農業の醍醐味.37回


続・タイを訪問して

NPO法人関東EM普及協会
理事長 天野紀宜

はじめに
今号では、タイ訪問に引き続きミャンマー訪問の報告をさせて頂く。ミャンマーへは、ミャンマー農業灌漑省との自然農法とEM技術の普及に関する合意書更新による訪問だった。
ミャンマー訪問は5年ぶりであったが大きく様変わりしていた。都市や村の様子は前回報告させて頂いた時と違い、都市は乗用車の多さに目をひかれ、村では屋根の上にまで人が乗った満員バスや、歩いて移動していた人達の姿は、バイクと自転車の群れへと変化していた。自然農法の普及状況、EM技術の多方面への活用も大きく変わっていた。空港へ迎へて頂いたのは、前回は、自然農法の普及が始まった時から普及活動の中心となって活躍頂いたミャンマー唯一の農業大学であるイエジン農業大学副学長のチョチョミン教授であった。今回はチョチョミン先生の他、農業灌漑省の幹部の普及担当者と共に出迎え頂いた。ホテルで一休みした後、農業灌漑省への表敬訪問となった。

農業灌漑省は14の部署に分かれていて、その一つが、MAS(ミャンマー農業サービス)で、ここが私達の活動を支援し、ミャンマーでの自然農法とEM技術の普及を担当している部署になっている。MASはミャンマー全土に14,000人の職員を抱え農業灌漑省では一番大きな部署だそうだ。このMASの幹部の方々との会合となった。それぞれ紹介、挨拶の後に合意書の内容について確認し、ミャンマー側からは、普及に関する支援に対して要望、意見等が出され、意見交換を行った。
ミャンマー農業サービスでの会談後記念撮影

その後、翌日からの視察には、MAS普及部の副部長サンニョさんが超多忙な業務の中、全視察日程を通訳として同行頂くことが告げられた。サンニョさんはイエジン農業大学を卒業し、アメリカに留学してマスターを取得している。1時間半位の表敬訪問だった。

ミャンマーの農業政策
 ここでミャンマーの農業政策、現状等についてこの度の訪問を通して説明頂いたことをまとめておく。
ミャンマーの最高意志決定機関は国家平和発展評議会である。その国家平和発展評議会が農業政策として4つの目標を出している。
1.特別栽培作目の収量目標の達成
水稲、砂糖キビ、豆、綿花等10品目に対して収量目標を設定している。
(例:水稲では10a当たり500kg、現在のミャンマーの平均収量は10a当たり約300kg)
2.確立された技術の普及
水稲で言えば栽培密度や水管理等、再現性のある技術を確立し普及していく。
3.利用可能な有機物(農業廃棄物、都市ゴミ等)の有効利用
農業廃棄物、都市ゴミ等の利用可能な有機物の有効利用が打ち出された背景には、現在、ミャンマーには、水田面積は約640万ha、その他の作物等栽培面積を合わせて、農地が全体で約1040万ha(ちなみに日本の農地は約480万ha、ミャンマーでEMを活用して自然農法を目指している農地は、2002年で55万ha)あり、その耕地に対して、化学肥料が圧倒的に不足しているという現状がある。ミャンマーでは窒素肥料の尿素を年間約20万t生産している。輸入は最大で年間約20万tを目標としているが、現状ではできていない。各作物の目標達成のための窒素分は大きく不足しているという。(除草剤、農薬はほとんど使われていない)そのため、有機物有効利用が最も重要な課題になっているという。政策1,2の目標達成においても有機物を活用し化学肥料を減らして行くことを進めている。
4.水源の確保
ダムの造成等の治水だが、電力問題などとの関連もありなかなか進んでいないと言う。
以上の4つである。

自然農法の取り組み
ここでミャンマーの自然農法の取り組についてみるが、EMを活用した自然農法がミャンマーに導入されたのは、今から14年前の1989年であり、本格的な普及が始ったのは、1992年末に合意書を締結してからである。現在、EM技術は作物生産に於ける有機物の有効利用においては非常に有効で、アジア経済危機以降、慢性的な化学肥料不足に悩むミャンマーにおいては、今、自然農法の普及にとってよい時期を迎えているという。例えば作物残渣や、後ほどふれるが都市ゴミの堆肥化等である。
新しい合意書が結ばれてから次のような動きがあったという。農業灌漑省の土地利用局とMASとの間で有機物有効利用のための委員会が出来た。委員は両局の各部長・副部長の中から選抜され、議長は土地利用局の局長で、書記の代表が今回私達に同行してくれた。MAS普及部副部長のサンニョさんであるという。委員会は大半が土壌化学者で構成されている。そして、この委員会は、ミャンマーに14ある内の10管区・州の11ヶ所において、2ヶ月に亘り3000名以上のMAS職員、2000人以上の農家を対象に有機物の有効利用についての研修会を開催した。                                            
この研修会では、EMの活用は勿論、アゾーラ(藻の一種)の活用やトリコデルマ菌の利用など含めて、有機物の有効利用の観点から行われたという。
EMのプロジェクトはMASが取り組んで10年になるが、今日まで、MASの普及部の中にEMプロジェクト全体を調整する担当者は一人であったが、この度二人増員して三人になった。そしてこの調整担当者(情報収集・発信、各地区普及所との連絡調整他を行う)にはMASの代表の名で必要な処理や問題解決が出来る大幅な権限を与えたという。問題が起こればMASの部長、副部長ですぐ対処するという。大きな変化である。
毎月、タウンシップ(町)から郡、各管区・州を経て、MASに成績や問題点などの報告が上がってきている。
一週間のミャンマー訪問の中でサンニョ副部長さんと同行したことにより、自然農法の普及やEMの活用について、現場の声を直接聞いたり、私たちの意見を述べる中で、実情や問題点が見えてきて、更なる普及へのはずみがついたことは大変良かったと思った。

CARTCへの訪問
ミャンマーの2日目はCARTC(中央農業研究訓練センター)を訪問した。ここでは若手職員の研修、様々な研究が行われていた。1995年5月より2001年10月の期間の雨季水稲3作と乾季水稲作2作でEM活用による水稲の収量へ与える影響について検討された。
ミャンマーで言うボカシは稲ワラ等の有機物を、穴を掘って積み上げ、EMを散布し、シートで覆って発酵させたもの(以下EM堆肥)で、日本でいうボカシは現地ではスーパーボカシ(以下ボカシ)をいう。


中央農業研究訓練センターの担当者と圃場

試験の方法は対象区(無施肥区)とEM堆肥、EM活性液、畜糞等の組み合わせで試験をしていた。この試験設定は後に触れるが中央農業調査研究所の農業化学部副部長でミャンマーのトップクラスの農業学者であるラティン博士のEM技術に関する調査研究の基礎になっている。同博士は、ニュージーランドでの第7回救世自然農法国際会議で発表していて、現在EM技術の普及に関して様々な提案をしている。
試験の結果は、EM堆肥区、化学肥料区、EM活性液区、EM堆肥とEM活性液区、畜糞とEM活性液区、無処理区で、化学肥料区の収量が一番良く、ついでEM堆肥+EM活性液の区の収量が良かった。この両区の差はほとんどなく、化学肥料を使わなくても同程度の収量を得ることができた。これらに次いで、畜産糞とEM活性液区、EM堆肥の単独施用区、EM活性液区、無処理区となっていた。この結果から、EM堆肥の単独施用区が無処理区に比べて収量が高く、EM堆肥+EM活性液区と比べると収量は劣るが、堆肥を作る労力やEM活性液を定期的に散布する労力と経費面を考えると、汎用性があることから、水稲栽培においては、ボカシの単独施用をMASの推奨技術とした。只、元々の技術であるEM堆肥とEM活性液の併用も収量的に見れば大変有効な技術であることから、推奨技術の中に併記されていた。これにより、農家は、圃場や栽培環境に合わせたEM技術の利用が選択できるという。
限られた人だが直接農家の人に会ってみると、EMを長く使用し経験している人達は推奨技術としているEM堆肥の単独施用だけでなくEM活性液をちゃんと使用していた。
私の方から、生育や病害等で問題点が少々見られたので、土と稲の観察をしながらEM活性液の使用の大切さ、EMがしっかり定着することによる累積効果等について意見を述べた。
圃場見学後昼食をご馳走になり、MASの幹部であるCARTCの所長さん、技術担当者との懇談となりEM活用に合わせ、自然農法についてお話し頂きたいとのことで、一時間弱自然農法の基礎、育土について話した。そしてこの度センターでまとめ英訳した「自然農法の基本技術」をプレゼントした。皆熱心にメモを取りながら聞いて頂いた。
次号では、現地の実情や、都市ゴミの堆肥化、有効利用等について触れたい

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