土を育てる15回


土を育てる
NPO法人関東EM普及協会 名誉会長
(財)自然農法国際研究開発センター 元理事長
天野紀宜
 第四章 私の実践編

技術への取り組み
自然農法の技術の基本は、言うまでもなく、土を育てることです。その育土は、第3章で触れましたが、自然に自ずと備わっている土の偉大な機能が働いている森林・原野の有機物と土による優れた土壌断面の構造を、水田、畑地、果樹園等と、それぞれの条件に適した状態に育てることです。そのことによって、土壌動物、土壌微生物が生き生きと活動し、土の偉力が発揮され、健康で美味しい作物が育つのです。
 この項では、私が実践している水田、畑作の育土、即ち、優れた土壌断面構造の再現の仕方を主に紹介したいと思います。

 
 生育初期扇型に開いて生育しています。
分けつが旺盛に成ります
 
   同じ日に田植えした苗の育ち方
 
 隣との違い。左が私の水田です
 
 台風で周りの400haの水田が全て倒伏
しましたが私の水田は一部傾きましたが
直ぐ戻りました
 
          収穫時
水田での育土
私の目指した自然に習う土層の再現による水田の育土は、次のようなものです。
育土の狙いは、
健康で生産力豊かな水田の育土、
草や病害虫に負けない稲を育てるための育土、
地域内資源や圃場内有機物を活用し、自然循環型栽培を目指し、生産資材に頼らず、低コスト、省力栽培の出来る育土です。

その基本は、秋処理から始まります。
秋処理は、稲ワラとモミを(10aの面積にモミの袋で10袋)全量を戻します。
この秋処理のポイントは、稲ワラ、モミの腐熟化にあります。投入した稲ワラ、モミの腐熟化により、窒素の発現と腐植の蓄積、堆肥に勝る物理性の改善をします。
また、トロトロ層の形成による有用な土壌生物の増殖と抑草効果をもたらします。
更に、珪酸の多い稲ワラ、モミが供給されることにより、堅い稲の生育となり倒伏、病虫害に強くなるのです。

未熟な有機物が田植え後の土壌中に残ると、コナギ等の雑草の繁茂、地温が上がるにつれて稲の根を傷める硫化水素の発生等の障害に繋がります。 
その為に、私の水田では、大体9月に入ると直ぐに稲刈りをし、約1ヶ月位間を置いて、9月下旬から10月上旬に、稲わらが茶色から白茶色に変化し、田が乾いた時(鋤込み時の水分60%が理想)に鋤込みます。稲ワラ、モミの分解を進めるためです。
この時期には分解する温度は充分あります。ただ高温が続く年は、稲ワラの分解と地力の消耗の兼ね合いを考えなくてはなりません。
10月上旬耕起のもう一つ理由は、エラミミズを傷つけないよう、エラミミズが土壌表面から地中に潜るのを待つためです。
補助資材として、最初だけ微生物の住み家やpH調整のために燻炭(クンタン)を使いました。貝化石、ゼオライト等(何れか100kg/10a)でも良いと思います。
また、稲ワラ、モミの分解に欠かせないのがEMボカシとEM活性液の散布です。
稲ワラ、モミの分解に必要な窒素量は3〜4kgで、 EMボカシを10a当たり100kg(米ぬか60kg、魚粉20kg、油粕20kg)散布します。
EM活性液は、私は少々丁寧に散布します。EMボカシを散布後に10a当たり10リットルの活性液を散布し、耕起後に10?散布します。これで秋処理は終わりです。
秋処理後は、省力栽培には少々反しますが、土が育つまで、1年目は毎月2回、2年目、3年目は毎月1回EM青汁活性液を散布しました。水田の土を育てるのは、秋から冬にかけても手を掛けることが必要だからです。
栽培中だけでなく、1年中が育土なのです。
ただ土が育ってくれば、冬場は、観察しつつ、心を掛けていれば良いと思います。土の臭いや色、土を手に取った感触、土や稲株を踏んだ感触、昔は土の味見もしました。(現在は、農薬、土壌消毒、化学肥料、放射能汚染等で危険)五感を使って何時も観察していると良く分かるようになります。

次に春ですが、あまり丁寧でないのですが、均平(キンペイ)を意識して荒代、植代をかいて田植えをします。そして、田植え直後にEMボカシを散布します。(ボカシ散布の窒素量は3〜4kgで、窒素5%ボカシ60〜80kgを散布します。私は、米ぬか30kg『N2%』、油粕30kg『N5%』、魚粉20kg『N8%』、N量3.7kgのペレット状のEMボカシを散布します。)EMボカシ散布後、EM活性液10a当たり10リットル散布します。

以上の作業によって、基本的には水田における理想的な作土層が育つと考えています。
それは水田の表面に、薄いですがEMボカシの有機物の層があり、その下にトロトロ層が育ち、更にその下にボソボソ層があるという状態が、作土層が育った状態と思っています。
秋処理から田植え後のボカシ散布までの作業によって、主に水田の作土層のポイントとなるトロトロ層を育てているのです。
また、田植え後のEMボカシの散布は、初期の稲の生育を助け、温度が上がることによって地力窒素が発現してくるまでの繋ぎとなっています。同時に、草の発生を抑えています。

水田に取り組んで今年で5年目になりますが、(今年から完全に他の人が自然農法に取り組む)水田の土壌が強い粘土質という条件も良かったせいか、初年度からトロトロ層が育ち、1年目から除草はしていません。除草の必要が有りませんでした。
収量も周りの水田より良く、食味は、町の産業課の施設を借り、職員に手伝って頂いて、町議会の昼食におにぎりを食べて頂きました。議員の皆さんから美味しいと高い評価を頂きました。
ただ、稲作では、育土に合わせて、水田の均平化、漏水防止、土壌の違いによる代掻きの工夫等耕種的な取り組み、地力に応じた栽植密度、分けつの多少、中干し、間断灌水等の水管理、雑草対策や害虫対策等を考えた畦畔の草刈りのタイミング等、様々な栽培管理も適切に行わなければなりません。

私の場合の青汁活性液の作り方と使い方は次の通りです。
55リットルのタンクにEM活性液1リットル、EMスーパーセラC(パウダー)15g、米ぬか1リットル、青草約40リットル。冬、青草のない時は、生ごみのEM発酵堆肥を入れます。冬は、低温でなかなか発酵しないので半月ほどで散布します。真夏は4日程で発酵し、プンと腐り始めたような臭いがし始めたら水田に投入します。温度によって発酵の日数は変わってきます。
散布は、希釈しないで柄杓で播きます。稲の栽培中も稲の上から届く範囲で、畦の周囲から柄杓で散布します。