特集 生ごみの有効利用
えむえむ関東90号より
=EMネット神奈川発=
神奈川県の生ごみリサイクル事情
      

小田原市では、「生(いき)ごみプロジェクト」開始
このセットが定価の
1割で買える市町村も
 昨年4月、神奈川県西部に位置する小田原市では、加藤憲一市長のマニフェストにより、生ごみ堆肥化検討委員会(公募市民4人・自治会1人・農業関係者2人・環境活動団体2人・学校関係者1人で構成)が発足した。毎日出している生ごみを資源としてとらえ、堆肥化して使う地域内循環のシステムを検討するためで、1年間の議論を重ね、今年の3月、中間報告書が加藤市長に提出された。
 人口20万人規模で生ごみ堆肥化の取り組みに成功している都市がない中で、どのような議論がなされ、どのような方法が採用されるか、注目されている。
 中間報告では、第一段階として、生ごみの排出源である家庭でできることから始めるとの考えから、ダンボールコンポストと、報徳小学校に設置してある大型生ごみ処理機の活用という二つの手法を採用し、身近な営みの中で堆肥化を目指すという。答申を受けた
 加藤市長は、「大掛かりな収集スキームを組んで堆肥化を進めるというアプローチも考えられるが、生ごみを極力出さない暮らし、出たとしてもそれを資源として活かしていく暮らし、そのような意識やライフスタイルの定着こそ、この課題の本質的な解決になるという皆さんの認識が提言に結実している」と話し、この春から、300万円の予算を組んで、生ごみ堆肥化モデル事業がスタートする。
 具体的には、4月以降ダンボールコンポスト(無料配布)にチャレンジする家庭1000軒を募ると共に、報徳小学校周辺の家庭が参加しての実験が始まる。また、生ごみを出さない家庭には、生ごみを入れないごみ袋が配布される。この場合は、ダンボールコンポストに限らず、電動生ごみ処理機、EMボカシ容器、庭に入れるなど堆肥化の方法は問わない。市民委員であり、養鶏家の笹村出さんは、「家庭での生ごみ処理がどこまで出来るか、モデル事業として、取り組みたい。ダンボールコンポストを、無料配布するのは、生ごみが消滅するスタイルで回収の必要がないから。堆肥化で一番の問題は、堆肥を入れる畑をどう確保するかにある」と指摘している。なお、今後このプロジェクトでは「生ごみ」を、「なまごみ」ではなく、「いきごみ」と呼び、生ごみの地域内循環に行政と市民で挑戦したいと抱負を語っている。

神奈川県では、個人の生ごみ減量・堆肥化を推進
 国土の総面積に占める農地面積の割合が約8%、その割合が45位で農地が少ない神奈川県での生ごみ堆肥化はどうなっているのかを調査してみた。
 神奈川県には29の市町村があり、全市町村で、個人で行う生ごみ堆肥化に対する補助金を出している。電動式生ごみ処理器はすべての市町村で補助金の対象になっている。JAが推奨する据付型のコンポストは、補助を打ち切る傾向にあるが、基本的には電動とコンポストの2パターンに対して税金が使われている。
 EMボカシによる堆肥化には、液肥が抜ける特殊な密封容器が必要だが、この容器に対して補助金をつけている市町村は、以下の通りで、13市6町となっている。
★ EM密封容器に補助金が出る市町村
横浜市・川崎市・横須賀市・逗子市・
鎌倉市・三浦市・厚木市・座間市・海老名市・相模原市・綾瀬市・茅ヶ崎市・藤沢市・寒川町・愛川町・二宮町・湯河原町・葉山町・箱根町
★ EM密封容器に補助金がつかない市町村
 (電動生ごみ処理機とコンポストのみ)
秦野市・大和市・南足柄市・小田原市・平塚市・伊勢原市・山北町・大磯町・開成町・清川村
EM容器への補助のつけ方は、市町村ごとに違う。鎌倉市では、購入金額の90%を補助する。たとえば、鎌倉市に本社がある潟Cーエムジャパン(以下、EMJ)で、生ごみ処理バケツセット(密封バケツ2基、EMボカシ4個 6,150円)を購入した場合、領収書を環境部環境課に提出すると5,535円が口座に振り込まれる。可燃ごみ50%削減を目標にする二宮町でも、90%の補助金を出している。町内の登録協力店から購入の場合は、町に申請せずに店頭で定価の10%を支払えばEM容器を手に入れることができる。鎌倉市では、EMに限らず生ごみ堆肥化についての講習会などは開催されていない。二宮町では、EMを含めて生ごみ堆肥化講習会を不定期に実施している。
 横浜市西区の場合、指定販売店から購入するものに限り、1世帯2基まで1基3,000円まで市が負担している。現在、西区役所主催の生ごみ堆肥化市民説明会が継続して行われている。EMでの堆肥化については、EMJが、講師として出向している。
 神奈川県でただひとつ「ゼロ・ウェスト」(ごみゼロ)宣言をして、平成29年には最終目的であるごみの焼却と埋め立てをやめる計画の葉山町では、EM容器2つとEMボカシ2個が1,000円で購入できる制度がある。21年度は、環境課主催の生ごみリサイクル市民説明会を公民館などで20数回開催している。EMについては、EMJが説明を行っている。現在、4つのモデル地区で手動式生ごみ処理機を無償で貸し出すなど、可燃ごみの約6割をしめる生ごみリサイクルは、ごみ0への最終目標として、家庭用生ごみ処理機の普及に力を入れている。
 補助金を出すだけでなく、容器の使い方、リサイクルの仕方にまでの説明会を行っている市町村では、実際に生ごみリサイクルを行っている市民が講師になっているケースもある。たとえば、横浜市青葉区と逗子市では、山本美千子さんが、茅ヶ崎市では、大前武さん、川崎市では吉田賢治さんなどEMネット神奈川の会員が活躍している。

生ごみを地域で循環できるか
 神奈川県で地域まるごと生ごみ循環のしくみづくりを実現した市町村はまだないが、秦野市と大和市には注目したい取り組みが行われている。
 秦野市では、2400世帯が電動生ごみ処理機でできた1次堆肥を回収して市内の畜産農家から出る牛糞などで2次発酵させ、市内の畑で活用している。堆肥の原料になる家庭の生ごみを出した家庭は、量に応じてトイレットペーパーがもらえるしくみだ(登録制)。
 大和市では、電動生ごみ処理機で処理された生ごみ(未熟堆肥)は、市内各駅などで回収している。この未熟堆肥は、市で2次発酵処理された堆肥は公園管理事務所が引き取り、市内の花壇の土に還されている。平成20年度、回収された生ごみの量は4月から12月の9ヶ月で約270kg。市で2次発酵処理して堆肥になったのは、約55kgという。

 有機農産物の普及と生ごみの堆肥化をすすめている特定非営利活動法人有機農産物普及・堆肥化推進協会では、昨年「家庭生ごみも食品リサイクル法の対象にすること」と「生ごみ堆肥を肥料法に位置づけること」を環境省と農林水産省に要請した。また、ツルネン・マルテイ議員を中心に家庭生ごみリサイクル法案を国会に提出する動きもある。この法案が実現すれば、地方自治体の責任で家庭生ごみがリサイクルされなくてはならない。家庭生ごみのリサイクルは、今までごみ減量政策を行なってきた従来の環境課の所轄では手に負えるものではなくなっている
 生ごみに対する発想を変えて、「循環」を意識した部署を作った市もいくつかある。たとえば、鎌倉市や逗子市の資源循環課、横浜市の資源循環局、横須賀市の資源循環推進課などで、これらの市では、家庭生ごみのリサイクルが法律的に整備され義務化された場合、すぐに受け皿となることが可能と考えられる。
 小田原市の生ごみ堆肥化事業の所管は環境課だが、回収して資源化するには農政課と連携するか、あるいは資源循環課の創設が望まれるところだ。
 
 今のところ、神奈川県の市町村は、電動生ごみ処理機をはじめ、コンポスト、EM容器など、市民が取り組んでいるであろう方法の費用を補助することで、「生ごみは出す人の責任で堆肥化(減量化)する」方向にある。この政策の基にあるのは、家庭生ごみの分別に対する不信感、生ごみ堆肥化のコスト問題、できた堆肥の農業利用など、ハードルが高すぎるという問題をいまだに解決していないことにある。
 また、都市の生ごみを農家が感覚的に受け入れられないという潜在的な問題も横たわっている。前途の小田原市生ごみ検討委員の笹村さんの「堆肥を入れる畑の問題」は、畑そのではなく、農家の生ごみ堆肥に対する意識も含んでいるといっていいだろう。現に西湘JAの職員は、「生ごみの堆肥、使えるかな」とあくまで消極的な返事しか返ってこなかった。しかし、小田原市の場合は、有機農業推進協議会があり、1次処理された生ごみ堆肥を受け入れて2次発酵させて畑に入れる実験も行なわれることになっている。市民サイドでは、専門家を招いて堆肥の作り方の勉強会も実施されている。市内の自然農法実践者である石綿敏久さんは、「痩せた土地を再生させるためには、生ごみのような有機物を入れていくことが有効だ」と話している。自然農法や有機農業を行なう農家にとって、生ごみを堆肥にする効果は土の腐植を増やすという点にあるのかもしれない。
 神奈川県内のEMを活用した特殊肥料生産業者を調査したところ、寒川町の金子養鶏場では発酵鶏糞、横浜市港北区で潟Rトブキ園ではEM菌ぼかし鶏糞堆肥(鶏糞・ヌカ・オガクズ・EM)、泣sックセンタージャパンではグリーンサイエンス(豚尿・おから・こぬか・EM)を製造販売している。こうしたEM発酵肥料を市民に口コミで伝えることもEMの生ごみ堆肥をすすめる上で効果的かもしれない。
 
もっとEMのよさを市民にアッピールしたい
 ところで、生ごみを資源として土に還し、
よりよい農産物を育てる鍵は、EMにあることは、いまさら言うまでもないことだが、まだまだたくさんの人たちに伝わっているとは思えない。ダンボールコンポストは、ダンボールの中にピートモスとくん炭を入れて、その中に生ごみを毎日投入して混ぜる。微生物の力で生ごみが分解され堆肥にする。電気を使わずに有機資材が1,000円程度で買えることで、自然派には人気だ。扱い方によっては、悪臭や虫の発生が見られる。あらゆる人が継続的に出来るかは疑問だが、EM生ごみ堆肥化にしても同じ問題を抱えて、地域全体にひろげていくしくみを構築できるまでには至っていない。具体的には、容器はインターネットなどで買えても、消耗品であるEMボカシがすぐに手に入らない。やり方を身近に教えてくれる人がいないという問題があって、やる気があっても手がでない市民が多いと思われる。
 小田原市でも、西湘EMわいわいネットの
メンバーが、隔月にEMボカシを作るなど地道な活動を継続している。EMの公共性をよく理解しているメンバーであるので、「いきごみ隊」に参加し、EMの社会化をはかる絶好のチャンスと考えるべきだろう。再度、EM生ごみ堆肥化のネットワークを強化して、できたら、EM生ごみ堆肥を生かす市民菜園を作ることも生ごみ堆肥化をすすめる突破口になると思われる。
 といっても、市民側にとって簡単に誰でもできることは、土に還せる生ごみを分別して、地域のごみステーションに出すことだ。市あるいは回収業者が生ごみを新鮮なうちに回収する。EM活性液をかけて乾燥させ、地域の有機資源と混ぜて堆肥にする。農業利用をすすめてもいいし、園芸センターの設置もいい。
三笠市や戸田市の事例をおおいにアッピールしたいところだ。
EM生ごみ堆肥を入れた公共の花壇