農業の醍醐味.34回


はじめに
 前号に引き続き京都フォーラムの取材を兼ねて、7月26日から29日広島県神石町、島根県安木市、鳥取県気高町を訪ねた。京都フォーラムの発表は広島県神石町にお願いすることになったので、神石町の報告をさせて頂く。

神石町の概要
 神石町は広島県の東北部に位置し、福山市までは約52km県都広島市までは約100kmである。総面積は103.98平方キロメートルで、このうち山林は84.2%を占め、耕地はわずか5.1%に過ぎない。水田は240ha、農地全部で300ha弱の、山間農業地域である。神石町は風光明媚で、国定公園帝釈峡がある。帝釈峡は、帝釈川をせき止めた人造湖、神竜湖からなっている。奇石、清流、初夏の新緑、秋の紅葉と訪れる人々に自然の美しさを満喫させてくれる。
 特に遊覧船に人気があり、釣り人も多い。そして、旧石器時代から縄文時代の帝釈峡遺跡群として知られている。人口は1099世帯2945人で高齢化率は46%ののぼる。死亡率が出生率の4倍くらいとなり、年々過疎化をたどっている。農業は約440戸。専業農家が40%と多いが、そのほとんどが年金を頂きながらの農家である。
 水稲を中心に全国的に有名な神石牛(50戸で約300頭飼育)の肉用牛の畜産、コンニャクや様々な野菜を栽培している。過疎化が進む町の施策として、豊かな自然の中に安全で快適な生活環境、美しい生活環境を目指し、行政町民一体となった街づくりを進めている。特に医療、健康、福祉に力を入れて「健やかな笑顔、温かい心が幸せを支える」をモットーに数々の施策を展開している。

町おこしを願って
 平成6年「地球を救う大変革」の出版はこの神石町にもその波紋をもたらせた。EMの持つ可能性、魅力に惹かれる人々が現れた。EMの活用は、農業利用から始まった。平成7年からは毎年11月3日に行われる、町のふれあい祭りに有志でEMのコーナーを設け、町民に健康や環境浄化を訴えてきた。
 そんな中の一人に、現在、神石町EM普及協会の会長をされている藤井仁さんがいる。藤井さんはまず農業にEMを活用し、想像以上の成果にEMに対する思いは固まった。そしてEMの活用の巾が時と共に広がり、各地から様々な情報が入って来る中で、藤井さんの夢も広がり三つの目標を持つようになった。
 一つは神竜湖をきれいにしよう。二つには有機の街づくり、三つには生ごみリサイクルを中心とした循環型の地域作りである。この目標が後に触れる神石EM普及協会の目標にもなった。現在藤井さんは有機JASの認証を受け米、野菜を出荷している。

神石町EM普及協会発足
 平成13年になると、以前の町の婦人会であった女性会で本格的な米のとぎ汁発酵液の取り組みを始めた。この女性会で広島県内海町、福岡県柳川市等へ見学に行ったことが活動の大きな弾みとなった。毎回50名くらいの人が参加した。
 平成14年3月、女性会が母体となり、神石町EM普及会が発足した。会長は前出した藤井仁士さん、副会長が町長婦人と、JA婦人部部長で、副会長の2人が大きな推進役となっている。そして町役場としても普及協会発足を期に様々な形で組織的な後援が始まった。会員は現在160名であるが活動に参加する人は多い。普及協会の目標、町としての願いは前述したように次の三つにしぼられた。
・神竜湖の浄化
・有機の里づくり
・生ごみリサイクルによる循環型社会の構築

神竜湖の浄化
 神竜湖は、帝釈川にダムを造ることによって出来た周囲24Km、全長8Km、堤頂長が35.2m、堤高62.1mと深く、縦長ダムでは日本一の人造湖である。この湖にEM活性液の投入が平成13年から始まった。1000gのタンクで100倍活性液を20倍にして投入している。
 投入箇所は副会長さん2人が中心となって神竜湖のほとりで2箇所、町役場で川の上流2箇所、町役場と神竜湖の中間点2箇所に週1回投入し、その他普及協会会員5〜6名のボランティアで毎週土曜日2台のトラックに積んだ活性液を6箇所で投入している。この経費は初年度の去年は資材代も含め250万円、今年は200万円、町の予算から出されている。
 EM活性液の投入に合わせEMダンゴの投入も行っている。去年はEMダンゴを神石小学校全校生徒が授業の中で(1時間)1500個作り、神竜湖への投入は小学校3・4年生、神石中学校の環境委員、ふれあい作業所員、普及協会の会員で行った。
 今年は7月23日、8000個(2t)のEMダンゴを投入した。EM団子作り、投入は昨年と同様、80名で遊覧船に乗って投入した。参加した子供達は遊覧船に乗れることもさることながら、湖がきれいになることを喜んでいた。このことは読売新聞、中国新聞、山陰新聞の備後版に大きく取り上げられた。米のとぎ汁活性液を家庭内で利用し、川に流している人は普及協会会員160名とほかに200名位の人がいる。全世帯の約3分の1の人が活用している。
 将来は、全家庭からの米のとぎ汁発酵液を流すことを願っている。なぜなら神竜湖には生活排水が流入しているからである。そして近い将来、EM活性液の投入を止めたいとおもっている。EM活性液の投入を止めてもきれいな神竜湖でありつづけることを願っている。
 活動の成果はEM活性液を投入してまもなく臭いがなくなっていくのが分かった。また、湖面の色が真っ黒な色から青く変わり始めた。活性液投入前の湖面は黒く遊覧船のスクリューのあとが真っ黒になっていくのが分かった。釣り人が釣り糸を垂らすとその糸がくさくなるといっていた。今年は湖面が青くきれいだ。汚泥の量が減ったのも岩肌についた線のような跡で分かる。

有機の里づくり、生ごみリサイクルによる循環型社会の構築
 有機農業はいくつかのグループで取り組んでいたが、有機の里づくりに向かって町民を巻き込んだ本格的な取り組みが始まったのは昨年11月からである。普及協会が主催し、町が後援して自然農法の講習会が始まった。去年11月には自然農法の基礎、EMの活用について、3月イネ作り、6月秋野菜を中心とした畑作、9月イネの収穫をひかえて来年の取り組みをかねた講習会であった。
 町が後援したので、毎回30〜50人の参加者があった。高齢化が進み最近ではこれだけ集まる講習会は珍しく、盛況のうちに行われた。この講習会は毎年積み上げ方式で行うことになったので、初心者のために基礎講座を設け、今後は基礎講座を修了したひとが自然農法講習会に出られることになった。 この講習会が有機の里づくりへの弾みとなっている。有機の町作りのもう一つの大きな動きは家庭菜園への取り組みである。神竜湖の取り組で、米のとぎ汁発酵液に取り組んでいる人は町の世帯の約3分の1で取り組んでいると記したが、そのほとんどの人が家庭菜園に取り組んでいる。甘くて美味しい野菜が出来る。安心安全な野菜が化学肥料や農薬を使わなくても立派に育つ、アトピーを持つ母親が興味を持つ等、口コミで拡がっている。家庭菜園への取り組みを通して生ごみリサイクルは進み、自分で食べるものは自分で作ったり、直売場も充実してきて、身近なところでとれる作物を求めるようになってきている。

取組みの成果
 普及協会の願いである、三つの取り組みを通して、町民の意識は着実に変化して来ている。まず、竜神湖浄化の取り組から環境に対する意識が高まり、関心を持つ人が多くなった。米のとぎ汁発酵液の家庭内利用、EM石鹸の広がり、ゴミの分別にも表れている。
 この取り組みにより、美しい町作りに町民の多くが取り組むようになった。とくに、小学生や中学生を対象にした学校教育の中での取り組みの影響は、本人達のみならず、父母への影響は大きなものがあった。そして、美しい町作りと言えば、二番目の取り組み課題である有機の町づくりだ。
 美しい町づくりには住民が生き生きと生活していることは欠かせない。その生き生きとした生活をするための産業の中心が農業である以上農業に活力を取り戻す以外にない。その為に有機の里づくりに取り組んだ。その結果、安全安心への意識も変わってきた。買って食べることは簡単だが、多くの人々が自分で食べる野菜は自分で作ることを心がけるようになった。そして地元でとれる作物を食べるよう心がけるようにもなった。
 直売所での野菜の売れ行きは良くなっている。このように、人間が生きて生活していくための基本となる食に対する意識の変化となって表れてきている。市場経済に振り回され、経済性ばかりを求めた農業から、自然や生命を大切にし、環境や健康のことを考えた農業に価値を見いだし、町全体に活力を取り戻そうとしている。神石町の「健康」「支えあい」健やかな笑顔が幸せを呼び、温かい心が幸せを支えるという願いが現実のものとなろうとして来ていた。


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