自然尊重の社会システムに 1回


自然の進歩発展と共に生きる
NPO法人関東EM普及協会 名誉会長
(財)自然農法国際研究開発センター 元理事長
天野紀宜
はじめに
私たちを取り巻く社会は、めまぐるしい変化を遂げています。多くは直ぐ過去のこととなってしまいます。しかし、東日本大震災は、直ぐには忘れ去ることの出来ない大きな衝撃でした。自然エネルギーのとてつもない大きさ、自然の豊かな恵みと、想像を超える厳しさを備えた存在感、その存在感を前にして、原発事故も合わせ、科学への過信等を思い知らされました。
そして、このまま、自然から離れがちなグローバル経済を根底とした社会システムを追い求めて行くことが良いのかが問われました。
即ち、生きていくのに大切な水、食料、燃料が、いくらお金があっても、供給するシステムが壊れてしまえば手に入れることは出来ないことを知らされました。
私たちは、経済中心、お金中心のグローバルな経済社会の危うさを実感しました。グローバル経済社会の基では、世界のどこかで起こる異常気象、経済危機や紛争等により、食料やエネルギーが高騰するリスク、喪失のリスク等、常に不安を抱えていることに改めて気づきました。

その意味で、食料やエネルギーが、全部とは言わないまでも少しでも自給できる地域社会、お金が無くても助け合いの出来る地域社会、お金が無くても自然の恵みを活かしていける地域社会を、少なくとも生活の一部に置いておくことの大切さを知らされました。
私たちは、この大震災によって、希望有る未来を切り開いていくために、生き方、暮らし方、社会システムの根底にある自然との関わり方を、改めて見直すことを迫られているのではないでしょうか。多くの人々が感じたことだと思います。私は、その見直しの一翼を担うのは、自然農法であると思っています。

自然農法は、理念(自然を尊重し、自然を規範に順応する)と原理(土の偉力を発揮する)に基づいた農法です。その理念、原理が示すように、自然農法の根底に哲学があるのだと学んできました。それ故、私たちは、自然農法を単に農業技術だけに止めるのではなく、理念、原理を、生き方や暮らし方から、社会システムにまで拡げて行かなければなりません。それが哲学をすることではないかと思います。自然農法を通して、主に社会システムの中にどう自然を取り戻すかを考えて見たいと思います。

何故自然農法が新しい時代の一翼を担うのか
自然農法の創始者岡田茂吉(以下創始者)は昭和十年、自然農法の根本原理を説きましたが、昭和六年には「一葉の朽葉をとれば厳として輪廻の則を語りて居るも」という歌を発表しています。この歌が自然農法の思想の原点とも言われています。
 自然農法は、生態系の中での生命による物質循環を根底に置いているのです。一葉の朽ち葉が分解され、やがて土に戻るまでには、夥しい種類の土壌動物と微生物の関わりによって土に戻るのです。そして、また、植物の養分となって生命を宿していくのです。

自然農法は、自然におのずと備わっている働きによって生まれる豊かな生物相、生物量によって自然の機能や能力を高め、生命の働きをより発揮出来るよう、的確に人間が関わることによって、土が持つ偉大な能力を最大限に引き出す農法です。言い換えれば、自然に対する人間の正しい関わり方によって、生態系における、生命による循環機能をより豊かに発揮出来るようバイオ技術はじめ科学技術をも生かしていく農法なのです。
生態系の中での生物種は、200万種ともそれ以上遙かに多いだろうとも言われています。この夥しい生物が、食べたり食べられたり、養分の供給を受けたり養分を与えたりしながら調和し、生態系の中で生命による物質循環を繰り返し、自然は、進歩発展をしているのです。