農業の醍醐味.47回


NPO法人関東EM普及協会 顧問
(財)自然農法国際研究開発センター 理事長
天野紀宜

はじめに
福田さんご夫妻(中央)と天野顧問(右端)

 8月19日、青森県南津軽郡藤崎町で主にリンゴを約3ha栽培している福田秀貞さんを訪ねた。藤崎町は我が国のリンゴの半分以上占めている品種「ふじ」の発祥の地で、原木が今でも実をつけているという。
福田さんは30年前から除草剤を使用していない。そのきっかけはお母さんが、50年位前から健康医学社の会員になったことにある。健康医学社は、黒岩東五と言う人が主宰している全国組織で、健康のもとは血を綺麗にすることにあるとして、玄米によるライスビネガーや電気真空浄血治療器などの普及をしている。特に、健康は、健康な食からと食の啓蒙運動に力を入れていて立派な機関誌を発行している。
 EMとの出会いも健康医学社であった。平成5年、健康医学社の弘前支部総会の折、支部長から「EMでやれば無農薬栽培も可能だ。」と紹介され、平成6年からEMを活用し無農薬栽培に本格的に取り組み始めた。

自然農法への挑戦
 EM活用以前は減農薬で栽培していたが、EMを活用してからは無農薬のリンゴ栽培を決意し、平成12年、無農薬に成功するまで様々な試行錯誤を繰り返した。中でも大きな失敗は二つあったという。一つは、EMの濃度障害であった。リンゴの若葉が出たときに、300倍のEMを散布して若葉が落葉した。落葉するとリンゴに味がのりにくくなる。若葉の時は1000倍にすることを実践を通して学んだ。
もう一つは、黒星病である。黒星病は、何回か挑戦したがEMでは対処出来なかった。ある年は、80%が黒星病になってしまった。黒星病は、リンゴの皮の表面に黒い斑点が出来る。リンゴの皮以外は何の影響もないが、この斑点が出来ると全く商品価値がなくなる。ただ、消費者である健康医学社の人たちに買い支えて頂いたという。
リンゴの黒星病だけは何をしても克服できなかったが、摘果したリンゴや商品にならないリンゴをEM活性液に浸けアップルビネガーを作り、その散布を行った。また近年、イオウ剤(コロナフロアプル、黒星病に80%位は効果があるという。)が有機使用できることがわかり、有機取得への道が見えてきた。
 昨年9月有機JASの申請をしたが、有機JASの使用禁止資材を知らずに、一部ふらん病の予防とカルシュウム剤を使用していたので認証を得ることは出来なかった。ただ、この使用は一部であったので、今年はその圃場以外は有機JAS認証の申請をする。その圃場は換期間中となる。
 リンゴ栽培で有機JASの取得をしている人は全国で10人迄はいないと思う。まして全面積目指している人は殆どいない。福田さんは有機JAS認証の取得に自信を持っていた。自然観察を心がけ、自然のダイナミックな変化や微妙な変化に対応できる知恵と自信が感じられた。
 ここまでこられたのは、理解ある消費者に支えられたことと、私たちが生活していく上で一番大切なものは健康であるという信念である。福田さんとお話ししていると、自分にも良く、食べる人にも良い健康で美味しいリンゴを育て、喜んでもらいたいという気持ちがひしひしと伝わってくる。
 もう一つ見逃せないことは、福田さんの一つのことに取り組んだらそのことに徹底しなければ気が済まない、何事も先が見えるまで諦めないと言う性格にあるのだと思う。
健康医学社に入れば電気真空浄血治療器使用の資格を取ったり、明治大学農学部在学中易に懲り、その易の勉強は現在でも続け、あの難解とされる真言密教の易に関するお経をマスターしたという。そんなところにも福田さんの諦めない、徹底する性格が表れている。

病害虫対策
病害虫をすべて排除するのでなく、共生しながら実害を抑制することを病害虫対策の基本としている。
今年の5月リンゴの花が咲いたとき、アブラムシが大量発生した。アブラムシがリンゴの葉や花びらに付くと、葉や花びらが丸まってしまう。普通アブラムシが発生すれば、反射的に農薬散布になるのだが、我慢して観察してみることにしたという。すると、大量のテントウムシが発生した。テントウムシの上にテントウムシがおぶさっていたという。そして、アブラムシがいなくなるとテントウムシもいなくなった。6月初旬に訪問させていただいた時は、その痕跡として巻いた葉が僅かに残っていた。残念ながらテントウムシの大量発生の写真は撮らなかったとのことであった。
ハリトオシ、モモシンクイガ等の害虫はBT剤(ファイブスター)、アップルビネガーで対応でき、輪紋病はEMセラミックスパウダーが効果的である。また、ふらん病も早い段階で、EMで処理することにより、拡散防止出来ることが分かってきた。
強力な農薬を使用しないので、樹園にはカエル、クモなどの天敵も住むようになり、害虫と共存出来る環境になってきている。
矮化園ではネズミによる根の食害があったが、食害にあったところはEM-Xパウダーを塗り込み、土壌施用の際に、EM活性液をネズミの穴にも入れることによって巣がなくなり害を防ぐ効果が出ている。
また、EM活性液を入れたバケツを園内の木につるし、蛾などの昆虫を捕殺している。EM活性液がホルモントラップと同じ働きをしている。今年はこのバケツがいらないくらい虫は出なかった。それは、6月、17℃以下の低温が続き黒星病が多発する年となったので、週1回アップルビネガーを散布し、イオウ剤を3回散布したところ黒星病をクリアー出来た。虫が出なかったのは、このアップルビネガーの散布によるものだという。福田さんは、自然の能力を蘇らせるのは育土にあるのは勿論だが、アップルビネガーも決め手になると言っていた。

育土
美味しいリンゴ作りは土作りが基本であり、良質な堆肥の投入に心がけている。醤油の絞りかすと海草をEMで発酵させた「豆昆発酵堆肥」を今年から使用した。草の色もいつもの年と違っているという。リンゴの味も一層良くなるに違いないと言っていた。
 EMは葉面散布を主体に行ってきたが、土壌散布を昨年より試みており、EM活性液の50倍液を樹の周りにたっぷりかけたところ、樹勢が回復しているように感じている。
流通について
出荷形態は40年前から変わらず、全て宅配にて健康医学社関係の顧客に出荷している。最近はその顧客が老齢化して減ってきているが、健康医学社の関係で、福岡の産直クラブ「夢ひろば」への出荷が増えている。ここから福田さんのリンゴはイギリスに出ているという。
最近、リンゴの輸出が話題になっているが、この地域からのものが多いという。袋かけしたリンゴの木が目立っている。これが輸出用のリンゴの木だという。袋かけすると色つきが良くなり見栄えがする。ただ太陽の恵みを充分受けることは出来ない。福田さんは、1個何百円もするリンゴを育てるのでなく、百円のリンゴ作りを目指しているという。特に健康によいリンゴを一人でも多くの人に安く食べていただきたいという願いからだ。現に、15年前から変わらず、10kg3000円で販売している。送料が1000円とすると10kgで40個位はいるので約1個100円だ。注文を8月に受けるので、その年が豊作になろうが、不作になろうが変わらない。不作だからと言って値を上げることはしない。
この様な考え方のリンゴ作りはお金に変えられない喜びがあるという。多くのお客さんの感謝の声や、あるお客さんからは海産物を送って頂くなど、心の通い合いを生き甲斐にしている。この様な親の生き方、親の後ろ姿が子供に伝わることが出来ればそれでいいのだと言っていた。この日息子さんや娘さんにお会いした。息子さんは、日立製作所に勤めていて会社から東京大学大学院に行かせてもらい今年卒業したという。取材にも同席され礼儀正しい本当に感じの良い息子さんであった。娘さんも子供を連れて里帰りしていて丁寧な挨拶を頂いた。

おわりに
ご夫婦とも人間的魅力に溢れていて何時までもお話を聞いていたい思いで時間のたつのが早くて驚いてしまった。お聞きした話の中でもう一つだけ報告をしておきたい。
 現在、農家における自給率は12%であるという。リンゴ農家においても、リンゴが高値で取引されていた時は人も雇えたので、家族には時間の余裕があり、野菜も栽培できた。現在はリンゴの値が下がり家族労働でなければやっていけなくなってしまった。リンゴで食べていくのだから米、野菜を買うのは当然と言うことになってしまい、健康を損ない、生き甲斐を失おうとしている。農家でさえ食べ物は商品になっている。商品であれば手軽で安い方がよい。日本の自給率が上がらない原因もこの辺にあるのではないかと思った。
それに引き替え、福田さんのところは3haのリンゴ園を奥さんと2人で経営しながら野菜は殆ど自給している。お母さんの代から健康は自分で作るものだ言って野菜作りを続けてきた。今は奥さんが担当している。ラジオだけでテレビのない時代には夕食を食べればすぐ寝て翌朝早起きをして野良に出た。今は農家も夜更かしをしている。奥さんは、早起きをして野菜を育て、それから食事の支度、掃除洗濯をし、その後リンゴの農作業にと取り組む。「昼休みの一時の読書の時間が至福の時間だ」と言っていた。時間が有り余っていての読書とは感動が違うものなのだと思った。また、「一生懸命暮らしていると何か良いことがある」と。身近に起きる小さな事柄一つ一つに感謝している。お二人を拝見していて此の様な生き方をしていなければ味わえない人生の喜びがあるのではないかと思った。「健康は手間暇かけて得るものだ」とも言っていた。
取材は昼食の面倒をかけてはいけないと思い9時から11時頃までお願いした。しかし、奥さんは早朝畑から食材を調達して下さり、朝採りのトウモロコシから昼食まで頂いてしまった。畑から収穫したものばかりで食材のうま味を生かすために塩味で料理されていた。滅多に食べられないご馳走をお腹も心もいっぱいになるまで頂いた。
EMをたっぷり浴びたりんご


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