農業の醍醐味.40回


遠別町を訪ねて
NPO法人関東EM普及協会
理事長 天野紀宜

はじめに
 7月26日から28日北海道を訪ねた。当センターの関連団体の二つの農場(三笠市、名寄市)を視察し、その後取材をするため遠別町を訪ねた。
 遠別町は、留萌支庁で日本海に面している。北へ100km行くと稚内で、水稲栽培の北限の地と言われている。水稲栽培と畜産が農業の主流となっている。
 遠別町では2カ所の訪問先を訪ねた。最初に訪ねたのは遠別農業高校の白崎定男先生だ。


遠別農業高校
後に触れるが、遠別微生物研究会紹介記事(日本農業新聞2001年〈平成13年〉11月19日〈月〉)に遠別農業高校を次のように紹介している。
 「遠別農業高校は、昨年11月に新校舎になった。農産加工室のほか無菌室を備えたバイオ教室や農業実験・自習室を地域との連携を深めるために、より地域に解放していく方針としている。同校の加藤克洋校長は『地域の農業が持続できるように、環境を考えた農業を目指して、利益を追求せずに、自習室で微生物資材を使って発酵させている。それを肥料や飼料として、農家に試してほしい』と話している。」


写真1 遠別農業高校白崎定男先生と実験ハウス

 学校の理解を得て、遠別町にEMの活用を広めたのは、この遠別農業高校の白崎定男先生であった。
 EMは、静内農業高校の先生から紹介された。最初はポケットマネーで資材を購入して学校でボカシを作り5〜6軒の農家に試してもらった。当時の一つのエピソードを紹介する。
 現在遠別微生物研究会(以下研究会)の会長である島内一彦さん(48)とのことである。ボカシを牛舎に散布し実験をしてもらおうと何回も足を運んだ。島内さんは、以前EMを説明書だけ見て一寸使ってみたが、効果が出ずEMは駄目なものと思っていた。あまり足繁く白崎先生が来るので気が進まないままボカシを散布したところ、牛の足の病気である蹄間腐乱(しかんふらん)に効果が現れた。このことがきっかけとなって二人三脚で地域へのEM普及が始まった。
 EMの効果が一つずつ実証されるに従い、実践者が増え、ボカシの需要が増え、ポケットマネーが続かなくなり、研究会が発足したという。
 現在は、後に詳細するが畜産では一定の技術レベルまで達したので、畑作でのEM活用に意欲を燃やしていた。学校の加温室でストチュウが相当量作られていた。最高の品質にこだわって心を砕き、工夫をしていた。

 EM活性液、ボカシ、ストチュウその他の資材を使いながら土を育てることを主にして、校内の二つのハウスでトマトとメロンの栽培試験をしていた。
 ストチュウは、やはり最初は希望する農家や、これはと思う農家へ無料で使って試してもらうという。まずは化学肥料・農薬を否定するのでなく、例えば、ストチュウは、農薬と違いマルハナバチを入れたままで散布できること、葉カビに効果があること、糖度が上がること等一つずつ手応えを掴んでもらえるよう1年〜2年かけて仲間作りをしていく。最後は土作りを通して有機農業への取り組みを目指すという。地に足のついた取り組みであり、地域を思う心、根気と情熱の感じられる取り組みであった。白崎先生のお人柄そのものが良く表れていると思った。
 現在、遠別町に35軒の畜産農家があるが、33軒でEMを活用している。町役場の産業課長さんが、「隣町の天塩町は臭うが、わが遠別町は臭わない」と言っていると言う。臭いというのはもちろん畜舎や畜糞の臭いのことだが、臭いが無く、綺麗なところで作業が出来ると言うことで町のお嫁さん対策になるのではないかと、白崎先生は夢を語っていた。


茂野牧場を訪ねて
 次に訪問したのが茂野牧場で、この牧場の農場長であり、前述した研究会の会長である島内一彦さんにお話を伺った。
 茂野牧場は、1400頭のホルスタインの肉用牛を飼育している大型牧場で、産後1週間の子牛を購入し、19〜20ヶ月で出荷している。
 島内さんがEMを導入したのは前述したように畜舎の床にボカシを散布したことにより、跂間腐乱間腐乱が軽減したことであった。しかし、臭いの軽減は劇的であった。EM活用以前は、お互い、堆肥を散布するため堆肥運搬の車が道路を通っただけでしばらく周辺に臭いは残り、勿論搬入した農地からはしばらく臭いは消えなかった。ところが今は誰がどこを通ってどこで堆肥を散布したか分からなくなってしまった。また、EM導入以前畜舎では、3日にあげず天井まで掃除し完全消毒をしていたので事故率(牛の死亡率)は少なかったが薬づけであったことが、EM導入により、薬剤による消毒はしなくなったが更に事故率は軽減し、ほとんど事故は無くなってしまった。さらに牛の増体重(飼料要求率)が向上し、成長のばらつきが無くなった。等々一つ一つ実績が表れてきた。
 また、ある時一軒の酪農家で乳牛の尿が大量にビート畑に流れ込むという事故があった。ビートは枯れてしまうと思ったが一日だけ葉が弱ったがその後は以前にまして育ち、思わぬ収穫となった。この偶然の出来事をヒントに、10a当たり25tの生糞を土がやせたビート畑に入れてみたところ、大きすぎるくらいのビートが収穫できた。それでいて硝酸体窒素の問題は無かった。肥料メーカーで土壌診断をした結果、この畑では、10a当たり20t位の生糞の施用であればカルシュウムがやや少な目だが土の化学性は完璧であると診断された。


写真2 島内一彦さんとEM活性液の散布装置を付けたロールベラ

 この様な実績の積み重ねが自信となってEMの活用は着実に広がっていった。今一番感動していることは次のことであるという。今年の6月15日から18日、乾草をロールベラで、1ロール当たり1?(100倍活性液を2倍にしたもの)のEM活性液を散布しながらロールした。たまたまEM活性液が切れてしまいEMのかからない二つのロールが出来てしまった。これがとても興味深い結果をもたらした。
ロール直後の乾草の水分を測ったところ草が若かったので25%あった。EM活性液を散布しないで巻いたロールは、2日か3日で温度が40℃迄あがり1週間したら下がり、3週間したらまた上がりだした。今回訪問して見た時には、カビが生え、枯れて茶色い色をしていた。
EM活性液を散布したロールは、温度は上がらず、草の臭いが残っていて青い色も残っていた。さわってみると湿度も残っていた。牛の嗜好性も大変良いという。EMを活用している農家は皆ロールベラーにEM活性液の散布装置をすでに付けてしまったという。
島内さんは「乾草の品質が良くなることは大変な事だ。次々と実績が表れてくるEM活用がある限り、ほかの微生物は入らないだろう。」と言っていた。

遠別微生物研究会
 ここで、研究会を取り上げてみたい。研究会は2001年(平成13年)1月、地域の農家有志26人で発足した。現在会員は約60名で、会長は島内さん、事務局長は白崎先生、副会長2名、監査、顧問(遠別農業高校校長)からなっている。会員の内訳は、遠別町の畜産農家35軒の内33軒、畑作農家約10軒、他は近隣町村の畜産農家が多い。
 研究会の主な活動は、ボカシや活性液の作り方等の講習会、畜産、畑作の研究会、帯広畜産大学佐藤教授等による講演会である。佐藤教授は、遠別町で「有用微生物給与試験」を行い、その成果を学術的に各方面に発表している。
 この研究会の特徴は何と言ってもボカシとEM活性液作りにある。そもそも研究会の発足の契機は、白崎先生がポケットマネーで作るボカシの量に限界がきたことにあった。研究会が発足してからは、材料代とほんの僅かのプラスαで活性液とボカシを会員に頒布している。半年くらいは農業高校で仕込んでいたが、その後は会長の農場で作られている。
 見せて頂くと活性液はpH2.9〜 3.1で臭いも大変良く高品質のもであった。ボカシも大きな加温室の中で発酵させているのと出来上がったのがあったが良い臭いであった。高品質で安定したものを出すよう心がけているという。頒ける値段は低額で、学校から始まったのを引き継いでいるのでほとんどボランティアであるという。
 研究会を中心にEM活用を通して畜産、畑作、水稲に着実に成果が出て、その輪が力強く広がっている要因は、島内さん、白崎先生、研究会の中心を担う方々がいることは勿論だが、統一した、高品質で安定したEM活性液とボカシを供給することにあるのだと思った。


町との関わり

 町からは3年前から活性液、ボカシに対する助成金として150万円から250万円支給されている。農協からボカシの材料を買っていることもあって、農協が会員からの活性液とボカシの注文を受け、出来上がったものを配達してくれている。
 また、平成14年2月、遠別町は、情報公開時代を迎えて、行政情報の共有が重要との認識から、役場の毎月1回開いている課長会議を拡大して、町民や団体役員らを役場に招いて意見交換や課題検討を行う「地域課題懇話会」を発足させた。「農業などにおける微生物活用の将来性」という部門のメンバーで研究会会長の島内一彦さんが選ばれている。


おわりに

遠別町では、畜産のEM活用技術は定着していた。畑作、水稲にしても白崎先生がすでに取り組みを始めているし、研究会の活動や町の後ろ盾もあり着実に伸びていくと思った。ただ、先にも触れたが、高品質で均一な活性液とボカシの提供が大きな力になっていると思うが一部に負担がかかっているので次の人材育成が課題と思った。


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