土を育てる4回


土を育てる
NPO法人関東EM普及協会 名誉会長
(財)自然農法国際研究開発センター 元理事長
天野紀宜
 第二章 土の働き

土の生い立ち

 
私が、自然農法を始めた頃、自然農法の勉強会で質問されたことです。「月には土が有りますか。」という質問でした。月には石の粉、砂しかないのです。何故ですかと質問は続きました。「月には空気も水もなく、生物がいないからです。」と学びました。土が生まれる為には生物が欠かせないのです。
それでは土はどのようにして生まれて来たのでしょうか。身近なところでは庭石や灯籠に見られるように、時代を経ますと苔が生えてきます。その苔の下には極微量の土及び土の前の物質が出来上がって来ます。石の粉には含まれていない粘土や微生物、その死体や分解物です。火山の溶岩流にも、時代を経ると共にいつの間にか植物が生まれ、土が生まれています。
地球は悠久の歴史の中で、水、大気、土壌を誕生させました。土壌について見てみれば、長い長い歴史の中で岩石が生まれ、地衣類が生まれ、風雨と相まって土壌が生成され様々な植物、動物等が生まれました。次第に高等な生物が成長することにより土は育ち、原野から低木林、高木林というように生長していったのです。
太陽エネルギーを利用して最初の植物が海に誕生したのは、約20億年前であり、陸上に進出したのが6億年前と推定されています。土の発生もこの頃だろうと言われています。

土は生物と共に地球に現れ、6億年という長い歳月をかけ、地殻変動や砂漠化など様々な変化を繰り返しながら生き続け、生長し続けて来ました。
この遷移を支えているのが生態系に於ける生命による物質循環です。生態系とは緑色植物が光合成によって有機物を生産し、この有機物を草食動物、肉食動物が消費し、土壌生物の分解を通じて、常に環境的諸要素と関連しあって生命体における物質循環システムが成立していることを言います。
生態系の中で、生命による食物連鎖、腐植連鎖(図参照)が繰り返される中で土は育っていくのです。
図のように、食物連鎖は地上で行われる連鎖で、植物が育ち、その植物を草食動物が食べ、草食動物を肉食動物、雑食動物が食べ、そして、全ては土に戻っていきます。
腐植連鎖は、地表から土壌の中で行われる食物連鎖です。植物は全て草食動物、雑食動物が食べるのでなく、その大半は土に戻ります。また、全ての動物の排泄物や遺体も、土壌動物や微生物の働きによって土に戻り、植物の養分となり循環しているのです。
大地に生息する全ての生き物は土から生まれ、土に還ります。このように、土壌を基盤として生命による物質循環を繰り返す中で、豊かな生態系が作り出されてきました。土壌は、生命有る者にとっては、まさに、母なる大地であります。自然は、生命有る者を育むために土壌を用意したのです。
 私たちは、土の持つ偉大な機能・能力を大切にしなければなりません。何故なら、石油や鉱物資源は使えば無くなってしまいますが、土は、私たちの関わり方によっては、無限の資源になるのです。
創始者は次のように言っています。「抑々太初造物主が人間を造るや、人間を養うに足るだけの食物を生産すべく造られた物が土であるから、それに種を播けば芽を出し茎、葉、花、実というように漸次発育して芽出度く稔りの秋を迎える事になるのである。してみればこの米を生産する土こそ実に素晴らしい技術者であり、大いに優遇すべきが本当ではなかろうか、勿論これが自然力であるから、この研究こそ科学の課題でなくてはならない筈である。」と。  


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