農業の醍醐味.49回


NPO法人関東EM普及協会 顧問
(財)自然農法国際研究開発センター 理事長
天野紀宜

はじめに
2月27日富士山の西南層に拡がる富士宮市の「木の花農園」を訪ねた。都市化、単一化の波が迫ってきているが、この農園は富士山を背に、里山に抱かれた豊かな自然の景観の中にあった。

木の花農園の古田さん(左)と筆者

「木の花農園」の概要
農園の概要と活動内容を簡単に紹介させて頂く。最初に「木の花農園」のパンフレットの一部紹介から始めさせて頂く。
〜循環型調和社会を目指して〜
<木の花農園とは>
 生活の糧を得るための事業や、生活そのものが、たくさんの廃棄物を生み、地球を汚す結果となることに心を痛め、同じ志を持つ仲間達と富士山の麓で、1994年より生活が始まりました。自然と調和し、血縁を超えて助け合う家族を目指し、大人17名、子供12名が共に暮らしています。
 化学肥料、化学農薬を一切使わずに、自給自足を目指す農業を営み始め、味噌、醤油は糀から作り、醤油搾りまで自分たちの手で行っています。
 一番大切なことは、環境汚染や病気、悩み、争い等、多くの問題のもとは、全て人々の心にあることに気づくことであり、そのことが世界平和につながることを日々思いながら「木の花家族は地球家族」をメッセージに国内、国外を問わず多くの人たちとの出会いがあります。
 木の花農園には、代表がいません。一人一人がユニークな個性を持った、独立した人としてここに集い、暮らしています。一人一人が、代表であり、それぞれの役割を持って有機的につながりあい、助け合いながら農園の生活が営まれています。

栽培状況
水田は5ha(うるち、モチ、黒米、赤米)、畑6ha(蔬菜、小麦、大麦、大豆、小豆、キビ、ソバなど),
果樹50a、茶畑18aを耕作している。また、平飼いの養鶏1000羽、養蜂10群、山羊を飼育している。健康な土作りによる健康な作物作りをモットーに取り組んでいる。

最初に養鶏場を見学させて頂いた。EMをベースにした特製の「木の花菌」で餌を発酵させ、飲み水にも入れて与えていた。ワクチンを始め一切の薬剤は使っていないと言う。鶏舎の臭いはほとんど無く、お尻をつつかれている鶏は1羽もおらず皆落ち着いていて毛並みが良く綺麗だった。頂いた卵は味が濃く、他の有精卵とひと味違っていた。
山羊も臭いがなく、真っ白な毛がとても綺麗で、子ヤギを抱かせて頂いたが皆おとなしかった。ミツバチの巣を見せて頂いたが寒いのでハチは巣の中であった。美味しいハチミツは年間で約1d。1斗缶にすると約40本採れることもあるという。
次に、いろいろな種類の葉物が栽培されているハウスに案内された。農薬は勿論使っていないが虫には殆ど食われていなく、色が少し淡く綺麗に揃って見事に成長をしていた。寒い中、野菜までが素直に成長しているという感じがした。
水田や畑は点在している。いろんな施設も点在していた。鉄骨で出来た大きな立派な配送センター。大型機会が入っている倉庫、雑穀類や収穫した米を籾のまま貯蔵している倉庫、農業体験者や心身のケアーを求めてきている人、見学者などが宿泊する「まことの家」等の様々な施設が点在していた。

主な活動
 ここで主な活動状況を紹介させて頂く。
一つは、お米、野菜、卵、ハチミツなどの農産物はじめ、手づくりのお菓子、惣菜、各種加工品などを市内の委託店舗と自宅の販売所で販売している。その他に週3回の宅配便で全国の愛好者に配送している。また、菜食のこだわり健康弁当の予約販売もしている。
二つには、富士宮市NPO団体活動普及事業として市から委託料を頂き、多くの人の協力を受けて定期的な「有機農業実践講座」を開いている。有機栽培による菜園の普及、健康増進、環境保全、遊休地の有効利用、定年退職後の生き甲斐作り等を目指している。
三つ目は、「木の花農園」のメインの活動となる自然療法と食養生である。ストレスから心や体の状態が悪くなって医者から薬をもらって飲んでいるが、なかなか改善が進まない、同じ状態が長く続いているなど、そんな状態から立ち直りたいという人々が相談に来る。そして、農園に滞在し、自然の流れに沿った生活をしていく中で、医者にもらって飲んでいた薬を断ち、短期間で病気の症状から抜け出し、もとの自分を取り戻し、社会復帰をしていく人が多い。そのことが口コミなどで拡がり、農園を訪ねる人は後を絶たない。現在も7人が滞在しているという。
 此の様な受け入れは農園開所当時から始めていたが、求めてくる人が近年、増えてきている。そこで、平成12年2月NPO法人青草の会を立ち上げて本格的な受け入れを始めた。
目的は「社会福祉への貢献」「自然環境の保全」「平和の推進」等だが現在農業体験、心身のケアーと社会復帰の手助けを主に活動している。
昨年8月には「まことの家」(バリアフリーで人と自分、人と社会、人と自然の間に心のバリアーをなくす家)が完成し、宿泊施設も整い、外国人も含め利用者が増えている。
 ここでの自然療法は、自然の流れに沿った@食事A生活のリズムB心の在り方を中心に取り組みをしている。
不健康な食事、不規則な生活、様々なストレスは、現代人の精神を蝕んでいるという。その為、食養生、自然のリズムに従った生活、病んでいる心を癒す取り組みをしている。
病気は「気が病む」と読み、心のゆがみが病気の原因の多くを占める。にもかかわらず、精神、心の病気に薬という化学物質で治療しようとする医療は間違っているという。医療産業が経済を担っているという社会は、社会そのものが病んでいるとしか思えないと言っていた。
 自然は光に満ち、愛に満ちている。魂も光と愛に満ちているが生活習慣、食生活、考え方、心の癖などによって本来の魂の輝き、自分の輝きを失い病気になる。健康とは元気あることであり、その元の気にかえることが病気を克服する道であると、体験を通して確信できたという。それ故、魂までとどく愛の心、言葉が本当の薬であるという。
 新しい環境の中で最初は安らげる場所だと分かってもらい、うち解けてきた段階で悩みを話してもらい、対話する機会を増やしていくという。対話が進むにつれ農作業にも次第に参加するようになるという。
この農園の特徴の一つは、毎日夕食後全員で行われるミーティングにあるという。一日にあったことや心にあること、心の汚れを全てを話し合う。メンバーのある人はミーティングはとても充実した時間だと話していた。自分の心を見つめることが出来、心が洗われ、心の底から話し合えることは、血縁を超えた心の繋がりが生まれると言っていた。
食事にも力を入れている。食卓には生命力あふれる旬の食材によって愛情込めて作られた薬膳料理が毎日並ぶ。薬膳は食養としての健全な食べ物。食療としての薬効成分の高い食物で、様々なアイデアと工夫が凝らされている。
油と塩以外は全て自給自足だという昼食を皆さんと一緒に頂いた。私たちのところは特にご馳走が並んでいた。肉と魚は全く食べないと言うがこのバラエティーに富んだ料理と味があれば、肉や魚がなくても全く違和感を感じなかった。常に新しいメニューが工夫されているという。
食後にここで生活している元プロ歌手の歌を聴かせていただいた。自然と魂の触れあい、生活そのものが曲となり、歌詞となって伝わってきた。バンドもあり、コーラスもあってみんなで楽しんでいた。これが本物の生き方だと思った。芸術こそ暮らしの中での楽しみの大きなものの一つであり、自然に自ずから備わっている機能を最大限に発揮する農業は芸術そのものであり、芸術化する生き方は物事の本質を見極める力を養う。思いやりの心を育て、健康を願う心を育て、魂の向上に繋がる。

おわりに
 自然農法や有機農業に取り組む人たちは、程度の差こそあれ、農業の多面的機能を重視し、農業に対する様々なポリシー、哲学を持っている。
「木の花農園」の人たちは更に徹底したポリシーを持っていた。
目には見えない自然の意志を神と捉え、そこに生き方、暮らし方、考え方の全てをゆだね、「農」を中心として、皆明るく生き生きと楽しそうに暮らしている姿に接した。その心の深さは、とてもこの紙面でお伝えすることは出来ないと思った。また、この生き方の最初
の提唱者であった古田偉佐美さん(みんならかは「偉佐ドン」と呼ばれ、ドンブリにされていると笑わせていた)が活動を始めた動機、様々な人との出会い等感動的な話は多かったが紙面の関係もありこの範囲で纏めさせていただいた。
古田さんはじめ、皆さんは単に自分たちの楽しみや満足の為の生き方をしているのではない。自然の意志に沿った創造的な生き方こそが、科学技術文明が生んだ豊かさを生かしながら、環境や健康問題等様々な問題を克服する道であり、21世紀の生き方であると信じているからだ。その心は地元の人々に伝わり様々な交流や、富士宮市との共同の事業を始め日本国内を始め多くの国々の人たちとの交流も始まっている。
取材の帰り道、心が軽くなっているような、すがすがしさと言うか不思議な感じがした。気づいてみると体までが軽くなっているように思えた。日常の様々なしがらみや執着が皆さんと接している内にいつの間にか心からはずされていた。
自然の中にみなぎっている光、自然の意志である愛は、それを受け止めている人から様々な人へと伝わってゆくものだと改めて気づかされた。

以上

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