自然尊重の社会システムに 3回


自然の進歩発展と共に生きる
NPO法人関東EM普及協会 名誉会長
(財)自然農法国際研究開発センター 元理事長
天野紀宜
バイオエネルギーの利用と地域自然循環

ここで自然と人間の繋がりを取り戻した一例を挙げてみます。
私たちにとって、経済効率が良く、投資の対象となり、取り扱いに便利な石油が、木材や木炭というバイオエネルギーにとって変わりました。その結果、豊かな里山は荒れました。身の回りにある豊かな自然の恵みも見えなくなりました。この様に経済価値が低いと思われるものは切り捨てられてきたのです。
しかし、バイオエネルギーは、特にオーストリアを始め、日本に於いても、発電や燃料として、様々な技術革新やアイディアが生まれ、価格や利便性に於いても、化石エネルギーに変わるエネルギーとして実用化が始まっています。
 バイオエネルギー活用は、化石エネルギーと違い環境に優しく、人々の交流や地域文化の復活など地域社会に密着し、自然の恵みの中で生活することが出来ます。そして、森林や里山が、より豊かになるような人間の関わり方によって、地域経済だけでなく、持続可能な社会を築いていくエネルギーになります。

条件のそろった先進地域では、里山の再生を図り、自然の様々な恵みの豊かさに気づき、地域経済を豊かにし、人と人との絆を取り戻す等、その価値を再発見して来ています。
自然農法においても、慣行化学農業をしのぐ成果を挙げる農家が数は少なくても全国に生まれてきました。それは、自然の能力を引き出す技術の進歩と共に、自然がより豊かな方向へと向かっていることと相まって(自然と地球の共進化)の成果です。自然農法が慣行化学農業に代わる将来への可能性を示しているのだと思っています。
 

自然が循環する快適な生活へ

文化形成の底流をなしているのが農業です。現在の慣行化学農業は、私たちにとって必要な作物以外は、除草剤、土壌消毒、農薬で殺してしまうものであり、人間にとって、一番大切な食べものを生産する農業の根底に、経済性、人間の目先の都合を最優先させてしまっています。今こそ自然農法へと、官民挙げて力を注ぎ、転換していかなくてはならない時だと思います。
自然農法の推進の為には、有機農業推進法の推進は勿論のこと、私たちの食べもの、エネルギーを始め、「ヒト、モノ、カネ」が地域内で循環できるよう、官民が力を合わせなければならないと思います。そして、食べものの基本である地産地消・旬産旬消を目指し、地域の自然を活かし、地域の人を活かす工夫をし、創造していくことが大切ではないでしょうか。
生態系の中での生命の循環を大切にし、自然に存在する全てのものに、存在する意義と意味があるという農業が、世界と言わずとも、日本農業の50%以上になって始めて、人智を遙かに超える自然の恵みを受けて、安全・安心で豊かな未来有る社会を築いていくことに繋がるのだと思います。
創始者は、次のようなことを言っていました。「全ての生物は、太陽エネルギー、水、土の力によって生成化育されている。」と。自然農法、有機農業にしろ、慣行化学農業にしろ自然の恵みなしには成り立ちません。どんな農業でも自然の恵みを損なうのでなく、出来る限り自然の恵みを引き出す方向へと進まなくてはなりません。

私たちは、自然の恩恵をベースに生かされているのです。それ故、自然を改変し、人間の都合を優先する社会システムではなく、自然の恵みを豊かに活用する社会システムに転換していかなくてはならないのです。
貨幣の循環は、スピードが速く、多くの資源を消費し、多くの無駄を出し、私たちの子孫にまでその付けをまわしています。そして、実体経済を遙かに超えた貨幣が循環しています。一方、自然の循環は貨幣の循環に比べてゆっくりです。これからの私たちは、貨幣の循環を、自然の循環が持続可能な範囲で循環していくよう工夫し、創造していかなくてはならないと思います。
それぞれの地域は、風土に合った形で、科学技術、貨幣経済も活かし、自然が循環する快適な生活を生んでいかなければなりません。それが、先人達が、全ての生命と共に生き築いてきた文化を、より快適で、豊かなものにすることが出来るのです。それ故、私たちは、自然農法をベースにした自然循環型地域社会作りに取り組まなければなりません