特集 自然農法とEM  
「えむえむ関東109号」より
=NPO法人EMネット神奈川=
ハウストマトにEM活用
どっさり穫れて、すばらしくおいしい

                                      神奈川県鎌倉市 小泉農園


 
「武家の古都・鎌倉」として世界文化遺産登録に立候補、残念ながら選考に漏れた鎌倉市は、神奈川県三浦半島西側の付け根に位置し、南は相模湾に面しています。
農家数は169世帯ですが、最近では、地場産野菜が「かまくら野菜」のネーミングで都会のマルシェにも並ぶようになりました。しかしながら、そのほとんどが慣行農法の粋を出ず、鎌倉市の有機農家はふたりとも3人とも言われています。そのひとりが、鎌倉市城廻でハウストマトを中心に有機栽培を行っている小泉章さんです。
小泉さんは、1967年生まれの45歳。ハウス面積17aと露地畑約30a。すべてEMを使い、有機無農薬で栽培しています。6月から8月まで収穫するハウストマトを主力に、冬は露地畑とハウスを併用して、ダイコンやニンジン、カブやレタスなど多品目の野菜を時期をずらしながら栽培しています。毎週金曜日、自宅の庭先の直売所で販売するほか、自然食品店にも出荷しています。
労働力は、家族3人の他に、週1~2回お手伝いをしてくれるメンバーが3~4人。ハウスで作るトマトは、ミニや中玉の他に珍しい色や形のものもあり、今年は25種類を栽培。小さいトマトは、収穫するのも大変で、早朝から始めて夕方になることもしばしばです。今でこそ、どっさり収穫できるようになりましたが、ここまでの道のりは、決して楽しいことばかりではありませんでした。
   
   


喘息に悩まされる

 
 
 
 
 
    
     EM二次活性液の作り方
 一次活性液(50倍液)10ℓ分
   EM1 200cc 糖蜜 200cc 40度くらいの
   お湯に溶いて全量で10ℓにして
   ペットボトルに詰めて、ホットカーペットで
   保温。5日くらいで完成。

 二次活性液(50倍液) 300ℓ分
   一次活性液 6ℓ 糖蜜 6ℓ
   40度ぐらいのお湯全部で300ℓになるように
   溶いてタンクの周りを毛布でくるみ、
   ホットカーペットで保温。
   5日くらいで完成。

小泉さんは、高校卒業後就農し、親子でトマト、キュウリのハウス栽培に取り組みました。この頃のハウスの土は長年の連作障害で青枯病など、土壌病害に悩まされていました。そんな時にお客さまから紹介されたのが、EMです。さっそく、試験的に使い始めました。
1992年、第1回三浦半島生産者向けEM勉強会で、比嘉照夫教授に質問する弱冠21歳の小泉さんの姿が写真に残されています。
ところで、小泉さんが、高校時代にもっとも影響を受けたのが、映画「風の谷のナウシカ」。行き過ぎた人類文明の最終戦争で崩壊した地球にやがて、地上には瘴気(有毒ガス)が充満する腐海と呼ばれる菌類の森。そこに生息する蟲(むし)などの新たな生態系が生まれ、それから1000年余り、僅かに残った人類は、昔の文明の遺物を利用して細々と生き残り、そのひとつの小国「風の谷」の少女ナウシカが、腐海誕生の秘密を解き明かし、人類と自然の共生の道を探っていくという物語。「人類と自然の共生」というこの映画は、小泉さんのバイブルでもあり、人生のテーマとなっています。小泉さんの関心も、腐海を構成する微生物に向かっていました。

農薬を使わない農業を目指して

小泉さんは、子どもの頃から喘息があり、大人になってからも季節の変わり目になると発作が出て苦しんでしました。そんなこともあり、農薬を使わない農業ができないだろうかと考え続けてきました。EMを使い始めた頃は、失敗の連続でした。今のように使い方のマニュアルもなく、どう使うのかも手探り状態。ただ、EMを使うと食べたらおいしい。そこが何より気になりました。EMをすすめてくれた方の紹介で、自然農法士の榊原敬市先生が指導してくれることになりました。
しかし、EMによる無農薬栽培も一進一退で、体力も経営も細っていく時期が続きました。農作業に復帰しても、午前中働くと午後は疲れて動けないといった生活が2~3年続きました。この頃、EMの普及技術も各方面に広がり始めていて、EM活性液を作り始めました。2002年頃から、ハウス内に水を張り、田んぼのようにしてEM活性液を流し込み、土作りを始めました。少しずつ、成果が上がり始めた頃、お父さんが亡くなりました。ちょうどその頃、西日本の方から勢力を広げてきた黄化葉巻病が関東圏でも発病し始め、小泉さんのハウスでも発生してきました。2007年には、この病気でトマト全滅。比嘉先生に対策を相談したところ、「EMを育苗の時から徹底的に使い、病気が入るスキを与えないように」と教えられました。
翌2008年の原油高を機に暖房費のかかる冬越し栽培を止め、それと一緒にハウス内をすべて不耕起栽培に切り替えました。トマトやキュウリだけではなく、色々な野菜を混植して育てる試みを始めました。比嘉先生の教えに従い、EMを徹底的に使って病気に負けないトマト栽培の試験を続け、十分な成果が見えてきました。2009年には、比嘉先生が初めて小泉農園を訪れ、EM活性液作りにお墨付きをいただきました。

効いても、もっと使う

さらに転機になったのは、2011年3月11日の震災でした。福島第一原発事故で関東全域に放射性物質が降り続ける現実。EMが放射能に対して有効であることを知っていた小泉さんは、すぐにEM活性液の量を増やしました。EM活性液の生産量を毎週100~200ℓから600ℓに増やし、100倍の希釈液かん水と葉面散布。撒き切れない分は、ハウスや畑の通路へEM活性液原液でジャンジャン撒きました。EMの投入量を増やしてから、畑の様子が一変し、立ち姿が変わってきました。そればかりではなく虫の発生が極端に減り、「EMを撒きさえすればいい」という至極簡単すぎるため、なかなか実行できなかったことが、放射能という危機で行動に移せたわけで、「不幸中の幸いというのかな?何が原因でも、良いことに転換できてよかった」としみじみ話してくれました。「比嘉先生は、EMは効くまで使えと言うけれども、効いてからジャンジャン使うと次の現象が見えてくるから面白いです。十分おいしいと思っていた食味も、さらによくなっていく感じがするのですよ。」と効くまでの先にある世界を覗いたようです。

小泉さんの農園は、山林に囲まれた場所にあり、自宅まわりの山林から竹を切り出し粉砕して畑へ有機物として入れています。また、刈った草や落ち葉も集めて畑に敷き詰め、EMの棲みやすい環境を整える努力を日々続けています。EM生ごみバケツから出る液肥も、バケツの蓋を開け、上からEM活性液を入れて通すことで何回も液肥が抽出できるそうです。「1回に1ℓずつ入れて、5~6回は通せますよ。」このやり方のおかげで、とうとう肥料も買わなくなりました。外から買うのは、EMと糖蜜、米ヌカ、バーク堆肥程度。「EMを上手に使えば、いくらでも経費の削減ができるから面白い。」と話してくれました。
小泉さんは、今年EMネット神奈川の理事に就任し、農家としても地域のEM推進リーダとしても大いに期待されています。ちなみに跡継ぎの息子さんは農業高校で勉強中で、本物「かまくら野菜」の未来は明るいようです。


   小泉流EMトマト栽培

 ①種子処理 
  EM500倍希釈液にEM7を1万分の1入れたものに5分漬ける。長くてもよい。
  ふき取って、セラミックをまぶす。一晩寝かす

 ②苗づくり
  自家製育苗土を使い、EM活性液の10倍希釈液をたっぷり染み込ませてから、一晩おいて種まき。
  発芽後は毎日EM活性液の100倍希釈液を霧吹きで散布。かん水にも。

 ③定植 3月
  EM活性液の100倍希釈液にポット苗をどぶつけしてから定植。1日おきにEM活性液の100倍希釈液  にEM7を1/10万、EMセラミック(発酵セラC)1/3000~5000を混合したものを葉面散布。通路にEM  活性液の原液を直接まく。成育を見ながらEM生ごみ液肥も通路にまいて追肥とする。