土を育てる13回


土を育てる
NPO法人関東EM普及協会 名誉会長
(財)自然農法国際研究開発センター 元理事長
天野紀宜
 第三章 育土

おわりに
 
自然農法は、生態系の中での生命の循環を大切にしています。 農業を営むのにその圃場だけのことを考え、圃場の回りの畦畔は除草剤で草を枯らしてしまうことはしません。
慣行化学農業が中心となる以前の農業では、圃場の回りは勿論、里山が有れば、里山の手入れも農業の範囲と考えてきました。昆虫などの生物の食物連鎖による循環、水を通しての養分の循環などに取り組んで来ました。現在、環境問題として取り上げられていることも、当時は、日常の生活、仕事の中で、当たり前のこととして取り組まれていたのです。自然の豊かさを保つために、お金にならない仕事も農業の中に入っていたのです。
更に、そのことが沿岸漁業にも繋がり、生態系の中での生命の循環を豊かに保って来たのです。
自然農法は、この循環の思想の上に立って、生態系の中での生命の循環を大切にし、更に、自然に対する正しい関わり方によって、生態系に於ける、生命による循環機能をより発揮出来るようにするため、バイオ技術はじめ科学技術をも生かしていく農法なのです。
自然農法では、自然に存在するものには、全て存在する意義と意味があると捉えているのです。慣行化学農業のように、私たちにとって必要な作物以外は、除草剤、土壌消毒、農薬で殺してしまうことはしません。私たちにとって、一番大切な食べものを生産する根底に、人間の目先の都合を最優先する思想が存在することを憂慮せざるを得ません。
世界の動向を見る時、多くの国の経済成長、人口増加等によって、資源、エネルギー、食糧の争奪戦がいろんな形で始まっているのではないでしょうか。このような時に、慣行化学農業の根底にある考え方と同じように、自分達のことだけ、自分達の国のことだけ考えていたらどうなるのでしょうか。
今こそ、経済優先の競争社会から、自然や生命を大切にした、循環型の全く新しい価値観の社会が生まれなければならない時を迎えているのだと思います。
文化形成の底流をなしている農業が、慣行化学農業から、自然農法へと転換していかなくてはならない時を迎えているのではないでしょうか。
生態系の中での生命の循環を大切にし、自然に存在する全てのものに、存在する意義と意味があるという自然農法が、世界と言わずとも、日本の農業の50%以上になって始めて、共存共栄の社会が誕生していくのだと思います。私たちの強い意志と、覚悟が求められていると思います。