特集 生ごみの有効利用とEM  
「えむえむ関東66号」より
=EMネット茨城=

NPOエコライフの取り組み
茨城県牛久市 NPOエコライフ代表 川谷 睦子
 世界気象機関(WMO)によると、地球温暖化に影響するCO2濃度は'04年の世界平均濃度=377.1ppm、日本の3地点で調査した'05年の平均濃度=380.7〜382.5ppmで、いずれも過去最高だった前年をさらに上回り、依然増加傾向は続伸中という。 

可能性に期待をこめて
 本会の前身「エコライフの会」が環境問題に取り組みだした15年前は、かつてない気象現象が起きても、「たまたまの現象」なのか、あるいは「地球温暖化による異常現象」と表現していいものなのか、明言は避けられている。
 しかし、次第に温暖化による気象変調が顕著になり、被害も大きくなって、そう認めざるを得ない状況となってきた。一刻も早く改善していかねばならないが、それには多くの人々の協力と努力が必要だ。環境ボランティアとして活動するなら、一市民団体でいるよりNPO(非営利法人)になった方が、より大きい活動に繋がるかもしれない。その可能性にかけてみることにした。5年前のことだ。
 NPOの資格を得たことを市ヘ報告に行くと、「次年度から学校給食ゼロエミッション(学校給食の食べ残しを学校外に持ち出さず、堆肥化して処理する)事業実施計画を検討中だが、化石エネルギーを使用しないEMで参入してみる気はないか」と打診を受けた。
 そういう案があるらしきことは、半年前に聞いていた。しかし、それはEMではない、他の好気性菌使用の機械でということだった。
 生ごみを焼却処理しない案そのものに対しては、本会の活動日的にも合致し異議はない。
 しかし、もしその案が決定し施行されたら、地元・牛久の子供たちに本会の「EM環境教育」が入る余地は「今後ほとんどないだろう」と、内心ガッカリもしていた。
 だから、本会に振られたこの幸運を逃すわけにはいかない。諸々の条件は後の話し合いで詰めていくとして、可能性に期待をこめて、まずは「EM環境教育の場」を確保した。

EM環境教育へのこだわり
 なぜ「EM環境教育」にこだわるのか?
それは、EMと調理クズや食べ残し(生ごみ)をEMボカシで和えて作った堆肥の効き目がすぐれていることは言うまでもない。しかし、その他にも、いくつかの理由がある。
 例えば―、
1)好気性から嫌気性までの菌を包含している「EM」には、その働きに合理性があり、矛盾がないこと。即ち、酸素を使って二酸化炭素を吐き出す好気性菌と、二酸化炭素を使って酸素を吐き出す嫌気性菌が「共生共栄」しているので、温暖化を促進する二酸化炭素の排出が理論上は0になる点である。
2)循環型社会構築のための環境教育と言うと難しいが、「食べ残しで、ぼかし和え(EM生ごみ発酵肥料)を作り→使う。そこに植物を植えて育て→食べる」を繰り返していくEMは、誰にでも身近で分かりやすい教育資材である。
3)2)の“いのち”が“いのち”を育む「大自然の理」を、体験しながら学ぶ過程には、ワクワクする発見が随所に詰まっている。
4) 昔はそれなりに活用されていたものの、現代では産業廃棄物として邪魔者扱いで処理されていた籾殻や廃糖蜜、あるいはEMの発酵過程で出てくるあの特有の臭いさえも、次の良い働きに繋がる重要な段階と理解すれば、「世の中には何一つ無駄なものはないという価値観を持つこと」ができる。
5)4)から発展して「いのちある人間はなおさらに、一人一人が大切で素晴らしい存在である」ことを、まだ純粋で豊かな感性をもち、同時に今の新知識・新技術を学んでいる子供たちが知り、その柔軟な心と頭を駆使して地球環境の解決を図ったならば―。 EMには未来に大きな夢と希望がわいて来る「総合的な環境教育ができる」可能性がある。
 原理原則を守れば、EM技術は決して難しくない。ただし、手間と、暇(時間)と、心をかける必要がある。教育において、それは欠点だろうか?

牛久市学校給食ゼロエミッション事業
 本事業は、平成14年度から取り組みが開始され、18年度で5年目を迎える。
 現在の状況では、1校は全学年&調理室まで完全ゼロエミッションに至っている。その他の学校は1〜2学年。ただし、市内全7小学校で実施している。
この事業推進のために各校に用意したものは、
・ ぼかし和え作りをするために:
  密閉容器100個、EM専用の倉庫、水切りザル、EMボカシ、小分け用EMボカシ入れ等
・ 土作り(埋める)用に:
  シャベル、スコップ、まんのう(指導用に)、ブルーシート、シート止めピン等(埋めた後をカバーするための)
・ 密閉容器洗い用に:
  洗い桶(クリーンセンターに出された古い衣装ケースを貰い受け使用)、石けん、タワシ類、拭くタオル等
・ 倉庫掃除用に:
バケツ、箒、チリトリ、デッキブラシ等 
 密閉容器を100個も用意したのは、排出されるぼかし和えを1ヶ月間熟成後、埋めることを前提に、ゆとりを入れて算出したため。
 実際に、ゼロミッション完全達成校は児童数300人弱の小規模校だが、牛久市の給食調理は自校方式を採用しているので調理室でもぼかし和え処理を行っている。このため、1ヶ月に60個強の容器を必要としている。

教育現場と本会の関わり
 先ず、実施校の全教職員に説明会を開催。EMの紹介とEM使用の基本的なゼロエミッション方法の概要説明、ぼかし和えについての摸擬実技指導を行う。その後、その学校の実状に合わせたやり方を細かく検討し、実施学年、実施開始日などを決定してもらう間に、熟成倉庫の建設や容器等を準備する。
 開始当日は、実施学年児童に
@ ゼロエミッションの意義(なぜ取り組み出すのか?)
A @とEMとの関わり、EMの説明(EMってなあに?) 
B 具体的な方法(ぼかし和えの作り方)などの事前説明授業を行い、給食後にその実地指導にあたる。学校の要請があれば2〜3日、実地指導を継続して行う。
 土作り(埋め方)指導の方は、土作りから容器洗い、片付けまでの全過程を全員で役割分担、1時限内で収まるよう授業展開を図る。
 容器洗いには、給食廃食油にEMを混ぜて作ったEM石けんを使用し、溜め水洗いの節水方法と併せて環境保護の実践教育に繋げている。

子供たちの反応
 
やり始めた頃はさわれもしなかった食べ残し。
今は素手でも平気になりました
土作り教室(ボカシあえの埋め込み)。
1時限(45分)に20個のバケツ分、
1クラス30人が埋め込みから容器洗いまで
趣旨は大切だと分かってはいるが、ただでさえ短い昼休み時間。給食を子供たちにユックリ食べさせたい先生は、これ以上余計な作業を入れたくないと内心心配される。しかし、実際にやってみると、今までの片付けの形を少し変えれば事足りる作業内容で、子供たちも面白がり、キチンと行えるということが分かると、安心して熱心に指導して下さる。そのお陰で、子供たちのぼかし和えは、すこぶる見事な出来映えである。
 学校によっては、ぼかし和えも、埋め込む作業も、給食委員だけをこの係りに当てたいと考えている。しかし、今や環境は「関心ある人が」とか「誰かが」やればいいというものではなく、「誰もが」取り組むべき協働の仕事だ」本会は考える。だから、全員に経験をさせたい。少なくとも一通り、一経験するまでは、ぼかし和え作りは「日直さんで」、土作りは「クラス全員で」を、お願いしている。

EMによるゼロエミッション効果
 言わずもがな、この事業の目的は、「良い肥料」を作ることではない。先ず、給食を食べきること。しかし、どうしても食べ残してしまったものは「EMを使って大地に還して有効活用しよう」というのが真のねらいだ。
 臭い臭いと騒ぐ子供等に「そんなに嫌?なら、全部食べきれば全然やらなくてすむよ」と、脅した(?)せいか、少しずつ食べ残しが少なくなってきているのが嬉しい。

調理員も食べ残しが少ないと、腕に撚りをかけるファイトが沸く」と話していた。作る人、食べる人の相乗効果、それがまた素晴らしい。
 そして、栄養バランスをよく考えて作られた献立を毎日食べきれば、体力がつくことは間違いない。未確認だが、この冬、風邪等で休む児童数に変化があっただろうか?好結果が出ていれば万々歳だが、果たして?

今後の課題
 何でも手で行うこの方法では、埋める段階、容器を循環させるところが一番ネックとなる。
 週5日制となって日数が少なくなった上に、最近は集団下校を余儀なくされる社会不安もあって、授業時間にはゆとりがない。さらに、総合授業も学力低下を招いたとして、教科学習へ回されるようになる。環境のような大きな視点にたつ取り組みに割り振られる時間は、今後益々少なくなりそうだ。
 しかし、理想どおりのゼロエミッションにならなくても、理科の植物育成観察とあわせた土作りとか、親子レクレーションに環境教育をはめ込むとか、いろいろ良い案は必ず出てくるはずだ。
 幸い牛久の小学校は、1校を除き市街化調整地域にあり、周辺には家庭菜園が広がっている。また、それとは別に、市でも放置農地の市民農園への転換活用を促進している。そのような菜園に、子供たちが作った「すこぶる見事な出来映えのぼかし和え」の有効活用協力を呼びかけても良いのではないか?試しに使ってもらったところ好評で、今まで生ごみを回収に出していた人々の多くが、子供たちを真似? ぼかし和えをするようになった。
 まだまだ課題は山ほどある。しかし、冒頭にある記事を常に念頭に、本会は本会なりの我が身の丈に合った「ささやかでも、確実な、より良い活動をしていきたい」と思っている。