土を育てる7回


土を育てる
NPO法人関東EM普及協会 名誉会長
(財)自然農法国際研究開発センター 元理事長
天野紀宜
 第二章 土の働き
作物は、土壌生物によって作り出す養分によって育つ
 前述したように、健康で美味しい作物は、土壌に生息する様々な生き物が作り出す養分によって育つのです。繰り返しますが、ミミズは、土や有機物を食べて養分に満ちた糞を出します。地表にはクモやカエル、カマキリ、テントウムシ等々、土壌にはモグラ、ムカデ、ヤスデ、トビムシ、ダニ、クマムシ、様々なセンチュウ等々生息しています。また、多い土壌では1?に1億個以上の微生物が生息していると言われています。これらの生きものがお互いに食べたり食べられたりしながら、有機物や動物の遺体を分解し、豊かな生態系を築き、多種多様な養分を作り出しその養分によって植物は育つのです。
私たちは、多くの種類の食べ物を食べ、それが消化されて身体が出来、生活を営んでいます。最近サプリメントがもてはやされていますが、人間に必要な栄養素をサプリメントにして採っていれば、理想的な健康な生活を送れるのかというとそうは出来ません。食べ物を消化することによって生まれる活力、生活力が生まれ活動しているのです。創始者はその事を「鍋工場に原料を持って行かないで鍋を持って行くようなものだ。鍋工場の機械は、動かさなくても良いから錆ついてしまう。」と言っています。
農作物に化成肥料のよう高濃度の栄養を与えれば根をそれ程伸ばさなくても良いのです。作物の根本である根があまり伸びないのです。
生き物が作り出す養分によって育った作物の根は長く伸びています。養分を求めて根が一生懸命伸びることによって、土壌に豊富にある様々なミネラルも一緒に吸収しているのです。
 土壌に高濃度の栄養を残すと、土壌の生物相を攪乱し、作物の根の伸張を阻害してしまうのです。必要な養分が必要な時、必要なだけ有るのが自然の豊かさであり、自然の姿なのです。
近代以降、慣行化学農業によって、生産量は飛躍的に増え、化学肥料・農薬の多投、農業の機械化、大型化が進みました。しかしながら、1980年代半ばから生産量は頭打ちとなり、土壌の生物は減少し、土壌構造はダメージを受け、悠久の年月を掛けて育ってきた土壌は、その歴史から見れば僅かな時間で、急速に荒廃が進んで来ました。土壌は病み、土壌の死を意味する砂漠化も気象変動と合わせて進んできています。
農業の近代化が進む中で、土壌は、農業者にとって単に肥料を効かす媒体であり、作物の支持体であるかのような対象になってしまいました。化学肥料という偏った栄養素等、で育つ作物は病弱となり、農薬なしでは育たなくなりました。
食の安全・安心に関心が高まっている現在、 農業の近代化を根底から見直さなければならない時を迎えているのではないでしょうか。
 土壌は、単に肥料を効かす媒体や、植物の支持体ではありません。全ての生物の生命を養う偉大な機能・能力を自ずと備えた存在なのです。
 自然農法では、土壌に自ずから備わっている偉大な機能・能力をより豊かに育てていこうという農法です。偉大な機能・能力が発揮されていれば、化学肥料や農薬に頼らないでも地球の進化と共に生産量は向上し、土壌は常に健康を維持増進していくのです。


 

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