農業の醍醐味.60回


EMウエルネスウィーク2007に参加して
NPO法人関東EM普及協会 名誉会長
(財)自然農法国際研究開発センター 理事長
天野紀宜
EMサミットin沖縄開会のテープカット
うるま市長と比嘉教授の対談
タイランドフェスタでの事例発表
EM活性液を4800gを汚水浄化池に投入

はじめに
2007年沖縄でのウエルネスウィークは10月29日(月)〜11月4日(日)迄行われた。主な行事は「タイランドフェスタ」「EMサミットin沖縄」「第4回環境に優しい循環型花のまちづくり大会in沖縄」「第4回EM医療国際会議」であった。
「EMサミットin沖縄」では「日本橋川浄化プロジェクト」の発表から、戸田市、四日市市、沖縄からは北中城村、うるま市と各首長、担当者の発表があり、最後にうるま市長と比嘉教授との対談が行われた。
今号では「タイランドフェスタ」を紹介させていただく。

タイ国でのEM普及の始まり
EM技術がタイ国に導入されたのは1988年で20年を越えている。きっかけは湧上和夫氏(初代世界救世教タイ国本部長、信徒数60万人)が比嘉教授にEM技術の導入の依頼をしたことによる。EMの普及は日本に於いては様々な障害があったが、タイ国に於いては、日本の影響が多少あったがスムースに発展してきている。
1989年、財団法人自然農法国際研究開発センターが主催した第1回救世自然農法国際会議が行われ、この会議開催後にAPNAN(アジア太平洋自然農業ネットワーク)が誕生した。タイ国を中心に東南アジアへのEMの普及の基盤が出来た。その普及のために、前湧上本部長が用意したのは、世界救世教の約145ha敷地の内、70haの自然農法の農場と、その中に人材育成センター、全寮制の農業専門学校の建設であった。研修を受けた人は、タイ国を始め東南アジアの国々で5万人を超えている。
スムースな普及の要因は、他にも前湧上本部長の努力によるタイ国王室との強い繋がりを築いていたことにあった。タイ国では、人々が弥勒菩薩の生まれ変わりとして崇め、最高の権威を持っている国王が提唱する「王土楽土」建設運動や、「足るを知る経済」を推進する上でEM技術が高く評価された。中でも、王室と強い繋がりを持つタイ陸軍による村落復興事業にも積極的にEMが活用されたことである。農業を始め、環境や建設、医療と幅広く、多くの機関、団体へと拡がっていった。比嘉教授は常にその功績を称えている。

事例発表

キングプロジェクト「足るを知る経済」推進事業でのEM活用効果 発表者 王妃によるドンナーターム森林特別区域開発プロジェクト チュラデート・チッタウィン大佐
チュラデート・チッタウィン大佐と天野名誉会長


1980年代東南アジアに始まった経済危機は、タイ国も深刻な影響を受けた。その時、国難を乗り越えるために、国王が提唱されたのは「足るを知る経済」と言う哲学である。
(「足るを知る経済」哲学とは、一連の道徳的・倫理的・実践的指針であり、節度・合意理性・自己免疫という3つの原則と、知識と徳という2つの条件に忠実であること、タイの人々がより効果的にグローバリゼーションの舵取りをしていく一助となることを意図している。)(タイ王国大使館ホームページ)
 「足るを知る経済」は、自給自足だけを言っているのではないが、具体的な取り組みの一つとして、庭先や畑に、ビニールシートを貼って8畳から10畳くらいの池を作り、ナマズなどの魚を養殖しタンパク源とする。中には池の真上にニワトリ小屋を造り、そこから落ちてくる糞は魚の餌になっている。池の周りには野菜畑を作り自給する。家の生け垣にも野菜が植わっている。また、水稲栽培ではコストを下げることに取り組み、生活に於いては出来るだけ節約し、余った魚、野菜、米は売ることを奨励するというものである。
EMの活用はまさにこの政策にマッチしていた。魚の養殖にEMを活用すると、水は腐らない。ナマズは成長が早く3ヶ月で食べられると言う。生臭さもなくなる。野菜は品質が良くなり収量も上がる。水稲栽培に於いてもコストダウンを、生産を上げて成功している農家が多く出ている。チュラデート大佐は次のように言っている。
「農民達は自給自足の生活を確立し、例えば、お米や野菜の栽培、魚や鶏の飼育等、自らの食べるものは自分たちで作り、余剰分は販売できるような生活スタイルに改善できるようになった。現在タイ政府は、「足るを知る経済プロジェクト」を推進し、政府および民間組織を問わず国を挙げて推進される大プロジェクトに発展している。国王陛下のお考えになる生活を国民が実行することにより、全国民の生活水準が向上し、タイ経済が安定し発展することが解ったからである。」と。
チュラデート大佐がこのプロジェクトでまず取り組んだことは、プロジェクト推進のための講習会だった。EMを活用した良質なボカシ作り(ワラ、ぬか、畜糞、その他有機物)その活用法、ストチュウ作りなどである。村で資金を集め、ボカシになる材料を買い、農民に分けている。 ドンナーターム森林特別区での研修会参加者の数は60万人を超えたという。皆弁当持参で参加している。
タイ国内の多くの地域からの見学は勿論、外国からの見学も多いという。
この特別区で生産されるEMを活用した無農薬栽培米は1800トンに達し、ヨーロッパやアメリカに輸出されるほどの成長が出来た。
 その他、唐辛子は病害虫やカビの発生をクリアーし生産高が向上している。スイカは年3回から5回に収穫が上がり味も良い。果樹も化学肥料なしに収穫が上がり、ゴム園では、EM活用以前は夜1回採取していたが、EMを活用してからは朝、昼2回の採取となり、収穫は2倍になっているという。
映像を使って安心安全で、美味しい水稲、野菜、果樹、ゴムの生産性が上がったようすを報告し、その上、土壌の劣化が回復し、自然環境が蘇り、農民の健康が増進しているという大佐の発表であった。
 グローバル化に象徴されるように、限りなく欲望を追求する資本主義経済の中で、かつてお釈迦様が欲望の抑制を説いたように、「足るを知る経済」と言う欲望の抑制を国民に示したことは、将に弥勒菩薩の生まれ変わりと言えるのではないかと思った。

学校教育での取り組み EMによる稲作
発表者 ウボンラチャタニー県 教師 コーウィット・ドークマーイ氏


 この地域では、1993年からEMを試験導入し、現在では農業には欠かせない資材として普及され、EM活性液やEMボカシを培養保管する場所が設立され、多くの人々が様々な用途にEMを活用されるようになった。現在お米の高い品質が認められ、IFOAM(国際有機農業運動連盟)からの有機農産物の認証を受け、年間2000tがヨーロッパに輸出されている。
映像を通して、慣行の水田とEMを活用した水田の違いを幾つも紹介されていた。年4回収穫できるようになった水田。化学肥料の4倍の収穫が出来た水田の比較映像等である。
生産コストが下がった上に生産が上がり、年間1000万円の利益を上げる農家が出てきたという。成功例が増え、実施農家は増え続けている。
タイ東北地区は、温暖化、化学肥料や農薬の使いすぎによる砂漠化が進むと同時に、水田、畑地の劣化が進んでいる。その自然を蘇らせることは大きいし、米の収量が増えることは、ワラの量が増え有機物が増えている。なによりも、EMを活用した水田には、エビ、小魚、タニシなどの貝や東北地方で食用にしているカエルが増える。食糧増産に大きく貢献しているという。
比嘉教授は、自然生態系を蘇らせ、自然の生産性を上げ、経済的に豊かにしている米作りは素晴らしいことだとコメントしていた。

学校現場に於けるEM活用 子供たちから父母へのEM教育
発表者 サコンナコーン県 教師 サエム・ブンセーナー氏


サエム氏がEMを勧められたのは、タイの元首相で現枢密院議長からであった。
森は豊かなスーパーマーケットであったが、温暖化が進み森が消え始めると、森からの豊かな恵みは消え、農民は貧しい生活へと追いやられた。雨期でも水をためられない池が増え、農業にも影響してきた。貧しい人々はネズミを捕まえて糧を得るというような状況にまでなっていた。そんな時EMの技術を知った。
そこで上記の「足るを知る経済」の実践をした。この学校での取り組みを家庭で実践できるようにした。まず、保護者も学校で子供と一緒に教育した。親が教育に参加すると子供に20点あげる。家庭訪問して家庭で実践している子供には更に20点あげた。子供の点数に影響するので実践者は確実に増え1000名以上の研修が出来たと言う。その結果、皆さん成功し、自給自足の生活が出来るようになった。銀行へ貯金することも教えている。学校教育が地域住民へと拡がっていくユニークな発表であった。この取り組みは多くの学校へと拡がっている。

環境と水 EMによる汚水処理技術について 
発表者 元タイ国住宅公社副総裁 タイ国営バンコク住宅公社 ウォラヌット・チッタムサターボーン氏

国営住宅公社は、ノンタブリー県による入居者数2000余家庭の汚水浄化槽の改善プロジェクトに初めてEMを導入した。酷悪臭の汚水浄化槽の問題を抱える場所であったが、浄化槽にEM活性液を4800g投入したところ、投入1時間後には悪臭が無くなり、4時間後には黒く濁った汚水が赤みを帯びた色に変化した。BODは20ppmまで下がった。その結果により、住宅公社の浄化槽を始め、工場の汚水浄化、大きなダムの浄化にも拡がった。多くは、EM活性液の大量投与により劇的な変化、結果を出している。比嘉教授は日本ではまねの出来ないスケールの大きさ、応用力であると講評していた。
もう一つ特筆すべきことは、バンコク市内の住宅密集地(水たまりの多い不衛生なスラム街)500カ所にEM活性液を投入し、悪臭や蚊の駆除に改善効果が得られたことである。蚊やハエは、マラリヤや病気の原因となる。世界に多く拡がるスラム街の衛生・健康問題の解決に道を開いた。比嘉教授は、見事にやってのけたこの取組は国連に充分アピール出来る取組であると講評していた。
その他、工期の関係でコンクリートを早く乾かそうとしてEMを活用したことから、世界で最初にEMを建設に本格的に活用し、強度や健康によいことを実証した発表。以前にも発表があったが、2004年タイ南部を襲った津波の大災害に、タイ赤十字、空軍、ボランティアによる義援活動の発表。自費でEMトレーニングセンターを作り、農場で生産された食材を使った食事を無料で提供し、タイ始め10カ国以上の国から年間数万人を受け入れ10年間研修している見事な農場の紹介。またえむえむ関東53号で紹介させていただいた、サワットさんの見事な果樹園の発表を懐かしく聴かせていただいた。
「第4回EM医療国際会議」には日程の都合で参加できなかったが、ここでもタイから、エイズへの取組など2題の発表があった。

おわりに
EMが世界救世教の信徒から農業や環境の取組に始まり、国や住宅公社等の施策に取り入れられ、農業、環境、建築、医療と多くの人々に活用され、着実にその成果が現れている。EMの活用に於いては世界で最も進んだ国だと比嘉教授はまとめで話されていた。
21世紀、持続可能な社会を目指すとき、1年間に降り注ぐ太陽エネルギーを見事に活用し、循環させる工夫をした江戸時代に学んでも戻るわけにはいかない。かといって現在のような経済中心、資源エネルギーの使い捨て社会は続かない。私たちが持続可能な社会を目指すには、一つは、大量生産、大量消費をして大量破棄した廃棄物をエネルギーに変えていくことだ。ごみは宝の山と言うが、多くの廃棄物はこれからの工夫によって資源に変えることは出来るのではないか。もう一つは、建築物、洋服等々あらゆる物を数倍、数十倍長持ちさせる技術だ。EMは将にこのことを満たすことの出来る優れた技術の一つだ。一つ一つ実証されようとしている。
タイの皆さんの発表を聴かせていただき、我が国こそEMの活用を始めとして、持続可能な社会を築くための先進国にならなければならないと思った。


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