農業の醍醐味.36回


続・タイを訪問して

はじめに
前号のタイ訪問記でサッケオ県への訪問までを掲載させて頂いた。国の新しい施策を受けて、サッケオ県では知事さんが先頭に立ち、県を挙げて、自然農法、有機農業に取り組んでいる様子を伝えた。今号では、その具体的な活動を3つの事例を通して紹介しましょう。

サッケオ県自然農法協同組合
 農業協同組合はサッケオ県に58あるそうで、そのうちの一つサッケオ県自然農法協同組合の組合長さんの農場を訪問した。現在、組合は120戸の農家で構成されている。組合長の農場は約10haで水稲、野菜、果樹、牧草を栽培し、にわとり300羽、豚500頭、やぎ120頭、肉牛50頭を飼育していた。自分の農地はもちろん組合内で自給畜産肥料を使用して循環型農業を実現していた。自然農法を始めて8年目となり、病害虫は自然農法を初めて3年目には克服し、農産物、畜産にも好成績をあげていた。農産物はレモンファームという会社(タイ国内でガソリンスタンドを運営している)を通してバンコク市内で販売されているという。この会社への卸価格は通常の20%位高値で取引され、売値は60%位高いが生産が需要に追いつかないと言っていた。    
組合長は40代前半位で、研究熱心で土づくりに最も力を入れていた。有機物の有効利用、EMの活用にも工夫を凝らしていた。組合長の農場は主に組合員の為の実験圃場として、この地域にどのような野菜が合うのか、有利販売できるのかを考えて新しい品種の導入をしていた。珍しい中国野菜の栽培を見せて頂いた。そして、その野菜を育てる為の土作りは、堆肥、ボカシ、EM活性液の活用法等を実験し、それを組合の農家に移すよう研究している。またサラブリセンターで研修を受けた人達をさらに組合長の農場で受入、実地研修をしてより確実に農家を教育していくシステムを作ったと言っていた。今後の目標は、需要を満たすために組合員数を倍に伸ばし、生産量を増やしていくことだという。ただ、組合農家に対しては、「化学肥料は使っていないか」、「哲学を持って取り組もうとしているか」を厳しくチェックするという。
組合長は趣味で軽飛行機を所有しているのか、EM散布は組合員の農地も含め飛行機で散布している。農場見学時に飛行実演をしてくれた。自然農法に本気で力を入れている県知事、農政局が、補助金、流通や技術支援等、様々なバックアップをしていることも協同組合が大きく着実に発展している要因であることがうかがえた。


パイナップル栽培の試験場

森林再生保護プロジェクト
 1989年国の政策として森林プロジェクトが始まった。サッケオ県にかつて約80万haあった森林が、プロジェクトの始まった年には約11万haに減少していた。その原因は山岳民族が山を移動しながら焼き畑農業をし、生活の為に木を伐ることにあるという。このまま荒れ地が増えればゾウなどの野生動物の生息地がなくなるばかりでなく、水源の確保も出来なくなり環境悪化の道をたどることになる。そこで山岳民族の平地への定住を国の政策とした。それは具体的には、森林に住んでいた人達の為に新しい村を作り、農地を与え仕事を与えて、新しい生活習慣の教育していくことであった。
1989年に949世帯の移住から始まったこのプロジェクトでは、移住してきた人達に居住地、耕作地等含めて一世帯あたり、約2.4ha土地が与えられている。開始当初は、慣れない生活様式への反発や、山岳民族間の争い等でデモや紛争抵抗運動も起こり警察の介入、守られながらの事業であったという。その名残として今でも警察の検問所があった。現在は3000世帯の人が8つの村に住んでいる。各村では、水稲、野菜、果樹栽培をベースに畜産、養魚、キノコ栽培、薬草栽培、竹細工(みごとな工芸品で注文に応じきれないという)等で生計が立てられているという。このプロジェクトでは、農業、畜産、水産技術等を指導し、村人の生活がしやすいよう取り組んでいる。今では植林により緑が甦り、森林も3200ha増え、動物が甦り、タイで野生のゾウが一番多くなっているという。
このプロジェクトにEM技術と自然農法が導入されたのは3年前で、EMの導入はこのプロジェクトの責任者である森林局のビアティープさんによる。4年前、全国各県の森林局の職員3000人を対象としたサラブリセンターでの研修会が開催された。ビアティープさんはEMに対してずっと批判的な意見を持っていたのでサラブリセンターでの研修会は参加したくなかったが、職務命令でしかたなく参加したことがEM導入の契機となった。この研修会に参加して同じプロジェクトに成功している所、特に東北部に多いという。この森林再生保護プロジェクトにEMを導入したことにより様々な分野で成果が出てきている。
このプロジェクトを実施している村の中には学校もあり、その学校の先生、各村の主だった人がサラブリセンターでの研修に参加し、帰ると森林再生保護プロジェクト地域内に試験農場を設け実地研修をしている。また水稲、野菜、果樹、花等を対象にマルチのあるなし、除草効果、生育調査等様々な研究や栽培試験をしている。EMを活用し皮が手でむけるパイナップルを開発したという。また、パイナップルは芯の部分が栄養豊富なのだそうで、その芯を柔らかにして芯から食べやすいパイナップルの開発に取り組んでいた。
森林再生保護プロジェクト地域内にビアティープさんの家があった。個人のものであるが、その家がゲストハウスになり、研修場にもなり、村人誰もが出入り出来るようになっていた。そこには数百鉢の鉢植えのデンファーレ(ランの一種)がいたるところに置かれていて本当に美しかった。デンファーレの栽培はEMを活用することにより成功し、数百鉢の試験栽培をしていた。これも村の特産品にしていくとのことであった。
このプロジェクトは森林局だけでなく、県農政局の協力を得て進められている。特に県知事からはEMの村になるよう強い願いが寄せられている。森林再生保護プロジェクトはサッケオ県におけるCEOの取組の一つとして力が注がれているのだと思った。

酪農農業協同組合
サッケオ県の3番目の訪問地は酪農協同組合であった。
この組合は1600戸の酪農農家からなっていた。自前の飼料工場を持ち、最新のコンピューター制御された牛乳工場を持っている。タイで二番目の規模を誇る牛乳会社で、76県中33県で販売している。ちなみに一番目はタイとデンマーク資本で出来ているという。
EMは畜舎や飼料作物の栽培で活用され、飼料工場での薬品添加もEM活用により極力抑えてきているという。ここの組合長さんはタイ国政府の農業の諮問委員(諮問委員に民間から全国で4名選ばれている)をし、県の詰問

コラート県庁前にて
前列右から2人目天野理事長、前列右から1人目県知事
委員等していて人脈も多く影響力の強い人で、タイが有機食品による世界の台所を目指すという政策を積極的に支持していると同時に、EM活用の積極的な推進者であった。また県知事の良き協力者でもあった。
サッケオ県で3ヶ所招待され見学させて頂いた。県知事さんのEM技術と自然農法に対するなみなみならぬ思い入れを実感させて頂くことが出来た。県知事は新しいタイの国策は私がかつてから考えていた通りになりつつあると言っていた。

アランヤプラテートを訪ねて
 サッケオ県はカンボジアと165km国境を接している。私達は国境の町アランヤプラテートに泊まった。翌朝、カンボジア側の町ポイペトヘ見学に行った。タイ人とカンボジア人は物々交換や商品の売買のため、日帰りでの出入国が許されているが、外国人は日帰りでの出入国は禁止されている。両国の軍隊がものものしく警備していた。私達は県知事さんの計らいで、出入国手続きなしでタイを出国し、カンボジア側の国境緩衝地帯に行かせて頂いて、その日の内にタイに戻ることができた。あまりの貧しさ、その光景に胸ふさがる思いがしたが、しかし、彼らは当たり前に生きているのだと思った。 

チャンダブリ県、サワットさんを訪ねて
  タイの最後の訪問は、タイの南東部に位置するチャンタブリ県のサワットさんという果樹農家を訪ねた。30年前政府から森林荒廃地約500haの払下げを受けて果樹園等の経営を始めた。現在管理している農地は約160haと言う。園内栽培されているランブータンの収穫は年間200〜300t、マンゴスチンは約100t、ドリアン、バナナ等の果樹を栽培して出荷している。この他、コショーは約3haに約4000本の木があり、この地の特産品になっているという。また、ゴムの木も園内50haの土地で栽培されていた。4〜6月の収穫期には一日に約1000gの樹液を収穫している。EMを使い始めて5年、ここ2年は病害虫も克服し、収穫、味とも優れ、自信をつけている。サワットさんは自信作の果物を県へ持っていって食べて頂くなどして県や政府から補助金を様々なところで頂いている。その補助金を活用してEMのボカシ工場を作り、それを販売していた。EMの代理店もしている。  
サワットさんはもう一つ、チャンタブリ有機農業同好会の代表をしている。会員は100人程でそのうちEMを活用して自然農法に取り組んでいる人は30人位だという。サワットさんの夢は農場の中央にある別荘を研修場としてサラブリセンターの支部みたいな小型のセンターを作りたいという。現在も自分の農場で、サラブリセンターで研修を受けた人、その他興味のある人達の実地研修を受入れている。農場では様々な実験、研究をし、その技術を会員の人達に伝えている。例えば、果物のランブータンの摘果には水を切る。水を切ると弱い実は落ちて丈夫な実が残る。化学肥料で栽培していたときは水を切ると枝の先が伸び落果しないという。果樹園は草生栽培で、1ヶ月に1回草を刈るという。土作りや、害虫対策に草の種類を工夫することが大切と言っていた。堆肥、ボカシを土の表面に散布していて土がふかふかしていた。様々な工夫を会員の人達に伝えている。
このような指導者(先に触れたサッケオ自然農法協同組合長始め)がタイでは全国で4000人いるという。人材が多くいること、育っていることに驚いた。この人達に共通していることは、しっかりと自然を観察し、自らの技術を生み出していることだ。将に、自然農法の基本をしっかりと捉え、自信を持って、夢を持って自然農法に取り組んでいることだった。今回の訪問はタイ76県のうち4県であったがタイに於けるEM技術と自然農法は、その根を下ろし、着実にその実力を発揮していくことを確信した。


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