土を育てる11回


土を育てる
NPO法人関東EM普及協会 名誉会長
(財)自然農法国際研究開発センター 元理事長
天野紀宜
 第三章 育土

土を清浄に保つ
自然農法の創始者は、土の偉力を発揮するためには土を清浄に保つこと、化学肥料や農薬、当時多用していた人糞尿などは施用することで、土を汚してはいけないと説いたと述べてきました。
土壌を清浄に保つと言うことについて、創始者は、霊的面として、「此大地はその中心の地熱から放射されている地霊即ち窒素によって、凡ゆる植物を健全に生育させるのである。(中略)地霊が放射される場合、地表にある不純物が邪魔する」と説いています。
これを体的に説明した場合、土壌に高濃度の栄養分を残してはいけないと言うことは勿論ですが、化学肥料や農薬、未熟な堆肥の土壌への鋤込みは、土壌動物や土壌微生物にダメージを与え、A0層に働いているような土の機能を失ってしまうということに言い換えることができると思います。

ここで、微生物相から土壌の分類をしている琉球大学名誉教授の比嘉照夫教授の「微生物の農業利用と環境保全」(農文協)を紹介さ
 
せていただきます。
「微生物の機能からみた土壌の分類」で四つのタイプに分類しています。(注P33、34)腐敗型土壌、浄菌型土壌、醗酵型土壌、合成型土壌です。

「腐敗型土壌は、土壌中の糸状菌の中のフザリウム占有率が高く(15〜20%)、窒素分の高い有機物を施用すると悪臭を発し、ウジが発生したり、病虫害が多発しやすく、生の有機物の施用は有害となる。また、腐敗型土壌は、無機養分が不溶化し土壌も硬く物理生が悪い。水田ではガスの発生が著しい」と有ります。土が汚れていると言うことは、土壌微生物が有用菌よりも有害な腐敗菌が優先しているということが言えると思います。
浄菌型土壌は、「抗菌物質などを生成する微生物が多く、土壌病虫害がでにくい土壌を浄菌型土壌という。窒素分の高い生の有機物を入れても腐敗臭は少なく、分解後は山土の表土の臭いがある。土壌も比較的団粒化が促進され、透水性も良好となる。病気にならないが収量はやや低い。」とあります。
醗酵型土壌は、「乳酸菌や酵母などを主体とする発酵微生物が優先している土壌で、生の有機物を施用すると香ばしい醗酵臭がして、コウジカビが多発する。フザリウム占有率も5%以下で耐水性団粒形成能が高く、土壌は膨軟となり無機養分の可溶化が促進される。土壌中のアミノ酸、糖類、ビタミン、その他生理活性物質が多くなり、作物の生育を加速的に促進する。水田に於けるガスの発生は抑制される。」と有ります。
合成型土壌は、「光合成細菌や藻菌類、窒素固定菌などの合成型の微生物が優先している土壌で、水分が安定していると、少量の有機物施用でも土壌は肥沃化する。フザリウムの占有率は低く、浄菌土壌と連動する場合が多い。水田におけるガスの発生は抑制される。そして、醗酵系とこの合成系が強く連動すれば、醗酵合成型土壌という最も理想的な土壌となる。」とあります。

創始者は、昭和28年には、農耕地に於ける微生物の働きの大切さを示唆しています。土を清浄に保つと言うことの中には、土壌微生物の働きが大きく関わっていることが、その一つではないでしょうか。
「微生物の農業利用と環境保全」の中には「日本の農地の約90%が化学肥料農薬の多投入等により、腐敗型土壌である。」と記されています。土の偉大な能力を発揮するには、まず、土の微生物相を改善しなければなりません。
また、豊かな森林の表土の臭いは、墨を刷ったときのような良い臭いがします。これは放線菌が出す分泌物の臭いで、森林土壌は浄菌型土壌なのです。森林土壌の生産量は、農耕地に於いては、今ひとつと言わなければ成りません。自然堆肥で育土した土壌は、浄菌型土壌となりますが、浄菌型土壌では生産力はやや低いのです。
発酵型土壌の中心をなしている乳酸菌は、主に群れを作って生活している哺乳類のねぐらや巣などに発生し、人間が住む都会に多く分布しています。木の葉の葉面微生物を調べると、都会から離れる程、乳酸菌は少なくなると言う研究をした人がいます。 その乳酸菌と随伴している酵母菌など発酵系の菌と、合成型の中心的菌である光合成細菌とは、自然界では結び着くことは有りません。
光合成細菌が棲息すると、必ずと言って良い程、好気性のアゾトバクターの様な窒素固定菌やVA菌根菌が共生します。その光合成細菌は、海、河川、湖、沼、池など、水辺に棲息しています。この自然界にない発酵系と合成系の微生物を結びつけたのがEMの技術なのです。

この技術こそが、少ない有機物を有効に活用して、土の持つ偉大な機能・能力をより引き出すことが出来るのです。自然農法が目指す、低投入で、高品質でしかも生産力を上げることが出来る土壌を育てられるのです。このことは、私たちが自然に対する様々な関わり方の中で、土壌の機能をより良く発揮させる一つなのです。
自然農法を求める私たちにとって、残された課題があります。創始者は、「このX(未発見の火素、水素、土素が抱合一体となって生まれた力)こそ無にして有であり、万物の生命力の根源で有る。従って農産物の生育と雖(いえども)もこの力に依るので有るから、この力こそ無限の肥料で有る。故にこれを認めて土を愛し、土を尊重してこそ、その性能は驚く程強化されるので、これが真の農法で有って、これ以外に農法はあり得ないので有る。」と言っています。このことは、私たちにとって、分からないことばかりですが、自然農法の更なる可能性を求めて、生命科学の発達を願いつつ、これからの課題としていかなくてはならないことと思います。