農業の醍醐味.25回


はじめに
今号では、徳島県三野町の三野町有機農作物生産組合を中心として、町おこしについて取り上げさせていただきたい。三野町へは昨年11月下旬、横浜大会での発表依頼と下原稿を書くための取材で訪問した。三野町は、四国のほぼ中央に位置し両側から山が迫る四国三郎・吉野川の中流域に当たる中山間の農業地帯である。人口約1,660世帯、5,200人で農家数は558戸、そのうち8割は兼業農家だ。一戸当たり耕地面積は、77aと郡内では最も広く気候的にも恵まれている。主栽培作物は水稲、露地ナス、ハッサク、たらの芽、タマネギ、キャベツ等である。三野町有機農作物生産組合は、平成10年5月設立された。組合長は現三野町農業委員会会長の宮内和春さんで、メンバーは、元三野町議会正副議長で現職の議会議員、元農業委員会会長、元婦人会副会長、学校の元先生、現農業委員会副会長、専業農家等11名で始めた。
 組合設立の願いは二つあった。中山間地の活性化を願い、自然農法を中心とした有機の里づくりであり、中でもこれという特産品のない町に全国に通用する特産品を作りたいと言うのが一つ。もう一つは若者が定住し、後継者が生まれることであった。もちろんこの活動の動機にはEMを活用した自然農法への取り組みがあったからであった。

三野町有機農作物生産組合の活動
 三野町有機農産物生産組合の最初の取り組みは、「有機農産物生産地」という組合の圃場を設け色々な作物を育てる実験から始まった。また、組合員一人一人が水稲や野菜、「あまご」の養殖等、EMの活用に取り組んだ。
 米作り3年目の昨年は、10aあたり570kg収穫した。地域の平均は480kgであった。収量、品質とも大変良く徳島の病院から通常の倍の値段で買って頂いた。今年の注文にも応じきれないでいる。そのように、水稲と野菜栽培には自信を深めた。
 小学校の授業の中でも自然農法が取り入れられ、収量や味に生徒が感動し子供たちとの交流も始まっている。
 次に取り組んだのは、生ごみボカシあえの運動であり、家庭菜園の取り組みであった。最初は婦人会を中心に、ボカシは他から購入して取り組んだ。その後、生ごみボカシあえの実施者が増えてきたので組合でボカシを作り始めた。
 出来たボカシは町の厚生課が窓口となって、各地域の婦人会を通して配布されている。町の厚生課に毎月末までに各地域の婦人会を通して注文があり、毎10日までに婦人会に配布している。500g300円で(内200円は町が負担している)お金の集金は各婦人会が行っていて、毎月300袋前後出ている。生ごみボカシあえ実施者は現在町の全世帯の1割から1割5分ぐらいになっている。現在でも、町内の婦人会から米のとぎ汁発酵液の作り方を含め、生ごみボカシあえの講習会の依頼が来ていて、更に活動の輪が広がっている。

町との連携による活動
 組合と町との繋がりは、まず町長さんが組合の発展に全面的に力を注いでくれていることである。組合の事務局は町役場にある農業委員会の事務局長に兼ねてもらっている。町との連携が取りやすくなっている。町から10万円の補助金が出ている。
 町との繋がりは主厚生課(生ごみボカシあえの活動で前述)と産業課である。産業課との連携は多岐に亘っている。
 一番大きな連携は、中山間地域整備事業の一環である農業公園整備事業である。組合が中心となってこの整備事業を提案し町が受けた。町内の10の地域に家庭菜園と試験田を作ることを計画し、維持管理は組合に任され、客土等の工事は国と町が行うことになった。家庭菜園を自然農法を中心に実施したいと思っている。
 そしてその中心に国55%、町45%の補助金による活性化センターを建設している。
 これは約450の多目的な建物で、組合が設計等中心的な役割を果たしながら1億2千万円をかけて完成を目指している。完成は今年(平成14年)8月を予定している。備品のトラクター等は町が補助することになっている。
 活性化センターは、町営デイサービスセンターと併設している三野町の保養施設(紅葉温泉)がある町のリゾート地域にある。そして、市民農園の用地としいて2000uの用地を当ててくれることも決まった。
 これらの施設が出来れば、有機農産物の二次加工品作りや研修拠点となり、有機農業の活性化に繋がるものと期待している。
 また、町が若者定住用の住宅を建設し、そこに入居した人達に遊休地を試験田にし、年間500円から1,000円程度で提供し有機農業に親しんでもらうよう企画している。現在2地区で建設が始まっている。
 その他産業課との連携について挙げてみると、町は今年5月の完成を目指して「道の駅」建設を進めている。「道の駅」の名前を協議した中で、議会議長さんは「有機の里」とつけてはと提案されたが、組合では時期尚早、もう少し有機農業が充実してからと答えた。
 その他、これらの計画として、吉野川に沿って広がる長さ3km・巾50mの県指定の1級河川(通称「亀池」)の浄化を考えているという。化学肥料・農薬や家庭排水により、ヘドロが堆積し汚染が進んでいる。その浄化にEM活性装置の導入を計画している。町との話も進つつある。
 更に近い将来、町内の病院、学校、老人ホームから出る残飯(2日で1トン)をシルバー人材センターの協力を得て回収し、有機肥料にすることを計画している。  現在、残飯のごみ処理に町が年間8,000万円前後の費用をかけている。これを軽減し更に農業に生かしていきたいと計画している。この様に町民の生ごみの堆肥化に併せて様々な組合の取り組みに対する期待は大きなものがある。

今後の取り組み
 第7回自然農法・EM技術交流会横浜大会には副組合長さん始め、町役場からも発表への応援に来ていた。町長さんも参加を楽しみにしていたとのことであったが、葬儀で来られず残念がっていた。一緒に発表した宮崎村の木村村長さんの発表に刺激され、町長さんを先頭に宮崎村に負けないよう発展させたいと言っていた。
 農業委員会では利用集積という制度を生かして農地の有効利用を推進しているが、もっと大切な農業委員の仕事は農業の活性化にある。その精神を組合にも生かしてゆきたいと言っていた。それは年々増加していく遊休農地を有効利用し、有機農業による町の特産品を育てることである。遊休地を利用しての町おこしは、文化をも育む夢のある仕事になると言っていた。この様に、組合員11人が力を合わせ、知恵を出し合って、環境問題に取り組み、有機農業を通して町の活性化を図り、若者も住む、住んで良かった、夢を育む町「三野町」に変化、成長してゆくことを楽しみにしていた。
 横浜大会で宮崎村の木村村長さんが発表していたが、平成6年、村長になった時の村の財政は3,000幾つかある市町村の中でも最も一人当たりの借金が多い行政の一つであり、医療費は福井県で最も多い村であったという。その村が、平成14年の現在、財政は健全化され、医療費は福井県で最も少な村になったという。税金が増えたり、補助金が増えたわけではない。まず村民の苦情に耳を傾け、EMで集落排水の浄化に取り組み、環境問題に取り組み、村民のアイデアにより、農業や陶芸等に取り組むことによって、特産品が産まれ、観光客は増え、人口も増え、交通事故は減り、争いはへり、健康になって皆にこにこしているという。村おこしには金や物でなく、自然とか命、心など目に見えないものを大切にすることであり、住民のパワーを生かすことだと言うことを学ばせて頂いた。三野町も本当に夢のある町になると思った。


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