土を育てる.3回


土を育てる
NPO法人関東EM普及協会 名誉会長
(財)自然農法国際研究開発センター 元理事長
天野紀宜
第一章   土の生命・作物の生命

土の健康、作物の健康、身体の健康


生命有る全ての生き物は、生命有る物を食べ、生きて活動しているのです。生命によって生命が支えられているのです。化学的に合成された食べ物では、動物は生命を保つことは出来ません。豊かな命を育てる土が、健康な作物を育て、私たちの健康を支えているのです。
自然農法の創始者は自然を、「目に見える現象としての自然と、自然を自然たらしめている目に見えない自然の力がある」という意味でとらえられました。それを、常に変化し続ける自然現象の奥に、法則性を持って変わることのない絶対の自然、すなわち、自然の意思が存在すると捉えています。自然の生命力は不変です、また、数百万種と言われる生物が調和し発展するために自ずと備わっている諸機能(人間で言えば、消化機能、循環機能、免疫機能等、人為を遙かに超えた機能)等を自然の意思の現れと捉えています。詳しく
 
は拙著「自然から学ぶ生き方・暮らし方」を参照下さい。
創始者は次のようにも言っています。「人間は、目に見えない精神(心、魂)と、目に見える肉体、すなわち、霊と体から成り立っていて、食べものも目に見えない生命力(霊気)と目に見える栄養物からなっている。そして、人間の、目に見えない精神の食べ物は、作物の持つ生命力(霊気)であり、目に見える肉体の食べ物は、その作物が持つ様々な栄養成分である。」と。
 ここで創始者が問題にしているのは、現代の栄養学です。「栄養学は、食べものを、目に見える肉体の食べものである栄養成分でのみ捉え、研究しているが、生きて活動している人間にとって、肉体の栄養以上に大切なのは、生命力豊かな食べものである。人間は、新鮮で、生命力豊かな上に、それぞれの持つ栄養分の豊富な食べものを食べることによって、精神と肉体の健康を保つことが出来る。」この様に言っています。
 私たちにとって、生命力豊かな食べものこそ大切なのです。なぜなら、人間はじめ全ての生き物は、神秘・幽玄な生命力、精神こそが主で、肉体はその生命活動を支えている従なる存在だからです。
 創始者は、次のようにも言っています。「本来土というものは霊と体との二要素から成り立っているもので、体とは土そのもので、霊とは目に見えないが土の本体である。」と。
 即ち、土も、物質であることには違いありませんが、土にも生命力が宿っているのです。土には、枯葉など、あらゆる生物の遺体や排泄物を土に戻し、植物の養分に変えていく自ずと備わっている自己施肥機能、自己浄化機能、自己耕耘機能、自己調節機能等、自然の意思の現れである諸機能を有しているのです。
 自然農法では、土は単なる物質でなく、生命を宿していると捉えています。昔より土作り5年とか土作り10年と言われていますが、自然農法では土作りと言わず、育土と表現します。子育てと同じように、生きた土と向き合い、様々な変化を成長の過程と捉え、土の持つ生命力がより良く発揮できるようお手伝いする立場として、土は育てるものと捉えています。これは自然農法の大きな特徴の一つで後に詳しく触れたいと思います。
 
 これまで食べものの生命について述べてきましたが、ここでもう一度三通りで育てた二十日大根について考えて見たいと思います。この三通りの二十日大根が、私たちが食べて腸にたどり着く頃には、それぞれが分解されて、腸の中でも実験したビンと同じ状態になっているのではないでしょうか。繰り返しますが、化学肥料の用土で育った二十日大根はどろどろとした濃い茶色の液体となり、何とも言えない刺激臭がしました。鶏糞で育った二十日大根は同じような液体で、刺激臭のある鶏糞そのものの臭いがし、腐敗そのものでした。自然堆肥で育った二十日大根は、漬け物の臭いがして、発酵していました。
老化は、腸の腐敗によって引き起こされ、その予防には、乳酸菌が必要という学説で、免疫学者のメチニコフ博士は、1908年ノーベル医学生理学賞を受けています。その研究が発端となって、現在、腸内細菌と免疫に関する研究は進んできています。腸内に、大腸菌の様な腐敗菌が優占すれば免疫力は低下し、腸内に、ビフィズス菌や他の乳酸菌などの発酵菌、即ち、蘇生菌が多く存在していれば免疫力が向上するというのです。腸内に蘇生菌が優占していれば健康で長寿を望めるのです。漬け物は、腸内の乳酸菌を増やすと言われています。腸での造血作用の研究も進んできています。
三通りで育てた同じ二十日大根でも、育て方によって、腐敗するのか、発酵するのかで、私たちの健康に、生命に大きく影響するのは当然と言わなければなりません。生命力豊かな食べものを選択することは、私たちにとって、最も大切なことなのです。         


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