農業の醍醐味.35回


はじめに
 2003年1月にミャンマー農業灌漑省と「ミャンマーでの救世自然農法とEM技術普及促進プロジェクトの協定に関する協定書」の3年間の更新が行われ調印された。それに伴う今回の訪問となった。

タイ、サラプリセンターを訪ねて
 まず始めたことは、月2回以上各地の先進的な村おこしや、各種イベントを見て回ることであった。最初から月2回以上見学すると決心し、行けない月はペナルティーとして翌月3回出かけると言うように、最初の決心を今日まで続けているという。全国各地、特に九州は鹿児島県をのぞく全県を隈なく回り回数は400回を超えた。クラインガルデンを始めるときも、全国的に有名になった群馬県倉淵村のクラインガルデンへ見学に行った。先進地の村おこしや、各種イベントからの学びに触発され、七山村の村おこしに取り組んだ。七山村はその名のとおり、十坊山、浮岳、女岳、笛岳、穀地蔵山、椿山、岩屋山と七つの山に囲まれた大半が傾斜地の緑豊かな村である。田は少なく畑が多い。畑のほとんどはだなだん畑の変形畑であり主に蜜柑が栽培されていた。
 村を流れる清流は8つの滝と淵を作り、その中の観音の滝は日本の滝100選に入っている。また、松浦八景にも数えられている。清流の一つの源流地点には樫原湿原がある。樫原湿原には100種類以上の植物、30種以上の虫、40種以上の鳥たちがいて、訪れる人々を迎えてくれる。セブンブリッチロードという村の中心部から観音の滝まで七つの橋で結んだ遊歩道が整備され、清流に沿って散歩も楽しめる。その他、温泉、スキー場、ゴルフ場、渓流つり等観光資源は豊かである。そんな中で村おこしは次々と進められていった。

タイでの普及状況
 ここで説明を頂いたタイでの普及状況を説明させて頂く。
 環境浄化への取り組みでは、一つは首都バンコクの中央を流れるセンセーブ運河の浄化取り組んでいた。
 二つ目には病院の環境浄化で、関係者の協力のもとに病院内のトイレの清掃に併せ、EM活性液を散布し、また、病院の食堂からもEM活性液を投入して浄化槽に堆積する汚泥の減量が可能となった。EM義術により浄化槽の運営に伴う経費の削減が可能となり、国の30バーツ医療(すべての医療を30バーツにおさえる)の目標をかかげた政策に貢献している。特に東北部の二の県(シーサケット県とロイエット県)では県をあげて取り組んでいる。公的なところで取り上げられた影響は大きいと言う。
 三つ目の取組みは4年前から始まった森林局とサブリセンターとの共同によるセンターに隣接する約900haの国有林の森林保護再生への取組みである。EM活性液を散布している。特に毎年王女様(タイでは王様は水、女王様は森にたとえられている)の誕生日の8月11日には森林の日としてボカシ散布大会が開かれ、今年は120名の人々で5tのボカシと1tのEM活性液を散布した。前に紹介したように訪問した時が雨期の最後と言うこともあって山も見事に青々としていた。
 以前山肌が見えていた姿はなく、自然の動植物が豊かに蘇ってきたという。そのため乾期に頻繁にあった山火事の心配もなくなり、自営消防隊の役割も終わった。水源としての働きも大きくなっているとのことであった。
 次にサラブリセンターにおける研修会の説明があった。タイの経済危機に国王が「足を知る経済」の方針を出してからEMに対する反対が急に少なくなり、1998年から自然農法の普及が進み、それに伴って研修会への参加が増え5900人となった。2000年からは6000人を越えている。1回300人程度を対象に月2回(年24回)行っているが、研修会の回数が更に増えていて収容能力の限界に来ていると言う。参加者は最初、農業者中心であったが今年の統計では公務員(軍や教師を含む)42%、学生11%、農業者31%農魚以外の職業10%、その他である。現在は有識者の参加が多くなっているという。
 農産物直売所「鳴神の庄」の売上は年間4000万円くらいから始まり、売上は年々伸び平成7年には2億5千万円になった。その後微増であるが人気は高い。

農業への取組
 最近、タイ国では大きな政策転換が行われた。首相がかわり次の方針が打ち出された。
1.有機農業の推進:安心安全な食糧を生産し有機農業による世界の台所を目指す。
2.環境と観光:遺跡、歴史的景勝地への観光誘致、それに伴う自然環境の保全、自然を蘇らせる生活の奨励。
3.ITの推進
4.自動車工業の推進
5.ファッションの発信地としての取組み
 この5つの課題への取組みの中で1と2の課題に対して、次のような施策を出している。
 タイ国に76ある県の隣接した4県程を一つのグループとする28のグループを作り、それぞれのグループで有機農業の推進、環境、観光の取組みについて計画を立て実行するという施策である。この施策は今年10月1日から始まり6ケ月毎の評価を政府だけでなく、アメリカの民間会社トウリスがその評価をし、成果を治められなければ知事は交代になるという。タイでは首都のバンコク特別区以外の知事は全て任命制である。9月には70数名の知事さんが、日本、中国を5日間で視察し、大分県では一村一品の特産品作りへの取組、福岡県でのITへの取組、上海では商業発展について学んだという。今回ナコンラチャシマー、サッケオの二人の知事にお会いしたが、この話題で持ちきりであった。
 この施策を遂行するに当たり、県知事をCEO(チーフ・エクゼクティブ・オフィサー:最高経営責任者)に任命し、国が直接持っていた警察権等の権限を知事に与える等国から県への関与を減らし、大幅な権限が知事に与えられたというのである。
 この施策はEMによる環境浄化への取組、自然農法への取組に大きなインパクトをあたえている。サラブリセンターのあるサラブリ県は、ロッブリ県、チャイナー県の4県と連合体と作り、それに取組始めた。サラブリセンターの責任者であるカニットさんはアドバイサーとして、計画立案に参加している。加えて4県の農政担当者がサラブリセンターの研修に参加し、自然農法の勉強をした。
 農業、化学肥料会社の抵抗もすごいが、政府が目標にしている有機農業による世界の台所を目指すという施策の下、自然農法は着実に拡がろうとしていた。この件については後にサッケオ県の取組で触れてみたい。

ナコンラチャシマー県へ
サラブリセンター見学後ナコンラチャマー県へ向かった。ナコンチャシマー県のストーン知事への表敬訪問も兼ねた夕食会に招待された。県知事を初め副知事、郡長、市長、農政局長さんがこられていた。ここでも新しい施策のCEO就任が話題となった。ストーン知事は、EMの活用と自然農法の普及を新しい施策の柱にする決意をされていた。
 翌朝8時の出発にもかかわらず、ストーン知事、副知事さんがわざわざ見送りに来てくださった。そして郡長さん農政局長さんが我々の視察に同行され、最初に知事が是非見てくれという果樹農場を訪問した。工夫を凝らし自ら開発した新品種のレモンを中心に約13haの果樹園で柑橘を栽培していた。この果樹園ではレモンの苗木を育て販売する一方で、生産物の通信販売を通じて今や全国に拡がっていると言う。病害虫や水不足の対策等に関しては自然を観察し、その観察を生かす中で問題を克服していた。例えば、樹皮と水を入れた缶を使って害虫を誘引し、捕殺するヘルモントップのようなものを考案していた。また、王女様や県知事もこの果樹園を見学され、テレビ関係者も取材に訪れているという農家であった。今回訪問した農家の中で、唯一この有機農家だけがEMを活用していなかった。
 次に水稲、果樹栽培農家を見学した。この農家の果樹園(約1ha)ではバナナ、柑橘、マンゴー、ラムヤイ、ジャックフルーツ等の南国果樹が混植され、ボカシの使用により、害虫が減ったと言う。
 最後にEMとボカシの使用してマンゴーを栽培している農家を訪ねた。マンゴーが1kg10バーツで売られている時に1kg150バーツで売れたという。この果樹園のマンゴーは女王様から表彰されテレビにも出たという。 今回視察した農家はどこも自然を観察し、EMを活用し、様々な工夫をしていた。時間の関係で他に用意された農家の訪問は出来なかった。

サッケオ県への訪問
 ナコンラチャシマー県の農家訪問を終え、サッケオ県に着いたのは午後1時でサッケオ県農政局長主催の昼食会に招かれ、ソムチャイ知事、副知事二人、農政局長始め関係者の方々に迎えられた。夜はほぼ同じメンバーで知事主催の夕食会に招待された。ソムチャイ知事とも面識があり楽しい夕食会であった。昼食後、県庁に招かれサッケオ県についての概略説明の後、同県でのEMの取組を紹介したビデオが放映された。水稲、野菜、果樹農家のグループ紹介、畜産、養殖、牛乳工場、製糖工場での利用の他、9校の学校の自給プロジェクトによる生徒の野菜栽培、EM活性液、青草醗酵液肥の作り方などであった。
 サッケオ県は、主産業が農業で、人口の約83%が農家であることから、有機農業、自然農法に力を入れている。農業は県の主要な収入源になっているという。同県では農家が活力を出せるよう、低コスト、高品質、持続可能な農業を目指していた。この他、農業省からの指示で、化学肥料を中心とする農業から有機農業への転換に力を入れていて、その代表的な3つの取組を紹介され見学することになった。次号で自然農法への実際の取り組みについて報告をさせて頂く。


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