土の偉力 土にも同じように機能が働いています。自然に自ずと備わっている諸機能によって土の生命活動が成り立っているのです。その機能とは、自己施肥機能であり、自己耕耘機能、自己浄化機能、自己調節機能等です。
森林のA0層には最も多くの土壌の生き物がいて、落ち葉や枯れ葉、枯れ草、土壌動物の遺体などを植物の養分に変えていきます。Ao層には養分を吸収する根が最も多く集まっているのです。それが自己施肥機能です。 森林の土はフカフカしています。ミミズや線虫などの土壌動物や土壌微生物、植物の根などが土を耕しているのです。人が耕さなくても、多くの生き物が土を軟らかくしているのです。そこには自然に自ずと備わっている自己耕耘機能が有るのです。 土壌動物の糞も動植物の遺体も、全て、あの良い臭いのする土に戻ります。そこには、自己浄化機能が働いています。また、豊かな森林は健康そのもので害虫や病原菌だけが優占することなく、害虫や病害虫を含め、多種多様な生き物がそれぞれの働きをし、生態系の中で生命による物質循環を繰り返し、調和しているのです。自己調節機能が働いています。この様に、土の機能が発揮されることによって、大木を始め様々な植物を育てる生産力豊かな森林が形成されているのです。 この森林土壌のように自然に自ずと備わっている機能・能力を充分に発揮した生産力豊かな土壌を、水田や畑に再現するのが自然農法の育土であり、そこに技術開発の基本があるのです。 私は、自然農法を学び始めた頃、次のような実験を通して育土の基本を学びました。 水田に隣接した林の小道に使い古しの畳を春に置き、その畳を秋にはがしてみました。すると、畳の下には様々な虫たちが元気に動いていました。そして、畳の下の土はすでに人の踏みしめた土ではなく、フカフカとした柔らかい土になっているのです。臭いを嗅ぐと硯ですった墨のような良い臭いがしていました。 その後、何度も体験したことですが、草を刈って、堆肥として畑の隅に積んでおいた後の土はフカフカしています。そして、その堆肥を表面に少し残したところに植えた作物の出来栄えは抜群でした。 土が育って行く第一条件として腐植の増加が挙げられます。土壌に腐植が育って行けば、土は団粒化し、フカフカとした土となり、水はけが良く水持ちの良い土となります。また、腐植によって様々な生物が作り出す養分の保持力が上がり、腐植は様々な生物の住みかや食べものにもなります。
しかし、土壌消毒を続け、化学肥料・農薬を多用してきた農地の地表に、森林のように有機物を厚く敷いても、土壌の生き物が少なく、有機物の分解には時間がかかります。そんな時には、人間が土壌動物や土壌微生物に変わって半熟や完熟堆肥を作って土の層に入れてやらなければなりません。また、有用な微生物を移植することも有効です。人間が手助けをし、土壌生物が豊かになるようにしていかなければなりません。 以上述べてきましたが、創始者の自然農法の理念・原理、即ち、思想・哲学を受けて設立された、公益財団法人自然農法国際研究開発センター(以下自農センターという)では、様々な実証試験の結果、育土の基本は、上記の育土当初の取り組みは別として、未熟な有機物を圃場の表面か、極浅く鋤込むことで、土壌中に鋤込まないことを基本技術としています。土壌中に未熟な有機物があると、土の機能を十分に発揮する、健康な土に育ちにくいのです。 |