特集 EMと環境教育
えむえむ関東87号より
=EMネット山梨発=
環境教育ツール・EMの果実
      
                   山梨県身延町 身延町環境下水道課 
                           環境衛生担当 依田光太

はじめに

 2004年9月に三つの町が合併し現在の身延町が誕生しました。私自身は半年後の2005年4月に環境下水道課に異動しそこで初めてEMなるものを知り、それを活用した活動を行なっている団体があることを知りました。
 NPO法人「エコクラブみのぶ」では旅館や老人ホームなどから発生する食品残渣を収集し、EM飼料に再生処理し養鶏を行なっています。安心・安全な卵の販売や学校給食での使用、また、発酵鶏糞による農産物の生産活動などを知り、町内にこのような活動をしているグループがあったのかと感心しました。
 また、町内の可燃ごみを焼却処理している「峡南衛生組合」でもごみを溜めるピットにEM活性液を噴霧し、臭いやハエなどの発生抑制に活用していました。配管などの設備はそのまま利用し、化学薬品からEM活性液に切り替えたとのことでした。また、生ごみも収集しており、EM有機肥料に再生処理しています。山梨県から特殊肥料として認定を受けている優れものです。地元のみなさんにも好評で、2008年7月の販売開始から1年間で3000袋以上の販売実績を上げています。ほかに発酵ボカシも、家庭での生ごみ処理の発酵促進剤や土壌改良剤として活用されています。
 町もEMの普及のため、各種団体や地域で行なわれる「米のとぎ汁EM発酵液作り」や「EMぼかし作り」などの講習会における講師料や材料費を町が負担しています。
 EMという私にとって未知だったものが、以外に身近なところで使われているのだなあと感心すると共に新鮮さを覚えました。

エコクラブみのぶ・作業棟 峡南衛生組合・焼却処理棟
 
教育ツールとしての活用

 環境について学ぶ日々を過ごすうちに、環境教育の大切さを感じるようになりました。環境先進国といわれるヨーロッパなどの国々の取り組みを目にしますと、小さな頃から自然環境を大切にする心を育む、そんな教育が重要視されているように感じました。自然や物、人などに対して優しい目を向けることが意図せずに自然にできる、そんな大人に子どもたちがなれるよう、少しでも手伝えることがあればと思いました。それで地域で行なっていた「米のとぎ汁EM発酵液作り」を学校に取り入れてもらおうと思い立ち、学校に働きかけるため教育委員会にお願いして、定期的に開催される校長会に出席させていただきました。そこでEMについての説明と環境教育ツールとしての「米のとぎ汁EM発酵液作り」の提案をしました
 最初に手をあげてくださったのが私の地元の西嶋小学校でした。実は当時、私の5年生になる息子が通っており、行なうのはその5年生ということでしたので、もしかしたら私に気を使ってくださったのかもしれません。

 
講師は「エコクラブみのぶ」に依頼しましたが、子どもを対象にしたEM講習会は初めてということもあり、EMについての基本的な事柄を理解してもらうのに、大人相手とは勝手が違ったのではないかと思います。
 説明後、子どもたちが持参した米のとぎ汁とEM1、糖蜜を使って発酵液作りを行ないましたが、ほとんどの子どもが始めて見るEMに興味津々に見入っていました。もしかすると得体の知れないものをみているような感じだったのかもしれませんね。作った発酵液は各家庭において活用されたことでしょう。ちなみにこの時の講師は現在の峡南衛生組合の遠藤所長です。(口癖「やるか、やらないか、そのどっちかですよ」)
 そしてその日が、その後に何十回と続くことになる学校での講習会の第一歩となったのです。身延町の子どもたちの頭の中にEMが初めてインプットされた2006年5月29日のことでした。

はじめてのEMに目がくぎ付け 「お花にはどれくらいあげたらいいですか」
 
7月には静川小学校でも行ないましたが、この時は環境保全に熱心に取り組んでいる地元の方が二人かけつけてくださいました。特にこちらからお願いしたわけではありませんが、このような住民の方の協力は環境に関する取り組みを持続可能なものとするために大切な要素になるように思います。また、ボランティアの精神を子どもたちに伝えるものにもなったのではないでしょうか。感謝したいと思います。また、質問コーナーの時間も設けてあり、代表の児童たちが熱心に講師に質問していました。授業としてきちんと構成されていたことに感心しました。
 さらに11月には身延北小学校で学校開放の日に行なわれ、保護者や地域の方が興味深く御覧になっていました。

はじめてのプールへの投入「来年が楽しみ」 プール清掃「楽しいな」
 
2006年にこの3校で始まったEM活動をさらに発展させるため、山梨ではまだあまり普及していない、EMを活用したプール清掃の実験を計画しました。実験モデル校は静川小学校です。11月に発酵液作りを行ない、その2週間後に児童が作った発酵液と無償提供していただいたエコクラブが作っている活性液の合計200リットルが初めてプールに投入されました。発酵腋がプールの水に混ざり合っていくのを見つめる全員のまなざしには、期待と不安が入り混じっていたのではないでしょうか。
 さて、翌2007年の春ですが、越冬したEM入りのプールは例年に比べて濁りが少なくなっているようでした。新1年生も加わった4月に2回目の発酵液作りとプールへの投入が行なわれました。黄色い帽子を被った新1年生も楽しそうでした。
 プール清掃の日は前日にある程度まで水が抜かれていましたが、すでに藻類などがプールの中央に集まっていました。底一面に張り付いている藻類も簡単に洗い流せそうな感じです。壁にも藻類はほとんどありません。
 実際に清掃が始まると、ホースで水をかけただけで藻類がはがれ、デッキブラシも力を入れてこする必要もなく、すべって転ぶ子を見ることもありません。例年の半分の時間と労力で清掃を終えることができました。児童や先生から驚きの声と共に「こんなに楽なのは初めて」とか「やらないほうがおかしい」といった声を聞くことができました。
 そして、この実験がきっかけとなり、その後、町内の小学校7校で「米のとぎ汁EM発酵液」を活用したプール清掃が始まったのです。7校のみなさんに感謝いたします。
 この取り組みについては町のCATVの担当者に撮影してもらいDVDにしました。その後、各種団体の環境学習会で何回か紹介することができました。子どもたちが楽しそうに発酵液を作ったり、インタビューに答えている様子を多くの方々に見ていただくことができ、環境学習の貴重な資料となっています。
 このEM活動は徐々に広がりを見せています。豊岡小学校では授業参観で保護者も一緒になって「米のとぎ汁EM発酵液作り」を行ないました。授業参観としては身延町で初めてだったのではないでしょうか。

身延町初「EM授業参観」 PTA学習会「EM廃油石けん作り」
 
また、静川小学校ではPTAの学習会で「米のとぎ汁EM発酵液作り」や「EM廃油石けん作り」などが行なわれました。そして、同校の今年の4年生は総合学習の時間を用いて、EMが環境にどのように影響しているのかを調べるために、先生と共に取り組んでいます。
 西嶋小学校では、EMを題材とした夏休みの自由研究に、今年ある児童が挑戦しました。汚れた川の水がEMによって実際にどのくらいきれいになるのかを調べるというものでした。環境下水道課にどのようにして調べたらよいかという相談の電話がありましたので、町の河川水質調査をお願いしている「山梨県環境科学検査センター」に相談したところ、CODが簡単に測定できるパックテストを御好意で無償提供いただきました。感謝です。採水した川の水のCODを、EMを入れる前と後で測定したところ成果があったそうです。実験結果は成功したようですね。
 今年度、町では住民全員で取り組む地球温暖化防止関連事業として「緑のカーテンinみのぶ」事業に取り組みました。講演会や住民へのゴーヤの苗の配布のほか、役場庁舎や小中学校、保育所などの南側窓などに天然の日よけとなるようネットを張り、ゴーヤ・キュウリ・アサガオを育てました。その折に肥料として活用したのが前述の「峡南衛生組合」の生ごみを再生処理したEM有機肥料です。

これからのこと

保健委員の指導「ほら、こうするんだよ」
 昨年、西嶋小学校では休み時間を利用して、保健委員の児童が中心となって発酵液作りを行ないました。このように学校、特に子どもたちが中心となった自主的な取り組みへと活動を広げることがこれからの課題といえます。
 これまでの3年間は普及のためにどちらかというと町主導型でしたが、これからは学校における自主的・継続的な活動につなげるために、どのようにサポートしていけばよいのかを考えていきたいと思います。そのためにはお互いの協力が不可欠ですので、普段から良い人間関係を築けるよう心がけていきたいと思います。それは学校だけでなく住民による地域活動に対しても当てはまることだと思います。これからも学校が環境情報の発信地となり環境の輪が地域に広がることにより、日常の生活の中にEMが溶け込んでいるような、そんな町になればと思います。
 将来に向け、子どもたちが自分で考え、工夫し、行動することによって自然環境を大切にする心を育んでいくこと、それが環境教育ツールとしてEMを学校に導入した果実を摘み取ることになるのだと思います。
 自分にできることなどほんの僅かしかありませんが、子どもたちの素直で真摯な姿に倣い、いつも謙遜さと感謝を忘れず、自分の分を果たしてまいりたいと思います。
 最後に、この活動に関わってくださったすべてのみなさんに感謝いたします。