土を育てる8回


土を育てる
NPO法人関東EM普及協会 名誉会長
(財)自然農法国際研究開発センター 元理事長
天野紀宜
 第三章 育土

育土とは
創始者は「土を生かす・・・、土を殺す・・・」などと説き、土は生きも死にもする生命体と捉えています。私たちは土作りと言いますが、科学技術で化学合成した土を作ることは出来ません。私たちに出来ることは、土壌の生き物が著しく減少した土壌には、土壌生物を人工的に移植したり、一層繁殖できるような住みかや食べものを与えたりして、土壌に多様な土壌生物が繁殖できるようにすることです。また、土壌表面の有機物を豊富にすると同時に、良い土壌環境を整え、土壌の腐植の生成を助長させて、物理・化学・生物性に優れた生き生きした土に育てることです。
創始者は、「土を生かすと言うことは、土壌に人為肥料のごとき不純物を用いず、どこまでも清浄に保つことである。そうすれば土壌には邪魔者がないから本来の性能を十分に発揮できる。」と、また「土に愛情をかけること」が大事で有ると述べています。
土壌は生き物です。土の中には、多くの生き物がいて、土そのものも生き物です。作物に愛情をかけるのは勿論、土にも愛情をかけることによって、土が生き物である以上、その思いは伝わり、土の偉力を最大限に発揮させることが出来るのです。
 私たちが、子育てをする時、子供としっかり向き合わなければならないように、土としっかりと向き合わなければなりません。そして、土自身が育って行くよう適切なお手伝いをすることです。そのためには、土や作物の観察から始めなくてはなりません。

 
 多種多様な生物が活動する土壌表層
(愛知万博長野県の展示より)
森林土壌
自然農法の育土は、自然の中で最も豊かな森林土壌(ここでは自然林を言う)の観察から始まりました。
森林土壌の地表には、落ち葉が積もり、その落ち葉をめくってみると、キノコ菌の菌糸がいっぱい張っていて、小枝や落ち葉の分解が始まっていました。その下には様々な虫たちが観察され、小枝や落ち葉などの分解が進み、更に下には土が見えてきます。その土の臭いを嗅ぐと硯で刷った墨のような良い臭いがしていました。
この自然観察を通して土壌の構造を次のように学びました。図1を参照下さい。
森林の土壌を、土壌学では、地表から落葉枝堆、醗酵層、腐植層と層を成していて、それをA0(エイゼロ)層と言います。A0層の農業での呼び名は、堆肥材料、未熟堆肥、完熟堆肥です。A0層の下にはA1腐植混入層があります。農業での呼び名は腐植土です。A1層の下はA2溶脱層があり、農業の呼び名は耕土です。A2層の下にはB集積層、農業での呼び名は心土です。
さて、土壌生物は、A0層の醗酵層、農業の呼び名の未熟堆肥の層に最も多く下層に行くほど少なくなっていきます。
太陽の直射日光を受けず、日かげで適当な水分と空気があり、強い風雨による土壌表面の攪乱もなく、地表面の急激な温度差が少ない豊富な有機物のあるA0層に最も多くの土壌生物が棲息しています。
 養分吸収の根群は、A0層の腐植層、農業の呼び名の完熟堆肥の層に最も多く、未熟堆肥の層、腐植土から心土層迄万遍なく拡がっています。
この自然の森林原野のA0層、A1層、A2層が育っている土に、自然に自ずと備わっている土の偉大な機能が働いているのです。

図1



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