土を育てる6回


土を育てる
NPO法人関東EM普及協会 名誉会長
(財)自然農法国際研究開発センター 元理事長
天野紀宜
 第二章 土の働き
作物は肥料で育つのではない
私たちは、作物は、化学肥料や有機肥料等人為的に施した肥料によって育つと行っても、殆どの人は何の疑問を待たないと思います。逆に、作物は、化学肥料、有機肥料等の肥料によって育つのではないというと言うと、多くの人は、そんなことを言う人は、変人だと思うのではないでしょうか。
以前、私が、ある人に「作物は肥料によって育つのではない」と言ったら、その人は、「人間だって食事をするから生きて生活しているのではないか。食べないで生きていける生き物があるのか」と言うのです。その人は、作物の食べ物は化学肥料や有機肥料等の肥料だと思っていたのです。
自然農法の創始者は、「作物は肥料で育つのではない」と言っています。「自然農法の普及は、肥料迷信打破運動である」とも言っています。
それでは、作物が肥料で育つのでなければ何で育つのでしょうか。
創始者は、「一葉の朽ち葉をとれば厳として輪廻の則を語りているも」(昭和6年11月)と詠んでおります。この和歌は、生態系の中での生命による物質循環を端的に表現したものと言えます。
 一葉の朽ち葉を分解するには、モグラやミミズ、クモ、ムカデ、ダンゴムシ、ヤスデ、トビムシ、カニムシ、ダニ、ヒメミミズ、ネマトーダ、ワムシ、クマムシ、原生動物から微生物へと繋がって分解されます。一葉の朽ち葉は、こんなに多くの土壌生物によって分解されています。その物質循環の過程で生まれる様々な養分が植物を育て、それを動物が食べ、その動植物の遺体は、土に戻って循環しています。ちなみに、土壌動物は、地上に生息する動物生物量の10倍以上で、微生物に至っては、さだかでは有りませんが、単位面積で100倍以上の生物量が生息しているとも言われています。おびただしい土壌生物の働きによって動植物の遺体は分解され、養分となって、すべての植物が生まれ育っているのです。
 この土壌生物達が一番嫌うのは急激な変化です。化学肥料、畜糞の多用、未熟有機物の鋤込み、大型機械での攪拌、無計画な作付け体系等です。そのことによって、土壌生物相が偏り、多様性を失い、また富栄養化等により、土壌はその力を失い、荒廃していきます。土壌の生態系を無視し、循環を無視して作物の生産は考えられないのです。
 創始者が強く説かれたように、人間の施す肥料によって作物を育てるという一時的効果に幻惑された「肥料迷信」を打破しなければなりません。土壌は、生命による物質循環によって、土の偉大な機能・能力が発揮され、植物は繁殖していることを疎かにしてはいけないのです。


 

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