農業の醍醐味.44回


NPO法人関東EM普及協会 顧問
(財)自然農法国際研究開発センター 理事長
天野紀宜

はじめに
 4月21日から28日迄8日間中国を訪問した。反日デモの最中であった。
 中国は、経済中心の発展に全力を挙げているが、経済発展に偏りすぎると、お金の価値ばかりがクローズアップされ、人間の飽くなき欲望をベースに、際限なく成長と消費を求めて自己中心的な生き方になってしまう。自分に不都合なことは一切排除し、攻撃し、他人への思いやり、環境への配慮等は二の次三の次になってしまう。
 この度の訪問を通して、自然農法の理念をお伝えする中で、相手の立場に立つことや、人のためにたつ喜び、あらゆるものに対する思いやりの心などを伝えなければと少し構えて訪問した。
成田から青島に入り、青島から中国国内機で臨沂市に飛んだ。青島では以前日本に招待したことのある青島市農業委員会対外経済合作部長呉さんが挨拶にきていた。時間も少なくすぐ臨沂市に発った。臨沂市では空港で政府関係者の方々の迎えを受け、ホテルへ着く間もなく歓迎会が始まった。
 歓迎会には臨沂市常務副市長の徐景顔さん、関係部署である人事局の正副局長さん、農政局正副局長さん方々が出られ挨拶を交換した。報道関係の人も多くいた。 今号では前号に引き続き、「自然と人間の関わり」について取り上げた。前号では、クマの人里への徘徊、農林業の大きな問題となっている獣害から自然と人間の関わりについて考えてみた。その自然と人間の関わりについて、自然農法の創始者の自然観を基に考えてみたい。
 引き続き夕食の招待を受け宴会が始まった。ホスト役は山東省人事庁常務副庁長の黄麟英さんであった。この方は山東省の人事業務を統監する重要な人物で、私達が山東省にいる間様々な手配をして下さった。とても友好的で、すぐ心が打ちとけた感じがした。心が通い合い、志を一つにする人たちであることを確かめ合うことが出来た。
 ここで少し訪中の目的について触れておきたい。私どもの財団法人自然農法国際研究開発センターでは、1991年に海外研修制度を設け、中国から6名の研究者を招いた。1997年には客員研究員制度が誕生して今日まで、中国からは18名の大学教授はじめ省や市の教授クラスの研究員を招聘している。2002年からは3ヶ月の短期研修制度を設け、15名の主に若手の研究員を招き、自然農法における試験研究や様々な技術、情報交流をしてきた。農家への研修生として8名の農家研修も受け入れた。昨年の8月にはEM技術の普及を願って3名の研究者にEM技術の基礎的学びや、活性液やボカシの作り方の実習もし、優良事例の視察もして頂いた。
 当センターの海外研修制度が設けられてから14年の間、50名程の中国の研究者と様々な交流をして来た。
 当センターの中国への自然農法普及の基本的な考え方は、中国へかつては職員を派遣していたが、今後は中国は中国の人で普及するということを基本的なスタンスとした。そのために、教授クラスの人や若手研究員を招聘してきた。この方々が中国に帰っても当センターとの交流が途切れることなく、より良い形で発展していくことが大切なことだ。また、中国国内においても客員研究員、短期研修生同士で交流しあえることが、中国に於ける自然農法の研究、普及の発展には大変有意義なことであり、重要なこととなる。
 そのようなことから、この度、第一回の有機農業と自然農法国際フォーラムを開催することになった。そのための訪問であった。今後は年一回の開催を予定している。将来は、フォーラムを運営し、中国での自然農法の普及に取り組めるしっかりとした組織が生まれることを願っている。
 もう一つ今回の訪中の目的は、昨年8月EM技術の普及を願って招いた3名の研究者のその後の活動の様子の視察と今後の打ち合わせであった。その視察地は、今回の第一回有機農業と自然農法国際フォーラムの開催地の山東省臨沂市、同じく武城県、吉林省公主市であった。この三カ所に自然農法や環境活動、その他幅広いEMを活用したモデル地域を育てたいと願い研修し、EM200Lと糖蜜を100Lずつ提供していた。


第一回有機農業と自然農法国際フォーラム開会式で挨拶する天野顧問

第一回有機農業と自然農法国際フォーラム
 中国訪問第一日目が今回の訪問の中心の行事である、第一回有機農法と自然農法国際フォーラムが行われた。開会式では私達を迎える側の主な人たちの紹介があり、私達一行が紹介された。続いて臨沂市常務副市長の徐景顔さん、山東省人事庁常務副庁長の黄麟英さんの挨拶があった。
 お二人とも中国の経済発展は目ざましいものがある反面、経済発展に追いやられている農業にも力を入れている。特に有機農業に力を入れているので当自農センターに寄せる期待は大きいと云うような内容であった。 私は少し長い挨拶になってしまったが自然農法センターの理念、当自農センターの普及の願い、中国への期待等を伝えた。
 フォーラムに移ると最初に比嘉先生の特別講演をお願いした。自然農法と有機農業の違いから、自然農法は単に農業に取り組むことのみでなく、健康から環境、生き方、暮らし方すべてを含んだものであること、EMの活用によってその理想を達成できること。抗酸化力等のEMの特性、活用法、事例など、分かり易くお話し頂き大きな反響があった。
 中国側の最初の発表は臨沂市農政局の周緒元さんで、テーマは「臨沂市の有機農業の発展企画」であった。フォーラムは中国語で行われた。隣で同時通訳をして頂いたが充分に聞き取ることはできなかったので聞きとれた範囲で大まかに報告する。
 周さんの講演は、臨沂市の紹介と農業政策、有機農業への取り組みであった。
 臨沂市の紹介では、人口は1014万人、面積は山東省で一番大きい。また、古い歴史を持った町で、古くは紀元前500年頃に書かれた孫氏の兵法が発掘された地であり、諸葛孔明や王義之、その他有名な人の生誕の地であるという。観光地として整備されている。
 農業施策、有機農業への取り組みについては次のようであった。中国の経済発展は目覚ましく、年13%の経済成長率と言われているが、昨年の臨沂市の経済成長は17%に達したという。そんな中で、1014万人の人口の内約600万人が農民で、GDPにしめる農業生産の割合は12%だそうだ。そんなことで農民は工業や商業へと流れているが、臨沂市としては農業の発展に特に力を入れているという。その柱として二つ挙げていた。一つは有機農業の普及により輸出に力を入れること、もう一つは、加工食品への取り組みである。
 臨沂市の農地面積は66万ha、緑色食品という安全な農産物の栽培面積は7万ha、そのうち有機農産物として中国国内の認証を受けている農地は2万9千haで35の会社(多くの農民をまとめている会社)で54種類の野菜の認証を受けている。
 ちなみに当自農センターの認証をしている農家は514戸で、農地は約450haで日本全体の1割強を認証している。
 全ての農作物の輸出額は35億ドルで日本へはその内の60%が輸出されていると云う。特に住友商事、トヨタとの契約による有機農業への取り組みが進んでいる。
 2003年から臨沂市の農業は国家重点基地に指定された。気候は日本で云うと中部地方に位置し、自然は豊かでほとんどの作物が栽培されていた。臨沂市政府ではEMを活用した自然農法を本格的に取り入れたいとのことであった。翌日には見渡す限り地平線まで続くゴボウとニンニクの圃場を見学したが、その様子は次号で紹介する。すでにEMの活用は進んでいた。
 次に南京河海大学の邵教授から「水源浄化と汚水の農業利用に於けるEM技術の応用」、続いて濱州職業技術学院講師の李万才さんの「黄河デルタ地域塩害土壌改良におけるEM技術の応用」、最後に今回のフォーラムをセットした当自農センターの理事で副農場長の徐会連さんの「自然農法の理念と実践」の講演が行われた。その後、比嘉先生のまとめがあった。その内容を通訳を通して聞いたことと比嘉先生のコメントを併せて簡単に報告させて頂く。
 河海大学の邵教授は中国が目指している農業の近代化の中で、大学ではお金をかけた施設園芸、機械化の研究をしている。その結果施設の塩害や様々な問題が出ている。その問題の克服にさらにお金を掛けて研究している。例えば土壌の塩害は地下にパイプを通して水で土壌を洗うと云うことであるが、そんなにお金を掛けなくてもEMを活用すれば簡単に解決できるとの発表だった。
 もう一つの発表は中国は水質汚染が進んでいるが、EMで処理して農業利用に成功しているとのことであった。また、河海大学では修士課程、博士課程でEM活用の論文がでてきたことは嬉しいことだとまとめていた。
 李万才さんの黄河デルタでの塩害対策での発表では、2001年にこのプロジェクトは始まった。EM活用による効果は最初の試験から出たとの発表であった。生ゴミ、汚泥、鶏糞、植物の残渣をまぜ15日間EMで嫌気発酵させ、1haに700kg〜1000kgを混入することで良い作物が育つ。
 分析結果では効果ははっきりしていた。塩分は勿論、pH、EC(電気伝導度)は下った。アルカリ土壌の塩害が除去され、土壌への養分の蓄積が認められた。塩害の強い黄河デルタで自然農法ができることが証明されたとの発表であった。
 比嘉先生はこの結果は中国農業ばかりでなく、世界の塩害による砂漠化を克服することが出来るある意味では革命的な成果であると評価していた。次の吉林省農業科学院水稲研究所の張博士の発表では水稲の育苗から収穫まで様々な実験をし、その結果のデータを発表していた。比嘉先生は少ないEMを効果的に使うと云う基本的なところは完成に近い、更に進めるには有機物を堆肥にはしないでそのまま使う方法を北朝鮮の米麦二毛作に成功した事例を挙げ説明された。

 最後に徐会連さんの講演があった。自然農法の創始者岡田茂吉の哲学を科学的に説明した。その一つは農薬や化学肥料が病害虫を呼んでいるということを硝酸態窒素の分析や酵素活性で証明した。分かりやすい説明には納得のいくものがあると比嘉先生も高い評価をしていた。
 比嘉先生からこのフォーラムが非常にレベルの高いものであると云うまとめを頂いた。今号ではフォーラムまでの報告をし、次号に現地見学の様子や感じたことを報告したい。

以上

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