自然尊重の社会システムに 6回 (最終)


自然の進歩発展と共に生きる
NPO法人関東EM普及協会 名誉会長
(財)自然農法国際研究開発センター 元理事長
天野紀宜
大自然の生命を大切にした自然循環型地域社会作り

共存共栄という自然の意思に沿った社会システムを構築していくためにはどの様な取り組みがあるのでしょうか。
自然の恵み、自然からの贈り物を大切にした社会体制を構築していく為には、各地に自然循環型の地域社会を育て、その地域社会がネットワークを結び、世界に繋がって行くことではないかと思います。
EM普及協会設立当時話し合ったことです。一本の大木はやがて朽ちていきますが、大根の種を播けば、それぞれの地域に適応した大根となり、毎年種は拡がっていきます。
組織を立ち上げるのも、大木のような一つの大きな組織を目指すのではなく、大根でも地域に適応した様々な品種があるように、組織においても、同じ理念を共有しながら、地域の特性に合わせて育て、ネットワーク化していく組織が自然の意思に添うのではないかと話し合いました。

自然は多種多様です。また、どの国も、どの地方も、どの地域も多種多様で、特有の気候、風土があり、かつては、それに合わせた生活がありました。しかし、現在、同じような高層ビルが建ち並ぶ首都の様子は、世界中で見ることが出来ます。自由な市場経済や民主主義が世界の普遍的な価値観のように拡がって来ています。
ただ、人々の中では、国を愛する心や、国や地域の自然や文化を大切にする思いが失われていくことに気づき始めています。国を愛する心、国や地域の文化を大切にする生き方・暮らし方こそ人類の普遍的な価値では無いかと思います。

自然農法の創始者は次のように言っています。「=(前略)=資本主義、共産主義、社会主義、自由主義、民主主義、保守主義、進歩主義、個人主義、積極主義、消極主義等々数え尽せない程である。元来主義なるものは限定的、排他的、独善主義的であって、その国家、階級、団体のみの利益を主眼としたものであるから、どうしても闘争の因を作る事になる。
此の意味に於て人類社会永遠の平和と栄えを望むとすれば、今日迄の主義と異なる処の−−それは世界的、人類愛的のものでなくてはならないと思う。」
また、次のようにも言っています。「大画伯が世界という一大絵画を描くとする。その場合各種の線と色彩を持って最高の美を表現し=(中略)=長い歳月を費やして作り上げた国境線で、此の線が出来上がれば今度は色彩である。=(中略)=強大国家は他国を自国色に塗るのではなく、その国特有の色をより鮮かに美しくしてやることである。」と。

自然や生命を大切にした循環型の社会システムは、グローバル化された経済社会でなく、それぞれ特有の気候、風土等自然を活かした地域社会から生まれるのではないでしょうか。
地域の心ある人達と力を合わせ、工夫をし、それぞれの地域に合った知恵を出し合い、地域ならではの生命力溢れる循環型社会を生み出し、その上で世界に向けてネットワークを拡げ、個性、特徴のあるそれぞれの国を築いて行くことだと思います。
 その為には、私たちはそれぞれの地域の自然と向き合い、語り合うことから始めなければなりません。また、地域の先人達が自然とどの様に向き合ってきたかを学ばなければなりません。

おわりに
自然農法は、慣行農業は勿論、有機農業とも違います。
有機農業は、圃場内循環を主にして、圃場外からの持ち込みを出来るだけ少なくして自然の力を最大限に引き出していくとしています。そのことは自然農法と変わりありません。
自然農法の有機農業との違いは、有機農業は、農産物の生産の在り方を示しています。自然農法は、今まで述べてきたように、自然の循環機能を、私たちの生き方・暮らし方、社会システムにまで拡げていくこを目指しています。また、拡げることによって成り立っていくのです。

自然循環型の地域社会を築いていくためには、全ての人が、自然農法で家庭菜園や箱栽培に取り組むことだと思います。野菜を育てる喜び、体を動かす快感、本物の野菜を食べる楽しみ、自然との共感等、自然の恵みに感謝し、自然から学び、人格の向上を目指し、自然の意思そのものである愛、即ち、思いやりの心を拡げていくところから始まるのだと思います。
そして、それが地域社会に拡がり、自然農法始め、農業が何にもまして、社会の基盤となる国に育てて行かなければなりません。

科学技術を始め、多くものが、物の豊かさだけを求めるだけでなく、心の豊かさに繋がるかを合わせ求めるようになって来ています。
これからの農業は、産業としての農業と、生活であり、暮らし方そのもの農業、即ち、中山間地の農業、自給農家、家庭菜園と、二極化が進んでいくのだと思います。いずれにしましても、農業は、経済性だけでなく、自然循環型の持続可能な社会建設の根柢とならなくてはなりません。