特集 自然農法とEM  
「えむえむ関東128号」より
=EMネット山梨=
農業をしてクリエイティブに生きる
                                   北杜EM研究会 水谷多呂


   プロフィール

北杜EM研究会 水谷多呂
1976年東京生まれ。2004年、山梨県北杜市白州町に移住し、現EM北杜研究会理事の中山行雄氏に師事。
農業研修生としてEMを活用した農業・きのこ栽培を学び、2008年に独立、「白州・山の水農場」を開業。
専業農家として菌床きのこ栽培・EM農法による無農薬コシヒカリ・有機野菜栽培を中心に家族で農業経営を営んでいる。
2013年「明日のやまなしの農業を育てるナイスカップル賞」受賞。現在「白州道の駅生産者組合」組合長。「農業をしてクリエイティブに生きる」挑戦継続中。 
 
山梨に移住し15年、師匠の中山行雄氏の元でのEM技術を活用した農業修行を経て、土壌を健康に保ち、健康な農作物を育てることの大切さ、自ら栽培した愛着のある食べ物を大切に食べるという心身ともに健康な暮らしの重要性を認識しました。
独立後は、自分の経営する「白州・山の水農場」の仕事に加えて、これまで耕作してきた田んぼや、耕作放棄地を借り受けた畑を舞台に、「北杜EM研究会・EM農法実践クラブ」として7名のメンバーとともに、心や暮らしが豊かになる「楽しむ農業」を実践する取り組みをスタートさせました。

専業農家として農業で収益をあげ生活していくという毎日は、日々の農作業に追われ合理的に効率的に農業をしていくことが必要になり、農業で遊ぶ気持や、とことん楽しむ気持ちを忘れがちですが、農業を常にワクワクした新しい気持ちで取り組んでいくことこそが、農業を継続していく上でなにより大切なことだと思っています。北杜EM研究会・EM農法実践クラブでの農業活動の時間が、農業のもつ
「作り出す喜び」「食べる喜び」「新しい挑戦の感動」を、新鮮な気持ちで味わうことができる大切な場になっています。
主な活動は、「米」と「大豆」と「麦」の3本柱。そして今年は3つの柱に加えて、ウド栽培・直売所づくりと新しい挑戦が増え、充実した大人の遊び場になっています。
その取り組みをご紹介します。

 

①EM栽培完全無農薬米づくり
 
 
 
 
EM農法実践クラブメンバーは7名、毎年4月に、皆で種まきをして、育苗をし、田づくりをします。5月に田植えをし、それから日替わりの当番制で水の管理をし、皆で稗取りや草刈りに勤しみます。収穫して、羽釜で新米を炊き「新米パーティー」をして、食べる喜びをわかちあうところまで、大切に取り組んでいます。
共同で管理する約4反の田んぼは、師匠が20年以上前から「EMボカシ」と「EM活性液」をふんだんに使用して大切に管理した田んぼをお借りしているもので生き物の宝庫です。幻といわれるホウネンエビや、絶滅危惧生物リストにも指定されるコオイムシが泳ぎ、畦には野蒜やセリが自生し、野生の鴨が畦に巣作りにやってくる環境豊かな田んぼです。白州の名水が流れる美しい水路を農薬で汚す事無く、循環型農業として理想的な栽培環境に保っています。
完全無農薬での栽培は、ヒエ抜きとの戦いです。そして、病気が近づかない健康な土づくりが要です。7名のメンバーで定期的に集まり、田にはいり、泥の中を歩いてまわり、ヒエなどの雑草を抜いています。肥料は、牛糞と「EMボカシ」など4?6種類で、毎年配合や内容を調整して、収穫の量と質の向上に努めています。昨年の収穫後にレンゲを撒き、2017年度は草肥の効果を試しています。
 毎年、収穫後には、ともに喜びをわかちあう新米パーティーを開きます。羽釜で新米を炊き、秋らしい旬の収穫物や料理を持ち寄り、その年の新米の味わいを皆で吟味する至福の時間です。
 収穫後の藁も大事に使います。完全無農薬栽培の安全安心な藁は、納豆づくりなどにも活用します。今後は、草鞋や正月飾りなどの農村に伝わる伝統的な加工も学べたらと思っています。
 日々の主食を自分たちで育てた無農薬EM栽培のお米でまかなえる喜びと豊かさこそが、汗を流した労働の対価です。

②完全無農薬EM栽培大豆づくり
味噌・豆腐づく

 
 
 
 
お米と同じく、農村生活の基本の作物といえば、「大豆」。この「大豆」を完全無農薬EM農法でつくってみようと、取り組み始めたのが4年前。最初は2名で、できなくてもしょうがない!と挑戦しました。地域の農家の大先輩に教えてもらったり、お手伝いしてもらったりしながら収穫期をむかえました。虫に食われる事なく大粒の大豆が育ち、「これは無欲の勝利というものだ!」と大喜びしながら、愛しい大豆を収穫しました。脱穀も昔ながらの手作業で、大先輩の農家の方にお借りした秘伝の棒で叩き、立派な大豆を取り出しました。
その冬には、自分たちのEM米で麹をつくり、収穫したEM大豆で味噌づくりに挑戦、60キロの味噌を仕込みました。
大豆づくりは、翌年もその翌年も継続し、メンバーも増え、大豆の脱穀機や選別機も借りることができるようになったりと、年々、生産体制は進化していきました。毎年、大豆の出来はよく、味噌づくりが恒例の冬の行事となりました。
2016年は味噌づくりに加えて、豆腐づくりにチャレンジし、甘やかで美味しい香り豊かなEM大豆の豆腐が出来上がりました。豆腐をつまみに、皆でお酒を呑んで、楽しい豆腐パーティーも開きました。
農業修行時代に学んだ、自ら栽培した愛着のある食べ物を大切に食べるという心身ともに健康な暮らしに必要な、加工技術を得ていくことができる大豆栽培への挑戦は得る事の多い取り組みでした。 
ここ数年挑戦し、まだ上手にできないものもあります。それは、納豆づくりです。できそうでできないことも、大切な農業体験です。農業研修のとき、中山師匠がよく言っていたのは、「プロ野球でどんな有名なバッターでも、3割くらいしか打たないんだ。全部が成功するわけない、それでいい」ということ。言葉通り、師匠はいろんな作物や農法にチャレンジしていました。勉強して試して勉強して試しての繰り返しをしている行動力・実践力の溢れる師匠の姿から農業の基本を学びました。全部が成功することを求めるのでなく、挑戦と行動を、繰り返し、何かが生まれてくるということが大切で、それこそが豊かさだということです。うまくいくかわからないことも、やってみよう!と仲間といろんな挑戦ができることに感謝しています。そして確実に、日々食べる美味しい米があり美味しい味噌があり、生活は豊かになっています。
 
③小麦・大麦づくり
石窯でパン作り「パンパーティー」

 
 
 
 
 
現在、多くの農村と同じように、山間の過疎地域である白州町でも、高齢で耕作管理できなくなったので畑を使って欲しい、という声が多くなり、継承者不足で農地が空き、耕作放棄地が増えてきました。
専業農家として農業経営をしながら耕作する畑を増やす事は、利益や採算を考えると引き受けることは簡単なことではありません。しかし、退職して暮らしを豊かに楽しむために移住したEM研究会のメンバーがより暮らしを楽しむための農業として何か新しい作物に挑戦するという意味合いで、耕作放棄地になりそうな場所を借り受け共同で耕作することは、価値のあることだと、畑を借りたのが、EM栽培麦づくりのスタートでした。
「EMボカシ」と「EM活性液」を使い、土を耕し、小麦と大麦の種を撒き、メンバーで草刈りや管理をしながら、麦を栽培。品種は国産種の小麦「ゆめかおり」。強力粉よりの中力粉で、思いのほか、順調に豊かに実り、麦の収穫は、ベテラン農家に相談して、機械を貸して頂き、専用の製粉機で製粉までしてもらいました。
完全無農薬EM栽培の貴重な小麦・大麦のある生活は、思うより豊かなものでした。家にあるパン焼き機で美味しいパンを焼けるのはもちろん、大麦はフライパンで焙煎して香ばしく味わい深い麦茶にもなりました。安全で香り豊かな美味しい夏の麦茶は、心も体もリフレッシュできる嬉しい農産物でした。十分に麦の恵みを享受することができました。収穫した麦は皆で分け合いました。
収穫時期には、EM農法実践クラブのメンバーのOさんが経営するペンションの美しい庭で「収穫祭・石釜パンパーティー」を開きました。
白州へ移住してきた経験豊かなメンバーのアイデアやスキルがこの活動をより豊かにしてくれています。
胚芽の少しまじる茶色い小麦粉で、シェフの経験のあるメンバーのS君が丁寧にパンを焼き上げました。栽培する喜び、食べる喜び、そのものがつまった素敵なパーティーになりました。大切なのは、つくって食べるという行為を、とことん大切にして、生きる喜びのひとつとすること。
メンバーにはその想いがあるので、ツライキタナイと言われる農作業を楽しみ、EM農法という安全で健康的な農法にこだわり、その楽しみを美味しい「食」を介してわかちあう喜びを知っています。
農村暮らしをさらに深く楽しむことができる素敵なことだと思います。
そして、この麦づくりは、新たな耕作放棄地の活用方法のひとつの形としての価値だと感じました。

④山菜栽培スタート
EM栽培農産物直売所づくりへむけて
 「米」「大豆」「麦」という生活の基本の作物に加えて、2017年は、高齢で耕作できなくなったという美しいウド畑を地域の農家さんから借り受け、皆で耕しはじめました。次々と農家が引退していく農村で、利益追求型では残っていきにくい魅力ある作物の生産技術を継承しながら、自分たちも楽しめ、意味や価値を生み出せる活動をしていきたいと思っています。
 毎年収穫できるウドの収穫と販売をどのような形で運営するか、分担や分ち合い方は、メンバーと都度新しく創造しながら、まずはメンバーが楽しめること・利益を分ち合い・分配できる事を何よりも大切に、継続できるかたちを模索して活動していきたいと思っています。
 2017年度はさらに、田んぼ横の雑地スペースに、小さな直売所をたてて、季節限定の素敵なEM栽培農産物の小さなshopをつくろうと思っています。やりながら、考えながら、動きながら、協力しながら、を大事にして、新しい挑戦を楽しんでいきたいと思います。
安全にそして美味しく…を実践するためのEM活用。土壌と自分だけでなく仲間も一緒にハッピーにできる活用法だと思っています。

 師匠から学んだ農業の魅力の原点を大事にしながら、自分の目指す「農業をして楽しく生きる」を、遊び心と仕事人の心を両方持ちながら、自由な感性で農業に取り組めるEM仲間との農業実践、これからもこの場を大切にしていきたいと思っています。