生ごみの有効利用
 
「えむえむ関東107号」より
=EMネット神奈川=
生ごみリサイクルでコミュニティガーデン
せせらぎ農園のちょっとしたコツを伝授
日野市 まちの生ごみ活かし隊

「都市を生ごみで耕そう」を合言葉に約2000世帯の生ごみを回収し直接畑に持ち込んで無農薬・無化学肥料で野菜や花を育てている市民グループ「まちの生ごみ活(い)かし隊」。
生ごみを燃やしたくない市民とおいしい野菜を自給したい市民が手を結んだ、きらりと輝く取り組みだ。
この生ごみを使ったコミュティガーデンを視察に訪れる人たちが増えている。

●ちょっとしたコツでうまくいく

 火曜日のお昼前、生ごみを積んだ軽トラックが日野市新井にある「せせらぎ農園」に入ってきた。手際よくメンバーが生ごみを広げていく。冬場のせいか、生ごみ特有のニオイはない。朝10時から、約100軒の家庭をまわり、回収してきた約300kgの生ごみだ。みかんの皮や白菜の外葉など、いかにも冬らしい食材が目立つ。食べ残しは入っていないせいもあって、「生ごみはきたない」というイメージをもっている人にとっては、「生ごみって意外ときれいじゃない」と思う光景だろう。今日は、スプーンなどの混入もないようだ。約20uの区画の土の上に、鍬を使って生ごみを広げ、表面に発酵を促すEMボカシをまき、生ごみを2回耕運機で土に浅く漉き込む。その上に落ち葉をかぶせ、雨よけのブルーシートで覆い、さらに鳥よけのネットをかぶせる。1週間後、浅く切り返しをして2週間程度おけば、生ごみは自然発酵して跡形もなくなり、ふかふかの土になる。養分が豊富になったこの土に、野菜や花の種を直接まいて育てる。収穫が済むと、再び生ごみを混ぜて土作りだ。実に効率のよい「いのちの循環農園」だ。

     
 各家庭の玄関前におかれた
生ごみバケツ
 手馴れた手つきで
生ごみを下ろす
 EMボカシをかけて
生ごみを広げる
     
 土と生ごみをまぜる 
子どもたちも興味深々
 落ち葉をのせる  網をかけて発酵を待つ

●生ごみ野菜はすごい!
 
 
 園児に野菜の話を聞かせる佐藤さん
家庭の生ごみを直接畑に持ち込む方法は、長崎県佐世保市のNPO法人「大地といのちの会」のやり方に学んだ。「生ごみ先生の元気野菜革命」などの著書がある同理事長の吉田俊道さんは、元農業改良普及員で、長年生ごみリサイクルによる野菜づくりに取り組んでいる。「野菜の皮や芯などミネラルやビタミンの多い部分の生ごみは、土の微生物を増やし、とても有効な肥料になる。さらに落ち葉などの草を入れると採れた野菜は栄養素が高く、食べた人が元気になる」菌ちゃん野菜を奨励し、長崎県だけではなく全国各地の幼稚園や保育園、小学校などの食育活動に取り入れられている。日野市にある5つの市立幼稚園でも、吉田さんの指導で生ごみリサイクルセミナーが開かれ、園児とその母親たちが生ごみを土にかえすことで微生物とつながり、食の意識を高めている。生ごみリサイクル野菜の栄養価については、九州大学大学院の比良松道一先生が科学的な研究をはじめた。活かし隊の代表の佐藤美千代さんも「この方法でつくる野菜はおいしく健康にいいことは実感としてわかっているが、なぜ生ごみを使った有機の土は虫や病気に強い元気野菜を育てることができるのか?がわかれば、もっと食への意識が高まるのでは」と期待している。

●小さな循環をつくる

「まちのごみ活かし隊」は、2004年に一般家庭生ごみを回収し、近くの牧場で牛ふんと混ぜ合わせて堆肥を作り販売することからスタート。2006年、その一般家庭生ごみ参加者の集まりの中から発足し、当初は地元小学校区域の生ごみリサイクルの普及を行っていた。2008年に堆肥化施設の牧場が閉鎖してからは、650坪の畑で生ごみを「土ごと発酵」させる方法に変更し、野菜だけでなく、お花も楽しめるコミュニティガーデンを始めている。
 生ごみは、周辺の約200世帯の協力を得て、週に計600〜700kgを回収。腐敗による悪臭を防ぐため、専用の蓋付きバケツと発酵を促す竹パウダーを配布している。竹パウダーや発酵促進に使うEMボカシも地元の福祉施設が製造、販売しており、すべて地域の資材を使っているのが特徴だ。
 生ごみを出す家庭は、年間2000円の活動費を負担し、発酵剤の竹パウダーやEMボカシは会員であれば、無料で受け取れる。行政は、「まちのごみ活かし隊」に年間120万円で生ごみリサイクルを委託している。この活動により、年間およそ50tほどの生ごみが、焼却されず肥料に変わっている計算だ。

 
 農園の力仕事を担う男性メンバー
 
 老若男女が集まってお食事タイム
 
 できた野菜はみんなで分ける
 
●都市を生ごみで耕す

毎週2回畑で行われる農作業には、近隣住民10〜20人が集まる。子育て中の主婦や定年退職した元会社員らが、一緒に農作業を楽しむ。日常的な農園の管理を行うのは、林光雄さんだ。60歳を過ぎてから、先祖代々の100坪の畑を耕し始め、その意欲を佐藤さんに高く買われ、「スカウトされたわけ。でも、なんだかはまってしまって、忙しい老後になってしまった」と笑う。
 このほか隊では、地域の子どもたちにサツマイモの栽培・収穫体験の場を提供しているが、この日は市の移動教室で、みさわ保育園の園児たちが、農園を訪れ、ブロコリーやダイコンの収穫や麦踏みを行った。麦踏みなど体験したことのない大人もいて、子どもたちも大人も真剣そのもの。佐藤さんは、「野菜や花を楽しめるだけではなく、子どもから老人まで地域のコミュニティー作りにもつながっている。生ごみは単なる生ごみではない」と手ごたえを感じている。「農地転用などの法律が厳しいので、なかなか、農園の広がりを見せない。農地利用がしやすいよう農地法の改正を求めたい。せせらぎ農園も援農という形をとっている。どこでも誰でもこうした農園を開設できると思う。生ごみを通して、地域の資源がつながり、食糧生産に貢献できればいい」と話している。かろうじて残っている都市近郊の農地も、生産者の高齢化で耕し手を失い、相続が起こるたびにどんどん宅地化されている状況だ。生ごみの受入先ともなる農地や緑地をこれ以上減らさず、空き地や休耕田を市民が耕せるしくみが課題だ。「農地は生ごみの捨て場ではない」という声は過去の話。おっとどっこい「生ごみ」は宝であり、「都市を生ごみで耕そう」というのは御伽噺でない。(報告:小野田)


※日野市は東京都のほぼ中央に位置し、北に多摩川、中央に浅川が流れ、南部はゆるやかな丘陵地で、新宿からJR中央線特別快速で29分、京王線の場合高幡不動駅まで特急で30分。人口178,731人世帯数82,169世帯の住宅都市。2000年からごみ有料化と戸別収集を始め、ごみ減量とリサイクルに効果をあげている。現在、ごみ焼却施設の立替えにあたり、単独の処理施設か、隣接する国分寺市、小金井市との3市共同処理施設にするかの議論が起きている。こうした中で「まちの生ごみ活かし隊」は、さらなるごみの減量を訴えている。