにこの会の活動は多岐にわたっているが、特に特徴的な活動は自然農法展示圃場の設置と共同作業である。
 平成12年、13年と自然農法の講習会、ボカシ作り、家庭菜園勉強会を行ってきたが、本当に無農薬で作物が育つのか、という町民の不安をぬぐい去れずにいた。自然農法で作物が育つと言う自信を持ってもらうことが「自然を食べて健康会」の課題であった。
 そのことから自然農法の展示圃場を設けようということになり、当地の主要な生産物である米と、「作州黒」と言う品種の黒豆を栽培することになった。栽培は、会長始め16名の会員によるボランティアで行った。
 計画から収穫まで大まかな取り組みは次の通りであった。
 平成14年5月22日計画立案。5月30日展示圃栽培指針講習会開催。(黒豆栽培と水稲栽培を講習)6月8日田植え。7月1日黒豆植え付け。8月22日見学会、40名が参加。9月25日稲刈り。11月21日黒豆収穫。この日収穫祭と自然農法農産物の展示と試食会を行った。
 結果は、黒豆では、虫害も少なく、病気も発生しないで慣行の圃場より立派に生育した。ただ、粒張りが悪く百粒重が下がったのはその年の天候の影響を受けたと思われる。水稲は、クログワイとホタルイが水口から中央にかけて発生し、機械と手取りで除草した。雑草が繁茂した部分5aは収量が300kg/10a程度と低かったが、中央から水尻にかけてはボカシ散布によりコナギは抑制され、480kg/10aと高い収量を得、展示圃場全体の実刈り収量360kg/10aであった。
 クログワイとホタルイが多発した理由は、1枚の田のうち3分の1を休耕しているため、休耕の部分にクログワイとホタルイが多発し、それが作付け部分にも拡がってしまった。この取り組みにより、自然農法に取り組む農家が生まれた。水稲では本格的な研究会が生まれ今年は10戸程の農家が自然農法に取り組んでいる。また、会発足以前の自然農法による家庭菜園実施者は、消費生活問題協議会の会員を中心とした少人数であったが、現在では、会員84名をはじめとした200人以上が自然農法による家庭菜園に取り組んでいる。
 環境活動は、町が補助金でEM活性液を作り、会が販売し会の活動費としている。月約800g(1回200gで月3〜4回仕込み)の活性液を作っている。
 活性液は主に農業用や、生ゴミ処理用に使われている。米のとぎ汁発酵液にも活用が始まりだした。今年6月役場主催で比嘉教授の講演会を開催し大きな反響があった。そのときのご指導により久賀ダム(洪水調節並農業用水源、満水面積371ha)の浄化に取り組むことになった。ダム上流の住民への呼びかけ、出張講習が始まっていた。町としては今年2万gの活性液を投入して様子を見て、来年本格的な取り組みを目指していた。

健康な町「勝田町」に向かって
 「自然を食べて健康会」が主催する講演会や研究会は当初10数名程度だったのが、現在60〜80名が参加するようになり、多いときには120名を越えることもあり、様々な行事にも会員数を上回る参加者があり、勝田町で最も人気ある会となっており、この会を中心に町おこしの輪が着実に拡がってきている。
 当初の健康な町作りの願いは医療費の減少となって現れてきている。国民健康保険被保険者1人当たりの医療費が、平成10年度517,859円、11年度552,388円と上昇の一途をたどっていたのが、取り組みを始めた12年度は503,865円13年度は501,410円、14年度は推計であるが453,570円、15年度は更に減少の見込みである。この結果は、町民の意識の変化にほかならない。
 まず、生活に対する考え方、食に対する考え方が変わった。生活に対する考え方では、健康は自らが作るものという意識が定着し始めた。以前は、誰かが医者にいくと暇だから一緒についていくすると私も看てもらうと言うことになる。看てもらうと薬をもらうことになる。そういうことが無くなったという。
 食に対する考え方では、農薬、除草剤に対する意識が変わった。田畑に草が生えていると恥ずかしいと思う心、批判する心から、草が1本の生えていない田畑の農作物は食べられないというようになった。今年は、期間が短かったが蛍が多く出たという。川には魚の数が増えてきたという。勝田町では、地域ぐるみで環境や健康がむしばまれていく方向から、環境改善、健康達成へと着実に方向転換をしようとしている。生き方、暮らし方、考え方が変わろうとしていた。             


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