特集 EMと家庭菜園
えむえむ関東92号より
=EMネット神奈川発=
 自由に楽しくSINOBUファーム         
           〜山口忍さんの家庭菜園〜                  

 
山口忍さんと菜園
十人十色の家庭菜園にお邪魔するのは仕事でも楽しい。農家の場合は、経済の問題が最も重大にもかかわらず、意識的にそこに触れないようにする。経済はあまり気にしないでよいのが家庭菜園。生業(なりわい)でない農ほど、おもしろいものはない。虫に食べられたといっては悔しがり、とれすぎた野菜にためいきをつき、実と似ても似つかない花の美しさ、こぼれ種で自生するたくましい姿に感動する。そして、共通の悩みは、雑草問題だ。ことに自宅から遠く離れた場所に菜園があれば、数日出向かない夏など、想像するだけで恐い。自宅の逗子市から一山越えた鎌倉市に600坪の菜園をもつ山口忍さんもそのひとりだ。
 
50坪から600坪へ

 山口さんは、結婚して逗子市の分譲地に新居を構え、まだ買手のつかない50坪の一区画を借りて近隣の人たちと家庭菜園を始める。子どもを寝かしつけて、土いじりをし、子どもが起きると家に戻るという生活。農薬を使わない野菜を子どもたちに食べさせたいという思いでいっぱいだったし、なにより子どもの頃から、農作業が大好きだった。その後、分譲地は完売して家庭菜園の場所はなくなった。山口さんも仕事に没頭していたが、8年前に「農地があるけど、誰もやる人がいないから、やってみない?」という話が飛び込む。

 その場所は、鎌倉駅から車で20分。後ろには栗林。農地ではあったが、カヤが生い茂り、スギナやヤブカラシなど、雑草の王国。緩やかな斜面の下には、川が流れてはいるが、水道施設はない。「この悪条件を楽しむっきゃない!」と覚悟を決めた。

                              夏の菜園

家庭菜園だから自然農法で


 
竹や布をつかうエコ菜園
しかし、悪条件を本当に楽しめるようになったのは、EMネット神奈川が主催する神奈川EM有機農業実践塾に参加してからのことだ。土を耕してくれる草は、憎むべき相手ではなく、大事な資源として生かす。今では、背の高い草は生えない。生えてくる草は刈り取り畝間に寝かせておくだけ。というわけで、「自然農法の勉強をして、草に対する見方がかわったけど、やはり草茫々にはできないわよね」。
 水は天にお任せする。でも、「40日間雨が降らなかった時は、さすがに心配になって、大量の水を車に積んですっ飛んできた」そうだが。実際、600坪ともなると水道が引いてあったとしても、水やりはたいへんな作業だ。雨水を容器にためておくが、夏などは焼け石に水だ。

苗は大事に育てる

 レモンバームやバジルなどのハーブ類を混在しているのも意識したわけではないが、結果的に虫よけの効果があるようだ。出来る限り自家採取している種は、EMの希釈液につけて、苗床に撒く。トマトは、さし芽で増やすが、このときだけは、さし芽用の土を購入する。2度水切りして、EMの希釈液につけておくのが山口さんのこだわりだ。苗で野菜の一生が決まると聞いて、子育てと同じだなと合点がいった。EM1、2、3と糖蜜と水で培養した「EM活性液」とEM7は、いつも用意しておいて、惜しみなく使う。オールマイティだから、何々用とは考えない。
 里芋は同じ場所に3〜4年栽培しているが問題はない。トマト、ナス、ジャガイモは、連作をせず、場所を変えている。
 
野菜・花・果実の理想卿

 作物の種類は、好きなものを好きなだけ。
山口さんのお気に入りは、夏場の葉ものが少ない時期に重宝するバイアム。ジャワホウレンソウともいい、原産地は中国ともインドともいわれている、ヒユ科の野菜で高さ40cmほどになる。おひたしにしても、油いためにしてもおいしい。こぼれ種で、毎年収穫できる。里芋もおいしい。必要な分だけ、土からとって使うが、それを知っている友人たちがお正月になると「山口さ〜ん。里芋ある〜う」という声がかかる。「実際、土の中にあるんだから、ないとはいえないわよね」と笑う山口さんだ。
 さらに好評なのが、野菜の中に咲くお花の一群だ。強い夏の光を浴びて咲くグラジオラス、ダリア、ヒマワリ・・。四季折々の草花が目を楽しませてくれる。「花菖蒲、三寸あやめ、カラーやアガパンサスなど、宿根草は季節を忘れないのよね」。そして、後ろにひかえる栗林。ここでの春のヨモギ摘み、秋の栗ひろいは最高の楽しみだ。
「自然の山を背景にしているから、あまり人の手を加えなくても様になっているのかもしれないね」。花と野菜と果実、そのバランスが
とても豊な菜園をかたち作っている。

大きな台所につながる農園
今日はゴルフ仲間がお手伝い

 さて、この農園には、いろいろな人たちがやってくる。引きこもりの青年たちがやってきたこともある。陽に当るだけでもいいのではないかという思いだったが、心も開放されてか笑顔を見られたのはうれしかったと話す。この農園の働き手は、山口さんの友人たち。今日は、ゴルフ仲間の男性がひとり黙々と働いている。「畑仕事など経験がないが、やってみると意外と性にあうのかも」と笑う。それにお目当ては、山口さんの手づくりのお昼ごはんだ。野菜は、ほとんどが自給。新鮮な野菜は、魅力的だが、その上、山口さんのお料理の腕もただものではない。料理の基本は辰巳芳子さんに薫陶を受け、イタリア料理を2つの教室で習う。夢は大勢の人にお料理を食べてもらうことだ。
 今一番うれしいのは、お嫁さんや娘さんが、「お母さんの料理を覚えたい」と言ってくれること。そして、農家を継ぐことなく教師になって労働運動に身をささげた父が、この農園を好んでくれることがうれしい。ちなみに山口さんの父上は槙枝元文日教組元委員長だ。 
 子育てに夢中だった第1期の家庭菜園、友達の輪が広がった第2期の自然農園、農園を通して、山口さんの食卓が大きくひろがっていく様がみえる。


葉ものが少ない夏場に重宝する
ジャワホウレンソウ

こぼれ種で、毎年収穫できる


★ とれ過ぎの野菜は1年分の保存食に★

トマト:ざっくり切ってグツグツ煮込む。さまして冷凍庫へ。イタリアンにはかかせない。
キュウリ:醤油50cc,酢70cc、砂糖80g、しょうがの千切り、塩昆布適量を10分間煮込み、その汁の中に1kgの塩もみしたスライスキュウリを入れる。自家製「キュウリのQちゃん」の出来上がり。