農業の醍醐味.45回


NPO法人関東EM普及協会 顧問
(財)自然農法国際研究開発センター 理事長
天野紀宜

はじめに
 前号に引き続き中国訪問の報告をさせていただく。
 4月21日から28日までの中国訪問のもう一つの目的であった山東省臨沂市、山東省武城県、吉林省農業科学院の所在地公主嶺市における自然農法のモデル作りへの取り組みについて報告をさせて頂く。

 まず、臨沂市での取り組みである。24日、午前、臨沂益康有機農業科学技術園有限会社の開業式に出た。本来ならば、今回は日本に招聘した客員教授や研修生を中心とした中国での自然農法を普及して行く組織の発会式を行う予定であったが、登録などが間に合わないことにより、上記の有限会社の開業式がその代わりとなった。
 この会社は以前報告したことがあるが、中国全土から日本に来て活躍している中から選ばれた学者100人が、その知識を生かして中国に投資をしたり、会社を起こすことを奨励されている。その奨励によって自然農法センターの副農場長である徐会連が、オーナーと言う立場で作った会社だ。臨沂市にはこの制度を受け入れるための高新技術産業開発区という特別区があり、そこには、中高層の立派なビルと工場、広大な工場用地が繋がっている。省や市の予算で出来ている。会社を起こすと、このビル内に事務所が与えられ、工場や工場用地も与えられる。その他の支援もあるという。そのビルの一室に会社の事務所である、徐会連工作室があった。市の幹部職員二人が兼任ではあるが派遣されていた。今後、社員を何人か雇っていくという。会社の役員、経営は中国の人たちで行う。
 会社の主な業務内容は、自然農法の普及、EM製造とボカシや堆肥などEM関係資材の製造である。

会社開業式のテープカット

EM活性液製造タンクと自動ビン詰め機
開業式には、来賓として正面中央に列席した。フォーラムに参加した人、それ以外にどういう人か分からないが、多くの人達がいた。最初に私達が紹介された後、徐会連が挨拶、高新技術産業開発区の責任者の挨拶、山東省人事庁副庁長、臨沂市副市長の挨拶があり、テープカットに移った。
 私も言葉が分からないままテープカットに加わった。テープをカットすると、紙吹雪が舞った。その後、いきなり祝砲の大きな花火が鳴り響いた。5〜6発だったと思うが、予期していなかったので、すさまじい音にいささか驚いてしまった。
 その後工場の見学に移った。工場にはEM製造の大きな10tタンクが3基、EM活性液を作る16tタンクが2基有り、自動式の瓶詰め機械が用意されていた。あまりにも大きなEM製造のタンクがしっかり用意されていたのにはびっくりした。
 最後に、徐会連工作室を見学した。20畳くらいの一室に事務机と応接セットが置かれていた。事務所の責任者の李輝さんは当センターで研修した元客員研究員でいかにも人柄の良さそうな人で、評判の良い人であった。責任者を補佐する人は私達の通訳をしてくれた日本語の堪能な趙理さんだった。

圃場見学
 圃場見学はニンニクの圃場であったが、見渡す限り地平線まで続いていた。2万haを有機で栽培していると説明された。よくよく聞くと土壌と種だけは消毒しているという。近い将来4万haにするというはなしだ。
 この2万haの圃場では、すでにEMを活用して成果を上げていた。技術指導をしている政府の技術者は「EMの効果ははっきりしている」と言っていた。

どこまでも続くニンニク畑

 EMの活用法は、作物残渣を鋤き込んでEM散布をした土作り、葉面散布、堆肥作りなどで、特にニンニクの収穫前にニンニクの芽を出荷しているので、芽を摘んだ後EMを散布しているという。出荷量は10aでニンニク約1.5t、ニンニクの芽1.5tだという。
 次の圃場はゴボウを栽培していた、6000haの農場だった。多くの農家が集まり、一つの組織となって、市、県、鎮等の政府の技術者が指導している。10年前よりゴボウを栽培しているという。ゴボウの後はトウモロコシ、インゲンを栽培し、ゴボウに戻るローテーションを組んでいて、間に豆科の作物を入れているので連作障害は出ていない。ここでもEMを活用していた。トウモロコシやゴボウの残渣を家畜糞とEMでしっかり発酵させて年1回秋に鋤込んでいる。8t/10a位といっていた。病害虫に対してはEM散布やニンニクや様々な植物を入れてEMで発酵させた液を散布している。
 無公害農業(低農薬低化学肥料使用)から有機農業へ基準をしっかりして取り組んでいきたいと言っていた。
 今までEMは香港から買っていた、これから近くで購入できるので嬉しいと言っていた。予想していた以上に有機農業への取り組み、EMの活用が拡がっているのには驚いた。中国における自然農法のモデル基地として育ててゆきたいと思い、来てみて良かったと思った。山東省政府、臨沂市政府も我々に対して大きな期待をしていた。良いモデルに育つと思ったと同時に心強い思いがした。この後、比嘉教授、EMRO中国(南京)の担当者、臨沂市、武城県の担当者と、既に立派な工場が出来上がっていたことも踏まえEMの供給のあり方や今後の講習会のあり方などを話し合った。

済南市へ
 翌日は、臨沂市を早朝に発って、済南市へ向かった。第二のモデル候補である武城県の方々と話し合うのが目的であった。
 途中、山東省で一番有機農業が進んでいると言う、肥城市というところの有機農場を視察した。この農場は、私達とは全く関係のない農場であったが、日本の有機認証を受けている農場と言うことで見学させていただいた。
 行ってみると大きな看板が立っていた。ジョナとICSの認証圃場の看板だった。見渡す限りブロッコリーを栽培していた。圃場は、2000haで様々な野菜を栽培していて、完全な輪作をしているといっていた。ブロッコリーは見事に生長していた。
 ジョナでは1ヶ月〜2ヶ月に1回見に来てアットランダムに数カ所の土を採種していって残留農薬検査をしているといっていた。この広い圃場の野菜は全て日本の人が食べるのだと思うと複雑な気持ちがした。
 話は違うが、大変ありがたいことであったが、少し閉口したことがある。全日程訪問先の政府から接待して頂いたことである。食べきれないご馳走とお酒には参ってしまった。毎日昼と夜は接待を受けた。この日も昼は、肥城市での接待を受けた。政府の関係者6人と一緒に乾杯をし、ご馳走を頂いた。単に見学させて頂いただけで、徐会連も初めての訪問地であり、面識のある人はいなかったが、山東省政府が全てを手配してくれていた。夜は、山東省人事庁福庁長の黄さんの主催による省として最高のお客様の接待だと言って大変豪勢な宴会であった。
 26日は武城県の自然農法の普及について話し合った。話し合いは、武城県の農業担当副県長の王振祥さんと武城県へ応援出向している武城県党副書記兼務の山東省政府人事庁事務局長の王振乾さんであった。武城県は、企業が少なく貧しい県であるという。それだけに、農業に力を入れていて特に有機農業に力を入れ自然農法の技術の導入には強い関心があった。
 主な農作物は、ヒラタケやマッシュルームなどのキノコが一番で綿花、小麦、トウモロコシ、西瓜、トウガラシ、果物などである。
 EMの供給のあり方や自然農法普及上で基本的な考え方、EMの活用の仕方、先ず、武城県の農業指導者の講習会(EMRO中国に講師をお願いしている)から始めるなどを話し合った。自然農法の普及が着実に進むのではないかと心強い思いがした。この日も接待を受けて、吉林省長春市へ向かった。長春には午後8時30分ごろついたが吉林省有機農産品協会の招待があり、夜11時近くまで宴会で少々ばててしまった。

吉林省にて
 翌朝8時30分から会合が始まった。最初に吉林省有機農産品協会が発会して丁度一年になるのでその一年の報告がされた。
 この協会は国の作った組織ではなく、吉林省が任意で作った組織で民間の組織と云っていた。協会の理事長は吉林省農業委員会の委員長さんで、メンバーは農業委員会の職員、いつもおつき合いしている農業科学院水稲研究所の張さんと金さん。そして主な会員は精米業者であり米の加工業者であると云う。事務局は農業委員会の職員が専属で担当している。主に稲作を中心に有機農業の普及、販売を目的としている。水稲の栽培面積は3000haである。
 報告の最初に中国政府としては、農政局に代る農業委員会をつくって新たな農業政策に取り組もうとする省が少ないので吉林省の農業政策に注目していて、中でも有機農業への取り組みに注目しているとの報告があった。
協会の一年間の取り組みをまとめると次の6つであった。
1.普及では水稲研究所の普及技術の研究に力を入れている。
2.水稲栽培のモデル基地を作り8月に見学会を行った。
3.水稲に於ける有機栽培の手引きを作った。
4.中国で一番大きな認証団体から認証を受けた。(3000ha)
5.自分達の協会で有機認証ができるよう基準作り、技術の勉強中である。
6.中国政府から水稲品種の開発依頼を受けている。在来品種が多すぎるので有機農業に適した良い銘柄を作って欲しいとのことで取り組んでいる。
以上のような取り組みであった。
 その後、要望事項として日本に於いて自然農法技術者養成。一週間10名位の見学者の受け入れ、自然農法技術者を迎えての講演会等であった。この自然農法技術者のお願いについては中国政府に経費負担を要請中であるといっていた。
 私の方から6ヶ月間一人の技術者要請を受け入れること、見学の受け入れは今年は農業試験場の15周年の行事や、すでに外の受け入れが決まっているので無理であること、講習会はとりあえずはEMRO中国の人に行ってもらうことを伝えた。また、EMの入手方法など話し合った。
 EMの活用は吉林省では少し遅れていた。水稲研究所のポット試験や育苗などの試験は以前から行われていたが本田での試験は昨年より10haで始まったところである。今年は本格的に様々な試験をし、普及につなげていくとのことであった。この話し合いの後、常務理事である原川研究部長から水稲の講習会が2時間位行われた。質問も多かった。

まとめ
 私達が予想した以上にEMを活用した自然農法への取り組みは進んでいた。また、私達に対する期待の大きさを感じた。
中国はまさに有機農業ブームといっても良い。ただ有機農業と一口に云ってもその内容は千差万別でピンからキリまであるようだ。4年ほど前に訪問した時と違って経済的支援を求められたことは一つもなかったが技術支援に対する期待は大きいものがあった。
 今回の訪問で気になったことが一つある。高速道路、都市の道路、農道まで道路という道路には街路樹が植えてあった。どこの省、どこの市に行ってもほとんどがポプラであった。自然の意志は常に多種多様になろうとしている。一種類の植物が優先することはない。いつかは必ず多種多様な方向へ向かわざるをえないのではないかと思った。そのことで質問してみるとポプラに毛虫が大量に発生し、道路のアスファルトが見えなくなったりする時もあるという。この度山東省を通り、吉林省から遼寧省、北京を経由してきたが日本の緑が多いこと種類が豊富であることをあらためて実感した。

以上

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