土を育てる10回


土を育てる
NPO法人関東EM普及協会 名誉会長
(財)自然農法国際研究開発センター 元理事長
天野紀宜
 第三章 育土

連作奨励 無休間リレー作付けの偉力
ここで、農耕地でのA0層をどの様にして育てていくかを考えてみたいと思います。
自然の森林土壌のA0層,A1層、A2層が育っている土には、自然に自ずと備わっている土の偉大な機能が働いて、最も生産力の高い土壌であると述べましたが、この森林は、大木を育てる為には豊かな生産力はありますが、野菜を植えてもあまりよく育ちません。また、休耕地となって草が茂ってしまえば、生産力の上がる耕作地にするには3〜5年はかかります。森林と同じA0層、草地と同じA0層でも、農耕地のA0層の育て方は違うのです。
創始者は、「森林は落ち葉や枯れ枝などで土は育ち、水田は稲わら、籾殻で土は育ち、畑は、作物残渣や草を主にして落ち葉等で土は育つ」と同時に「畑に稲わらや茅などの水性の植物は不可である」旨の事柄を述べています。
(公財)自然農法国際研究開発センターセンターの研究員は、試験研究の結果から育土について次のように言っていました。「草地を見れば、季節に関わらず、花をつけている草、実をつけている草、芽を吹いている草と多種多様です。しかし、農耕地は、一斉に種を蒔き、収穫します。草地は多種多様ですが、耕作地は一様なのです。」ここに育土の違いがあると言うのです。このことを創始者は、「土を生かし、土の力を強盛にするには連作する程、その野菜に対し土はその野菜を育むべき適応性が自然醸成されるからである。」と言っています。また、「作物は作れば作る程土はよくなる。人間で言えば働く程、健康を増すのと同様で休ませる程弱るのである。」と言っています。

このことについて、(公財)自然農法国際研究開発センターでは、試験研究の結果を踏まえ、次のような実証をしています。
ライ麦と秋取りキャベツ、キビと初夏取りキャベツを組み合わせた、イネ科作物とキャベツの夏取りと秋取りの二毛作体系と、夏に収穫するスイートコーンと晩秋収穫するハクサイの二毛作体系を連作で行っています。
それぞれ収穫残渣を細かく粉砕して、土壌の表面5cmに鋤込み、それぞれの苗は、それぞれの時期に、有機物で根に障害がないように、土壌表面から7cm位の深さに定植します。定植時に地力窒素の発現の少ない初夏取りキャベツは、元肥として土ボカシを施用しますが、その他は、養分を求めて根が動くのを促すため追肥だけにしています。追肥としてU型EMボカシを施用しています。年を追うごとに追肥は少なくしていますが、収穫量は、地域の平均収量よりも勝ってきています。結球野菜でも低投入での栽培が可能になり、土壌は着実に育っていること、土の力で作物が育つことが証明されています。しかも、キャベツ畑にはモンシロチョウが飛んでいますが、外葉が少し食われる程度で、可販率を下げることはありません。また、モンシロチョウに外葉を食べられたキャベツには、玉の中に入るヨトウムシは何故か付かないそうです。

スイートコーンの雌穂もメイチュウには殆ど食われていませんでした。少々余談になりますが、この圃場で育てられているスイートコーンは、地きわに近い下の方にコーンが実っていて、メイチュウが雄穂に入り、コーンに到着する前に収穫となり、虫害を受けにくいと言います。生命力の強い作物は、自らの生命を守る力が強いのだと思いました。
以上、自然農法による安定生産を目指しての実証展示の内容です。
この圃場の見学者の多くの人が質問することがあると言います。それは、「緑肥でなく、畑に生える草を刈り敷きしたり、草を刈ってきて敷き草にすることは、一様な畑に向かないというのか」と言うことだそうです。その答えは、「この草をより有効に活用するには、草を刈り敷きする時期を毎年同じ時期にし、一様に近づけることである」と言っています。
この圃場では裁断されたライ麦が土壌表面に被覆した試験区もあります。ただ、キャベツやハクサイを定植するのに表面耕起し苗の定植の溝を作る時、裁断したライ麦を一時畑の外へ出す手間を省くため、土壌表面5cmの鋤込みを行っていると言います。
上記のように、連作をすることによって、その作物を育てるための性能・機能をより発揮出来るのです。しかし、土が育つまでは、作物によって、輪作や間作等の工夫が必要になる場合もあります。
 
また、同自農センターでは、ナスの連作に取り組み、10年目を迎えています。連作圃場では、4年目〜5年目に土壌病害が発生しました。6年目から土壌病害の発生は見られず、収量も上げています。

畑作の育土については、次の二つの試験も紹介したいと思います。
 
   土の構造が悪くなる        土の構造が良くなる 
一つは、自農センターの千葉農場(平成22年9月閉鎖されている)で行われた試験です。ナスの栽培試験でした。ビニールマルチをした畝、畝の肩に生えた雑草を刈り敷く畝、畝の肩に緑肥を植えて刈り敷く畝との三つの比較実験です。
収穫を終えて、ナス一作での土の変化を観察しています。ビニールマルチの畝は、変化は見られませんでしたが、雑草の刈敷の畝には、僅かですが、土壌の表面にA0層のようなものが育っていました。緑肥マルチの畝は、更にA0層のようなものが育っているのが見えました。ビニールマルチ、雑草マルチ、緑肥マルチの違いを見ることが出来ました。
もう一つは、土壌動物の様々な実験をしている中で、次のような事実があったと言います。耕起が必要な作物、不耕起でもよく育つ作物とありますが、不耕起で5年程栽培してみると、ほとんどの作物は不耕起でよく育つようになると言います。一方、その時の土壌動物を調べますと、多種多様な土壌動物が最も数多く生息しているかというと、そうでもなく、ある程度の種類と数で、バランス良く生息していると言います。その話を聞いて、その作物を育てるのに最も良い土壌となっていて、必要なものが必要だけあると言う自然の豊かな姿になっているのではないかと思いました。
いずれにしましても、水田、畑、果樹園でも、その耕地に合ったA0層を育てる工夫をしながら、作物を育てることによって、土は育って行くのです。