農業の醍醐味.38回


続・タイを訪問して
NPO法人関東EM普及協会
理事長 天野紀宜

はじめに
 前号でミャンマーの農業政策や、自然農法の普及状況についての概略を報告したので、今号では紙面の関係もあり3ヶ所の現地の報告をさせて頂く。

バイオファーティライザー製造所

生ゴミの堆肥化工場

(都市ゴミ処理場)
 CARTC訪問後、都市ゴミを堆肥化してバイオファーティライザーを製造している都市ゴミ処理場を見学した。広い場所に都市ゴミが運ばれ、週3回切り返しながらEM100倍希釈液を散布し、ゴミ置き場に3ヶ月積んでおく。約3ヶ月で分解が進んだ都市ゴミは、選別機にかけられて、主にビニールや鉄屑等と、荒い堆肥と、粒子の細かい土のような堆肥と三つに分けられる。 割合は都市ゴミ10t中にビニール等が6t、荒い堆肥が3t、細かい堆肥が1tだという。
 荒い堆肥はもう一度堆積し分解させて細かい堆肥にしている。細かい堆肥はさらさらの土のようになっていた。
 土のようになった堆肥は別の場所に移され、この堆肥と牛糞堆肥を3対1の割合で混ぜていた。牛糞堆肥は穴を掘りEMを散布しながら積んでビニールシートで覆い事前に発酵させていた。このときEM、糖蜜、水を1:1:48の希釈液を散布し発酵させている。袋詰めの時、化学肥料をわずかな量添加しN、P、Kの成分調整をしている。化学肥料の投入は国家目標として収量に対する数値目標が出ているのでしかたないことだと言っていた。都市ゴミを堆積しているゴミ置き場、分別場、牛糞の発酵場所等、どこもいやな臭いはなく、かすかなEMの臭いがした。工業団地の中とはいえ、近隣からの苦情はあったが、今は全くないという。
 1999年からこのシステム(都市ゴミから堆肥を製造)にEMを導入し現在までに1万t出荷したという。2002年は6000t出荷し、2003年の目標は7500tの計画で現在既に3000t以上出荷されている。ミャンマーの年度は5月より始まり、5月からは雨期に入るので都市ゴミからの堆肥製造は難しく、10月末頃の乾期に入る頃から堆肥製造が始まるという。私達が訪問した日は、私達のために特別に数十人で分別機械を稼働させていた。
 問題はバイオファーティライザー製造所がヤンゴン管区内だが、市内中心部から離れた工業団地内のため、ゴミを運ぶ経費がかかり現在の量の生産が精一杯だそうだ。
 堆肥は1袋25kg、約1ドルで販売している。これは他の資材と比べて安いという。人気も上々で効果も高い。供給が需要に追いつかないでいる。この問題解決のため、臭いの問題がクリアー出来ているので、今年度から運搬コストが安いヤンゴン市内に二つ目の堆肥置き場を作った。ここを見せて頂いたが、広い場所にEMの活性液を散布しながら3m位の高さまで都市ゴミを積んで、現在は1m50cm位の高さになっていて表面には草が生い茂っていた。EM活性液の散布は続けられていた。ここに例の分別機と牛糞を発酵させる施設を作る計画があるという。このような大がかりな都市ゴミの堆肥化は、ベトナムと我が国しかないと胸を張っていた。しかし、エジプト、インドネシア、ケニア等でも取り組んでいる。
 都市ゴミの堆肥化では、もう一つ新しい取組が始まったところだった。それは先ほど紹介した中央農業調査研究所のラティン博士が、ニュージーランドで開催された第7回救世自然農法国際会議で学んで来た生ごみのボカシ和えである。MASがヤンゴン市開発委員会の協力の下に進めているプロジェクトで、ヤンゴン管区にある25のタウンシップから二つのタウンシップを選定し、各50戸、合計100戸の家庭を対象としたプロジェクトが始まった。100戸にしたのはMAS普及部の予算が限られていたからであり、100戸の家庭の中には、MAS(ミャンマー農業サービス)の代表、MASの普及部部長、副部長さん始め幹部の人達が含まれている。

MAS中央農業調査研究所を訪ねて
中央農業調査研究所の試験圃場
 最後の訪問地ミャンマー第二の都市、古都のマンダレーへ行く途中にあるMAS中央農業調査研究所を訪問した。この研究所はミャンマー農業における中心的役割を担う研究所で、隣接してミャンマー唯一の農業大学イエジン農業大学がある。研究所の試験圃場の大きさに驚いた。240haあるという。ここで先述した研究所の副所長のラティン博士にお会いした。
 2002年から2003年にかけて、ミャンマーに14ある管区・州の内、10管区・州の80ヶ所において、MASは雨期水稲作においてEM技術を利用した圃場栽培試験を実施した。

 ラティン博士は、これらの圃場栽培試験で得られたデータを基に「EMを使った有機物の水稲収量に及ぼす効果に関して」と言うテーマでまとめていた。前もって詳しい報告書を頂いていた。
 無処理区 、N、P、Kを調整した化学肥料区 、EM堆肥とEM活性液区、EM堆肥とEM活性液とEMボカシ区、EMボカシのみの5つの処理区を設け実験していた。化学肥料が収量面から見れば一番高いが、化学肥料の入手の可能性と現在の価格では農家はとても必要量を調達できない。その為、EM堆肥、EMボカシ、EM活性液の利用を採用することは必須だといっている。ラティン博士は、今までのところ確実にいえることは、EMは堆肥を作る時間を確実に短くすること。水稲栽培においては、無施用区と比べて、10a(1反)当たり平均約105kgの増収効果があると言っている。サンニョ副部長は、国家目標として政府が掲げる1エーカー当たり100バスケット(1ha当たり約5000kg:1バスケット約21kg)は、様々な水稲の栽培試験の結果、現在の平均が約64バスケットで、EMを活用して20バスケット増え、合計84バスケットで目標はもう少しである。砂糖キビの目標達成は厳しいが、水稲の目標達成には自信があると言っていた。
 私の方から、収量目標は、国が決定した政策であることは理解できるが、長い目で見たとき単に収量を追うだけでなく、土づくりの大切さ、自然農法の哲学の大切さ、EM活用の累積効果の大切さについて話した。ラティン博士は、私の話は理解出来るが今はしかたがないと少しむきになって国の農業政策を詳しく説明してくれた。いずれは、自然農法を目指していかなければならないと言っていた。
 2時間程の話し合いの後、広い試験圃場を案内して頂いた。ラティン博士は忙しそうでここで別れた。ゲストハウスで豪華な昼食を頂き、マンダレーに向かって出発した。

マンダレーを訪ねて

マンダレーでの農家との交流

 早朝マンダレー管区のMAS事務所を訪問し、ご挨拶して、早速農家の圃場見学となった。午前と午後二つの村を訪ねた。
 最初水田に案内された。大勢の職員、農家の人達が集まっていた。水田の出来は良かった。ここで二つの水田の土の臭いを比較して観察し、それに連動する稲の根、下葉の枯れ具合、イネの堅さ等の観察をした。EMが圃場に定着しているかどうかの見分け方等、その後の集いで説明した。6年以上化学肥料をまったく使わずEMを活用している水田を見たが素晴らしい出来であった。
 水田での学びの後、村にあるMAS普及所での集会となった。近隣農家を中心に40人程集まっていた。最初に私の方から自然農法の基礎、土づくり、自然観察についてお話をした。その後、質疑応答に入ると活発な質問で2時間を超えても質問はつきそうもなかったが昼食時間になってしまったので終わりにした。
 午後も別の村のMAS普及所へ行くとやはり40人位の農家の人が集まっていた。最初にサンニョ副部長から私が午前中に話したことを纏めて話して頂いた。その後質疑応答になった。やはりするどい質問が次から次へと出てきた。EMの品質についても非常に敏感で種々質問が出た。サンニョ副部長は少し以前にも仕事でこの村を訪れたそうだが、ここまでの質問は出なかったという。お国柄、MAS本部の普及部副部長、マンダレー管区の幹部が揃っている前でのこれほどの質問は珍しいことであると、同行した谷木、今村両職員も言っていた。しかし、実状がわかったことは大変有意義であったとサンニョ副部長も喜んでいた。

終わりに
 6日間、MAS普及部のサンニョ副部長と同行でき、時間をかけて今まで出来なかった色んな話し合いが出来たことはお互い理解し合う上で大変有意義であった。マンダレーにはミン・ミン・メイさん(MAS職員)というEMの本格的な導入当初から普及を担当し、サラブリセンターでの研修会にも参加した人が地域普及を担当している。その為マンダレー管区の普及は、着実に伸びていて様々な工夫もされていた。他の部署、地域においては、担当者に理解頂いた頃には転勤してしまうということが多く、また一から始めなければならずアプナンの担当者は苦労してきた。副部長さんはEMの担当者をすぐに転勤させず、スペシャリストに育てることを約束してくれた。
 最後にこの度の訪問で思ったことは、タイと同じく、ミャンマーでも農家の人達は、日本のように情報が氾濫しておらず、自然から学ぶ姿勢をしっかり持ち続けているように思えた。サンニョ副部長も、私が、農業の指導者は自然であり、自然から学ぶこと、事実から学ぶことが最も大切であるというと、全くその通りで私もそう思っていると言っていた。
 もう一つ思ったことは、日本に於いては自然や生命を大切にした生き方暮らし方に転換して行くには、出来上がった経済システムが、大きな壁になっていることを改めて思わざるを得なかった。国によれば大小はあれ、また違う壁があるようにも思った。

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