土を育てる.2回


土を育てる
NPO法人関東EM普及協会 名誉会長
(財)自然農法国際研究開発センター 元理事長
天野紀宜
第一章   土の生命・作物の生命

土の健康、作物の健康、身体の健康


 
以前、私は、「千葉いのちを育てる会」”なのはな”という会を立ち上げ、農と食の活動をしていました。その会で行った実験です。30名の会員によって、プランター栽培の二十日大根による実験をしました。一名につき3つのプランター(縦65cm、横24cm、高さ19cm)を用意しました。
 3つの内の1つはEMで発酵させた草木堆肥による自然栽培、もう1つは発酵鶏糞を使用した有機肥料栽培、最後の1つは化学肥料による栽培です。有機肥料栽培と化学肥料栽培の窒素成分は同じにしました。
 3種類の用土(用土の詳細は後述)はみんなで作り、プランターの設置場所、種の蒔き方、3回に亘る間引きの時期と間引き方、水やりの仕方等を共通に出来るように栽培の手引き書を作ると共に、種を配りました。
そして、収穫時期にその出来栄えをプランターごと持ち寄ってもらいました。持ち寄ってもらったプランターを自然堆肥のプランター、有機肥料のプランター、化学肥料のプランターとそれぞれ三つの列に分けて比べてみました。並べると予想通り一目で分かる大変面白い結果が出ていました。
 実験に使ったプランターの用土
  自然堆肥のプランター  赤玉土中、2L、プランターの底に入れるため、赤玉土小2,4L、籾殻くん炭1,6L、EM 発酵堆肥8L、灌水の都度EM散布
  発酵鶏糞のプランター  玉土中2L、赤玉土小6L、籾殻くん炭1,6L、発酵鶏糞0,4L、バーク堆肥0,4L
  化学肥料のプランター  赤玉土中2L、赤玉土小10,4L、籾殻くん炭1,6L、粒状化成肥12CC

 
化学肥料で栽培したプランターの育ち方は多少の差は有りましたが、30のプランターは同じような生育をしていました。ところが、自然堆肥のプランターは化学肥料のプランターの倍近く生育したプランター、逆に半分くらいの生育のプランターと大きなばらつきが有りました。発酵鶏糞で栽培したプランターはその中間くらいのばらつきで生育していました。
自然堆肥のプランターは育てる人によって何故こんなに大きな差が出たのでしょうか。その結果は参加者各人の発表を聞いている内に参加者全員が納得しました。一番良く生育した人の報告は次のようなものでした。
観察と栽培の記録をつけたノートを手にしながらの報告です。プランターの日当たりに心を配り、種をまき、芽が出てきた時の感動、双葉から本葉が2枚3枚と出てくるときの緑のみずみずしさ、次々と葉が出て伸びていく力強さに心打たれたことなどの観察記録が丁寧になされ、さらに、プランターの土の乾き具合を見て、計量カップで正確に水やりをし、作物に言葉をその都度かけていたのです。
一方、同じ自然堆肥のプランターでも、化学肥料のプランターに比べて半分くらいの生育だった人は、出産を控えていたので実験に参加するのを躊躇していたのですが、皆に励まされて参加したのです。ところが、丁度生育期間に悪阻(つわり)がひどくなってしまいあまり心も手間も掛けられなかったというのです。
全員の発表を通して皆が納得したのは、化学肥料で栽培したプランターは、言葉、心のかけ方によって多少の差は見られましたが大差はないと言うこと、自然堆肥で栽培したプランターは、言葉、心の掛け方によって生育に違いがはっきり出ると言うことでした。二十日大根は育てる人の心、言葉に反応していたのです。そのわけは次の実験で一層はっきりすることが出来ました。

熱湯消毒した蓋の出来る透明なビンを三つずつ用意し、三回目の間引きをした二十日大根の葉を、同じ量に計量して傷つけないように洗い、雑菌が入らないように同じビンに入れて密閉しました。
毎日観察していると、最初にビンの下の方に茶色い水が出てきたのが、化学肥料で栽培した二十日大根のビンでした。1週間から10日位で、化学肥料で栽培した二十日大根のビンでは濃い茶色の液だけとなり、形はなくなってしまいました。ビンの蓋を開けてみますと、刺激臭の強いなんとも言えない悪臭がしました。次に発酵鶏糞で栽培したビンは、濃い茶色の液の中に僅かな形を残していました。臭いは刺激臭のある鶏のウンチそのものでした。自然堆肥のビンは、ビンの底に水が少し出ている程度で、そのまま形は残していて、漬け物の臭いがしていました。
 私たちは、生命がある内は何十年でも身体は生きて活動しているように、自然堆肥で栽培した二十日大根は、未だ生命を保っていたのです。
 この実験で分かったことは、自然堆肥の用土で育った二十日大根は、土壌に生息するおびただしい数の土壌動物や土壌微生物の生命の活動を受けて育ち、豊かな生命を宿して私たちの言葉や心に反応していたのです。一方、化学肥料の用土で育つ二十日大根には、主に生命のない化学物質が化学的、電気的に作用して育っていて、(慣行化学農業は、リービッヒの無機栄養説に基づき無機栄養成分で作物は育つとしている)私たちの言葉や心には、僅かな反応しかしなかったのではないでしょうか。この実験を通して、食べ物には生命が宿されていると言うことを改めて実感させられました。
         


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