土を育てる12回


土を育てる
NPO法人関東EM普及協会 名誉会長
(財)自然農法国際研究開発センター 元理事長
天野紀宜
 第三章 育土

土に愛情をかける
 
 
 
 
 
 
 
土に愛情を掛けると言うことについても、「冷害は肥毒の壁になっている地表が地熱を遮断するから−中略−農民の愛が欠除している反映でもある。即ち愛は熱であるからである。」と創始者は説いています。
自然農法の水田や畑では、平均して2〜3℃は地温が高いことは実証されています。何故地温が高いかは、土壌微生物や土壌動物の活動等も挙げられ、分かってはいませんが、平均で2〜3℃の違いはおおきなものがあります。私は、土を清浄に保つことと、土に愛情を掛けることも関わっていると思っています。
また農民の愛とは、土や作物に想いを寄せることです。それには先ず自然観察から始まるのです。
或る勉強会での農家のしみじみとした言葉でした。「慣行農業をしている時は、いい加減の気持ちで耕作をしていても結果にはあまり関係はなかった。しかし、自然農法に取り組むようになってからは、いい加減な気持ちで耕作していては結果が出ない。田畑や作物に真正面から向き合わなければ作物は応えてくれない。」と言っていました。そこにいた農家の人たち全員が同感していました。
慣行化学農業は、化学肥料を主にして、農産物を物とし、商品として育てていますが、自然農法では作物の命を育てているのです。生命は生命に反応するのです。
これまで述べてきたように、土壌や作物の生命と向き合わなければなりません。その為には、先ず、気候や雑草、害虫と向き合わなければ成りません。
自然農法の基本は、適地適作適品種で、その年の気候の特徴をつかみ、作物別に、その年に合わせた種蒔き、植え付けの時期、栽培管理が大切となります。

また雑草は、私たちに土の育ち具合を教えてくれていると同時に、土を育てているのです。酸性の強い土地には、アルカリの強いスギナが生え、窒素不足の土地にはカラスのエンドウのような豆科の雑草が生えます。地力の低い畑には、メヒシバのような葉先のとがった雑草が多く、土が育ち、地力の付いた畑には、ハコベやスベリヒユ、シロザなどの広葉雑草が生えるようになります。
水田では、水田表面に窒素が多いと、その窒素を消化するためのコナギが生える。下層土の固い水田にはオモダカなどの宿根草が生えて土を耕しているなど、雑草が土を育てているのです。稲の生育に適した土壌に育つと草はその役割を終えて、あまり生えなくなるというのが自然農法国際研究開発センターでの研究成果です。

害虫は、私たちの自然に対する関わり方の間違いを教えてくれる役割をしているのです。本来、自然は健康そのものです。私たちの自然に対
する関わり方の間違いにより反自然になった結果、自然の調和が崩れ、害虫が発生するのです。
害虫が発生したら、害虫を殺すのではなく、私たちの自然に対する関わり方のどこに原因があったかを見つめ直さなければなりません。病害も一緒です。全ての原因は耕作者である私たちにあるのです。そこから学んで行くのが自然農法の考え方です。
私たちは常に、様々な角度から土や作物を観察し、試行錯誤を繰り返す中で、低投入で、しかも、高品質で高収量となる土を育て、栽培の技能を磨いていかなければなりません。それには自然観察から始めなければなりません。育土の基本は自然観察から始まるのです。